【第5部】賃上げ原資を確保する公的支援と労務の対応

江崎充豊

江崎充豊

テーマ:経営


 こんにちは、マネジスタ湘南社労士事務所です。

はじめに

 4部を通じて、「最低賃金改定の概要」「財務インパクト」「労務リスク」「価格転嫁・資金繰り」について解説してきました。
 第5部では、「企業が利用できる公的助成の活用術」と「賃上げを成長に変える戦略」について解説します。

企業が活用する助成金

 賃金引上げにおいて効果的な支援制度が、業務改善助成金とキャリアアップ助成金です。

業務改善助成金(生産性向上と事業場内最低賃金の引上げ)

 事業場内で最低賃金を引き上げ、あわせて生産性向上に資する設備投資等を行った場合に、その費用の一部を助成する制度です。

対象となる取り組み例
 POSレジシステム導入による会計効率化、自動化機器の導入による作業時間短縮、クラウド会計やCRMの導入など
助成率・助成額
 引き上げる賃金額や人数、企業規模に応じて助成率が適用

 改定に伴って時給を引き上げるのであれば、改定前に助成金を申請し、設備投資を行いながら計画的に時給を引き上げることで、投資費用の一部を助成金でカバーすることができます。

キャリアアップ助成金(賃金規定等改定コース)

 有期雇用労働者やパート・アルバイト等の処遇改善を図る企業を支援する助成金です。
パートタイマー等の基本給手当の賃金規定を一定以上引き上げた場合に助成されます。賃金改定に合わせて社内の賃金表を再設計・改定する際に有効です。

助成金活用時の「財務上の留意点」と「攻めの組織づくり」

1.助成金活用における財務の注意点

 注意を要するのは、「助成金受給のタイムラグ」です。
助成金は原則として「後払い」であり、申請から実際に資金が口座に入金されるまでには数ヶ月〜1年程度の時間がかかります。
 そのため、助成金が入るまでのつなぎや設備投資の負担について、あらかじめ銀行へ相談を行うことが不可欠となります。

2.「防衛の賃上げ」から「攻めの組織づくり」へ

 時給を引き上げると同時に、評価制度の整備や業務フローの見直しを行い、「生産性の高い働き方」に見直すことで、優秀な人材が集まり利益率が改善する好循環を生み出すことができます。

まとめ

 5回にわたり、令和8年度最低賃金改定(全国加重平均1,176円)の衝撃と、企業が取るべき財務・労務対策について解説してきました。

【全5部を通じたポイント】

  • 影響の把握:時給55円増の影響を、法定福利費を含めてシミュレーションする
  • 労務環境の整備:社の賃金逆転を防ぐ手当設計と「年収の壁」対策を講じる
  • 価格転嫁:「労務費指針」に基づき、客観的データをもって取引先と交渉する
  • 資金繰りの確保:手元流動性の確保と省力化投資への資金準備を行う
  • 公的制度の活用:助成金等を活用し、賃上げの原資を確保する


 最低賃金の引き上げは試練ですが、経営構造を見直しや収益力と組織力を高める「変革の機会」でもあります。

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江崎充豊
専門家

江崎充豊(社会保険労務士)

マネジスタ湘南社労士事務所

現役銀行員としての財務分析力、社労士としての労務知識を融合させ企業を支援。資金調達や事業計画、人事労務体制整備からデジタルツール導入まで、経営者が本業に集中できる環境作りをアシストする。

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