【第3部】「最低賃金1,500円時代」を生き抜く経営戦略~財務・労務両面の対策~

江崎充豊

江崎充豊

テーマ:経営


 こんばんは、マネジスタ湘南社労士事務所です。

はじめに

 第2部では、人件費の増大が財務と労務に与える影響について整理しました。
第3部では、これらの課題に対して、企業が財務・労務の両面からどのように対応すべきか、対策を考察します。

財務面の対策:収益構造の再構築

 人件費の増加を吸収する最も直接的な方法は、価格への転嫁です。
しかし、「値上げすると顧客が離れる」という不安から、踏み切れない企業が多いのも現実です。ただ、企業が激変する環境に対応していくには様々な対策が必要です。

対策その1:適切な価格転嫁の実施
・段階的な価格改定
 一度に大幅な値上げをするのではなく、半年〜1年ごとに数%ずつ改定するなど、顧客の心理的ハードルを下げる工夫が必要です。
・価格転嫁の説明
 単なる値上げではなく、「品質向上」「従業員の処遇改善」という大義名分を顧客に伝えることが必要です。今の社会情勢を考えると、賃上げを理由とした価格改定に理解が得やすい環境です。
・価格体系の見直し
 全商品一律ではなく、利益率の低い商品や工数のかかる商品を中心にメリハリのある改定を行い、全体利益を確保に努めます。

2.対策その2:資金繰り管理の強化
・予測管理の徹底
 3ヶ月先、6ヶ月先の資金繰り表を常に更新し、人件費増を織り込んだ経営判断を行うことが重要です。
・「賃上げ促進」融資の活用
 日本政策金融公庫等の公的融資には賃上げを条件とした有利な制度があります。これらを活用して手元のキャッシュを厚くし、将来の運転資金や設備投資に備えます。

労務面の対策:属人化からの脱却と生産性向上

 賃上げは避けては通れない道です。賃上げを「コスト」から「投資」に変えるための組織の変革が必要です。

1.対策その1:賃金制度・評価制度の再設計
・「役割基準」へのシフト
 勤続年数だけでなく、担っている役割やスキルに応じた賃金体系の構築が必要です。これによりベテラン社員の納得感を高め、離職を防ぎます。
・人事評価制度の見直し
 昇給ルールを明確化し周知することで、「なぜこの給与額か」ということに納得感が得られやすくなります。また、年功序列ではなく能力や成果を反映した賃金制度にすることで、従業員のモチベーション向上に繋がります。
・「年収の壁」支援
 厚生労働省の「年収の壁・支援強化パッケージ 」等の助成金を活用し、社会保険料の負担を軽減しながら、従業員がより長く働ける環境を整えます。

2.対策その2:業務の仕組み化とIT活用
・属人化からの脱却
 特定の「ベテラン」に頼り切った業務をマニュアル化し業務の標準化によい誰でも同じ品質で仕事ができるようになり、教育コストの削減と生産性向上が実現します。
・リスキリングの推進
 従業員がデジタルツールを使いこなし、付加価値の高い業務へシフトできるよう支援します。1人あたりの生産性が高まれば、賃上げは「負担」ではなくなります。

3.対策その3:働き方改革による生産性向上
・柔軟な働き方の促進
 時間単位年休やフレックス勤務、リモートワークなどの様々な働き方を採り入れることで、主婦層やシニア層、兼業人材など多様な人材を迎え入れるきっかけとなります。

まとめ

 最低賃金の引き上げは、経営にとって大きな課題であり負担です。しかし、これは同時に、これまでの経営スタイルを見直し、より強固な体質を作る「絶好の機会」でもあります。

「従業員がパフォーマンスを発揮できる環境整備」と「それを支える財務基盤」

 この両輪をセットで整備することで、コスト上昇や変化に対応できる強い組織作りができるようになります。

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江崎充豊
専門家

江崎充豊(社会保険労務士)

マネジスタ湘南社労士事務所

現役銀行員としての財務分析力、社労士としての労務知識を融合させ企業を支援。資金調達や事業計画、人事労務体制整備からデジタルツール導入まで、経営者が本業に集中できる環境作りをアシストする。

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