人件費は「未来への投資」か「現在の負担」か? ~経営者が見落としがちな人的資本と財務の関係
はじめに
第2部では、中小企業の現状と生産性・付加価値向上策についてお話しました。
第3部では、企業の取るべき対策を銀行員と社労士の視点から整理します。
財務面の対策
1.原価管理と価格転嫁戦略
まずは、製品・サービス単位での原価把握です。
材料費、外注費、労務費、エネルギー費などの減価が曖昧なままだと、適正価格も利益率も見通せません。白書が示す通り、原価を詳細に管理している企業ほど価格転嫁に成功しています。
次の3段階で進めると整理しやすくなります。
- 原価計算:商品・案件・サービスごとの採算を把握
- 転嫁率算出:コスト上昇分のうち、どこまで価格へ反映できているか確認
- 交渉実施:見積書、原価資料、相場情報をもとに取引先と協議
併せて、貸借対照表(B/S)の現預金、借入金、運転資金のバランスをチェックすることも重要です。損益計算書だけでなく、資金繰り表を作成し、3カ月先、6カ月先のキャッシュポジションを見通しておく必要があります。
2.投資計画の策定
設備投資やデジタル投資は、優先順位をつけて進める必要があります。
「人手不足のボトルネック解消」「粗利率向上」「納期短縮」など、経営課題に結び付けて投資目的を明確にする必要があります。
また、投資前には業務プロセスを見直し、設備稼働率や運用方法を確認することも重要です。高価な設備を導入しても、工程設計が旧態依然のままでは成果は出ません。投資後は、売上増、工数削減、粗利率改善などの指標を設定し、PDCAで効果検証を行うことが重要です。
3.経営計画とモニタリング
中期経営計画を策定している企業は、環境変化に対する意思決定が速くなります。
3年程度の計画を作り、売上、粗利率、人件費率、設備投資額、教育投資額などのKPIを定め、月次で確認する仕組みを整えることが望ましいです。
労務面の対策
1.賃上げ原資の確保
賃上げは必要ですが、利益を削って行うだけでは持続しません。
原資確保の基本は、生産性向上によって分配可能額を増やすことです。
付加価値を伸ばし、粗利率を改善し、その成果を賃金へ反映する流れをつくる必要があります。
同時に、年功序列の処遇一辺倒ではなく、能力や役割に応じた評価制度への見直しも重要です。評価基準が明確になれば、従業員の納得感が高まり、育成目標も設定しやすくなります。
2.人材確保・定着策
人手不足時代には、採用以上に定着が重要です。基本となるのは、労務管理の徹底です。
- 長時間労働の防止
- 有給休暇取得の促進
- 勤怠管理の適正化
- ハラスメント防止
- 面談機会の定期化
さらに、柔軟な働き方も有効です。
時短勤務、リモートワーク、シフトの柔軟化、副業・兼業人材の活用など、自社に合った選択肢を広げることも必要です。加えて、社内コミュニケーションの改善、休憩スペース整備、業務の標準化など、小さな職場改善の積み重ねが離職防止につながります。
3.人材育成投資
OJTだけでは育成が属人的になりやすく、Off-JTだけでは現場定着しにくいという課題があります。特に、IT研修やデジタルスキル教育は、今後の業務変革を支える基盤になります。年間の研修予算を確保し、管理職も含めた教育体系を整えるのが望ましいです。
4.生産性向上:デジタル化とAI(AX)による「属人化からの脱却」
労働投入量の最適化(INPUTの効率化)において、デジタル活用は必須となりつつあります。
・省力化投資とAI活用
業務プロセス見直しの上でのIT導入は、付加価値向上と労働時間の削減を同時に実現します 。
・脱属人化
特定の個人に頼らない「仕組み化」を進めることで、事業承継やM&Aをスムーズに進められる「売れる会社・継げる会社」へと進化できます 。
まとめ
2026年版中小企業白書が示すのは、「現状維持は最大のリスク」という厳しい現実です 。
しかし同時に、正しい戦略を持てば、中小企業でも大企業を凌駕する生産性を実現できるということも述べています。
財務基盤を固めて投資余力を生み出し、その原資を労務環境の改善と人材育成へ
この「財務×労務」の好循環が、労働供給制約社会を生き抜くために必要になります。
マネジスタ湘南社労士事務所は財務、労務に関する相談を承ります。
お困りごとがございましたらお気軽にご相談ください。



