【もしもシリーズ第3回】赤点からの逆転劇 ~野木 伸太郎CFOの場合~
はじめに
企業の持続的な成長には、「働く従業員が最大のパフォーマンスを発揮できる労務環境整備」と、それを支える「財務基盤の安定」が不可欠です。少子高齢化・人口減少が加速する時代、限られた人的リソースの属人化を排除し、生産性をいかに向上させるかが企業の命運を握ります。
こうした中、令和8年(2026年)10月1日よりパートタイム・有期雇用労働法が改正され、同一労働同一賃金への取り組みが強化されます。
平成32年(2020年、中小企業は2021年)の制度導入から5年が経過し、制度の定着とさらなるルールの明確化・義務化の強化が図られることとなりました。
今回は、この法改正の概要と、企業がとるべき対策について解説します。第1部では、今回の法改正の全体像を整理します。
同一労働同一賃金とは
同一労働同一賃金とは、正社員(通常の労働者)と非正規雇用労働者(パートタイム労働者・有期雇用労働者・派遣労働者)との間で、不合理な待遇差を禁止する制度です。厚生労働省の「同一労働同一賃金ガイドライン」等をベースに、以下の3つの基本原則で構成されています。
均等待遇(パート・有期法第9条)
職務内容(業務内容+責任の程度)と「配置の変更範囲」が同じ場合、すべての待遇において差別的取扱いを禁止する。
均衡待遇(パート・有期法第8条)
職務内容、配置の変更範囲、その他の事情を考慮し、不合理な待遇差を禁止する。
説明義務(パート・有期法第14条)
労働者から求めがあった場合、正社員との待遇差やその理由を説明しなければならない。
令和8年10月からの主な改正点
今回の改正は、これまで曖昧になりがちだった境界線を厳格化し、企業の「不作為」を許さない仕組みとなっています。主な改正点は大きく分けて以下の3つです。
改正その1:雇入れ時の労働条件明示事項の追加
従来の明示事項に加え、雇用契約の際に以下の2点を書面等で明示することが義務化されます。
- 正社員との待遇差の内容・理由等に関する説明を求めることができる旨
- 相談窓口(部署名、担当者、連絡先)
【罰則】
労働条件の明示義務に違反した場合、10万円以下の過料が科される可能性があります。
「知らなかった」では済まされません。
改正その2:同一労働同一賃金ガイドラインの改定
各種待遇(基本給、賞与、各種手当、福利厚生等)がさらに明確化されました。
最高裁判所の判例の傾向を反映し、「問題となる例」「問題とならない例」が具体的に示されています。
改正その3:雇用管理指針の変更
事業主が講ずべき措置の内容が具体化され、企業に対して「形式的な対応」ではなく、より「実効性のある雇用管理」が求められるようになります。
ガイドラインが示す「待遇」の範囲と判断基準
不合理な待遇差の有無は、下表の通り多岐にわたる項目でチェックされます。
| 区分 | 主な項目 | ガイドライン、原則的な考え方 |
|---|---|---|
| 賃金関連 | 基本給 | 能力・経験・勤続年数など、支給目的に応じた相違でなければ不合理とされる |
| 賃金関連 | 賞与(ボーナス) | 業績への貢献度に応じた支給の場合、非正規にも貢献度に応じた支給が必要 |
| 賃金関連 | 各種手当 | 通勤手当・食事手当・役職手当など、特に通勤や食事は「同一事業所で働く以上、差をつける理由は原則ない」とされる |
| その他 | 福利厚生 | 食堂、休憩室、更衣室の利用、慶弔休暇の付与など、原則として同一の利用・付与を認めるべき |
| その他 | 教育訓練 | 職務に必要な能力開発の機会は、雇用形態にかかわらず均等に付与 |
これらの待遇差が「合理的か否か」を説明する際、企業の「主観的・抽象的な説明」は通用しません。客観的かつ具体的な実態(職務記述書や配置転換の実績など)に照らした説明が必要となります。
さらに、「正社員の待遇を不利益変更(引き下げ)して格差を縮める行為」は、原則として労働契約法上認められない点にも注意が必要です。
まとめ
今回の法改正は、単なる書類の書き換えを求めているのではありません。「なんとなく」で決めていたパート・有期社員の給与や手当の基準を、根底から見直すことになります。
第2部では、この法改正が企業の「キャッシュフロー(財務面)」と「現場の労務管理(労務面)」にどのような影響をもたらすのかを考察します。



