大阪商工会議所で「インバウンドおもてなしサポートセミナー」が開催されました!
昨年の秋に、弊社神戸ビジネススクール(株)の副校長である私(三宮)は、日本伝統工芸の匠の技を紹介する社団法人を立ち上げました。ここ数年、茶道を通じて知った日本文化の奥深い世界ににどんどんはまりつつあり、それを支える職人たちの伝統の技を海外に紹介したいと考えたからです。「一般社団法人WANOBI 和の美」は、英文ウェブサイトを通じたPRを事業内容としています。
今、私が熱い想いを抱いている日本文化。その発信の仕方について、デービッド・アトキンソン氏の「世界一訪れたい日本のつくりかた」にドッキリする文章がありました。今日はそこから書いていきたいと思います。
デービッド・アトキンソン氏とは誰か
前回のコラムでもアトキンソン氏については軽くご紹介しましたが、著書より略歴をお借りします。
1965年イギリス生まれ
2011年より小西美術工藝社代表取締役社長
元ゴールドマンサックス金融調査室長
2015年より京都国際観光大使
2017年より日本政府観光局特別顧問
裏千家茶名「宗真」拝受
著書に「観光立国論」「国宝消滅」「イギリス人アナリスト日本の国宝を守る」など多数。
東洋経済新報社より2017年7月出版された「世界一訪れたい日本のつくりかた」には副題「新・観光立国論 実践編」とあります。アトキンソン氏は、アナリストとしての鋭い視点から情報を数値化しあらゆる傾向を分析して日本が観光業で潤うにはどうすればいいか、具体的に問題点と解決策を提示してくださっています。前書きにある次の言葉は、日本人へのとても心強いエールに聞こえます。
「分析をしてみるとすぐに、日本の観光業にはとてつもないポテンシャルがあることがわかってきました。
観光大国になる4条件は『自然・気候・文化・食』だと言われています。この4条件を満たす国は世界でも指折り数えるほどしかありませんが、日本はこの4条件をすべて満たしている稀な国なのです。私は、日本が世界に誇る『観光大国』になれるポテンシャルを持っていると確信しました。」 (同書より抜粋)
800枚の畳?
インバウンドという言葉がメディアを賑わすようになって5年ほどでしょうか、訪日外国人観光客の数は今も増え続けています。「爆買い」はもはや過去の現象となった感があり、今はリピーターを増やすべく体験型の観光プログラムが日本各地で考案されています。しかし、本当にそれは外国人観光客の立場に立って考えられているでしょうか?この点について、アトキンソン氏は外国人の視点から鋭い指摘を次々と、まるで忍者が手裏剣を投げるように繰り出してきます。
海外に日本の魅力を発信する際には、多言語化が必須であることは言うまでもありません。各地の観光名所では、ようやく英語・中国語・韓国語の解説や案内を掲げる取り組みが本格化してきています。しかし、問題なのはその質です。
京都二条城の特別顧問を務められている彼ならではの、次の記述の意味を考えてみましょう。
「これまで二条城は国宝ということで、『800枚の畳が敷かれている』というような情報くらいしか解説されていませんでした。」
インバウンド対策としての多言語化翻訳を手掛けている(実際には、各言語のネイティブ翻訳者のコーディネートですが)私としては、「そうそう!」と頷きたくなる一文です。日本人でも最近は地方を除き、大広間がある日本建築の家に住む人は少なくなっています。「800枚の畳」と言われて即座にどのくらいの広さか具体的にイメージできる人は、あまり多くないでしょう。ましてそれを平方メートルに換算できるのは、建築関係者に限られるかもしれません。
パンフレットなどの説明文として「二条城の本丸には800枚の畳が敷かれている」をこのまま英語にすると、どういう事が起こるでしょう。"tatami" とは何か、それが広さを表す単位にもなること、1畳とは現在は1・62㎡であること、などを予備知識として外国人が持っておかなくてはなりません。そこで、そもそも論として次のような問題点が浮き上がってくるのです。
「ネイティブチェックが機能していないという以前に、とにかく『客』は誰で、その『客』に何を知ってもらい、何を感じてもらうかという発想がごっそり抜け落ちてしまっているのです。」 同書より
ABC観光からの脱却
アトキンソン氏によると英語では「ABC観光」という言葉があるそうです。"Another Boring Church" 「また退屈な教会か~」ぐらいの意味でしょうか。由緒正しい歴史的建造物でも次々に訪れると飽きがくるというのは、世界各国共通の人間の心理なのですね。とかく日本の歴史的名所というのは教育的見地からの解説が多く、面白みに欠けると思うのは不謹慎だろうか、と私は学生の頃から思っていました。歴史や文化とはヒューマンドラマであり、そこに渦巻く人間模様が何百年の時を経て現在も目の前に存在するという事実が貴重であり驚きなのだという解釈は、洋の東西を問わず興味をそそるはずです。
「外国人観光客というのは『歴史・文化』だけを求めているわけではないのです。
文化観光がメインになるというのは、日本人目線の発想です。」
これからのインバウンド戦略は、ABC観光から一歩先へ進めて、まったく予備知識がない外国人や子どもでも「へえそうなんだ、おもしろい!」と思ってもらえる情報を発信していかなくてはなりません。そのためには、アトキンソン氏が言うように日本の何に感動してもらいたいのか、どこがどうすごいのか、をよく考えたマーケティングが必要とされます。今ある日本文の解説をそのまま英語や中国語に翻訳するだけでは魅力的な発信にはならないということを、また繰り返しておきたいと思います。
神戸ビジネススクールでは、翻訳や英語版ホームページの成作などの外国語に関するコンサルティングサービスを提供しております。インバウンドマーケティングや海外展開をおこなう際にお困りごとがありましたら、是非お気軽にご相談ください。
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