趣味とビジネスの交差点 ~着物業界の財務・雇用を考える~
はじめに
第3部では、賃金改定に伴って発生する「賃金逆転現象」や「年収の壁によるシフト減少」への労務対策について解説しました。
人件費という固定費が増加する中で、企業が利益と資金を維持するために必要なのが「適切な価格転嫁」と「財務構造の見直し」です。しかし、公的データによれば、多くの企業が取引先との価格交渉に苦戦しています。
第4部では、厚生労働省・中小企業庁のデータを交えながら、労務費の価格転嫁を実現させるための方法と資金繰り対策について考察します。
労務費における価格転嫁の現状
賃上げを確保するためには、上昇したコストを販売価格や受注単価に反映させることが不可欠です。しかし、現実的には課題があります。
1.公的データに見る価格転嫁の現状
中小企業庁が発表した2026年3月の価格交渉促進月間フォローアップ調査によると、以下のようになっています。
- 価格交渉の実施率:90.7%の企業で交渉が行われており、交渉自体は定着
- 全体の価格転嫁率:一方、コスト上昇分全体の転嫁率は54.2%
- 労務費の価格転嫁率:原材料費の転嫁率55.7%に対し、労務費の転嫁率は50.0%に留まる
原材料費に比べて人件費は「経営努力で吸収すべきコスト」と発注側から反論されやすく、転嫁交渉が難しいことが浮き彫りになっています。
2.「労務費指針」を活用した3つの交渉ステップ
公正取引委員会が公表している「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」では、発注企業に誠実な協議に応じるよう求めています。
この指針を活用した交渉ステップは以下の通りです。
【ステップ1】根拠データの可視化
単に「最低賃金が上がった」だけではなく、該当作業時間、社会保険料等の会社負担増(約16%)を含めたコスト増加分の具体的な試算資料を作成。
【ステップ2】指針に基づく協議申し出
指針を元に、業界平均値ではなく自社の数値を提示して協議を申し出る。
【ステップ3】取引条件の見直し交渉
単価アップが難しい場合は、納期の緩和・平準化や配送便数の簡略化など、トータルコストを削減できる条件をセットで提案する。
資金繰り安定策
価格転嫁の交渉には一定の時間を要します。その間、資金繰りが悪化しないよう、対策を併行して進めることが重要です。
1.手元流動性の確保
まずは、「手元資金の確保」です。
既存の短期借入を長期へ借り換える、あるいは短期調達枠の確保するなど、資金ショートを防ぐ対策を検討します。
2.労働生産性を高める「業務改善、設備・IT投資」の検討
人件費上昇の根本的な解決策は、労働生産性を高めることです。
業務見直しやITツール導入・設備投資によって省人化・省力化を図り、生産性を向上させることで収益力改善に繋げます。
まとめ
人件費の上昇分を自社だけで吸収するのは限界があります。
指針等を根拠に客観的データに基づいた価格転嫁を進めると同時に、財務基盤の強化に取り組むことが必要です。
【今回のポイント】
- 労務費転嫁率は50%に留まっており、客観的データの提示が鍵
- 指針を活用し、増額根拠を可視化して交渉する
- 単価交渉だけでなく、納期緩和や効率化など取引全体の改善を模索する
- 調達手段の見直しや省力化投資により、資金繰りの安定性を高める
第5部では、助成金などの公的制度の活用法と、全体の総括を総括します。
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