『歎異抄』悪人正機説から学ぶ 〜絶対他力の子育て〜

長谷川満

長谷川満

 浄土真宗を開いたとされる親鸞上人。
 親鸞上人の教えの中でも最も革新的とされているのが「善人よりも悪人こそが救われる」とする悪人正機説。
 
 「え~、悪人の方が善人よりも救われるっておかしくない?」

 と誰もが最初はそう考えますよね。

 でも、家庭教師としてたくさんのご家庭を見てきて
 不登校や発達障害、非行など子どもの問題に直面して

 「自分はダメな親だ。」

 と深く自覚され、反省された親御さんの方が
 その後、子どもさんがそれらの問題を克服し立派に成長される姿を見て
 「悪人正機説」は真実なんじゃないかと思うようになりました。
 

 さて親鸞上人は悪人正機をどのように説かれたのでしょうか。
 原典がこちらです。カッコ内の解説は長谷川満による。

 「善人なほもて往生をとぐ、いはんや悪人をや。
  (善人が往生できるなら、悪人は言うまでもなく往生できる)

  しかるを世の人つねにいはく、悪人なほ往生す、いかにいはんや善人をや
  (それを世の中の人は常に、悪人でさえ往生する、だったら善人は言うまでもなく往生すると考えるであろう)

  この条、一旦そのいはれあるに似たれども、本願他力の意趣にそむけり。
  (この考えは一見もっともなように思われるが、阿弥陀様の本当の願いから見れば間違っているのだ)

  そのゆゑは、自力作善の人(善人)は、ひとへに他力をたのむこころ欠けたるあひだ、弥陀の本願にあらず。
  (その理由は、自分の力で善徳を積んで往生しようとする善人は、ただひたすらに阿弥陀様のお力に頼る心が欠けているために、かえって阿弥陀様の願いに預かれないところが出てくるのだ)

  しかれども、自力のこころをひるがへして、他力をたのみたてまつれば、真実報土の往生をとぐるなり。
  (しかし、自分で善徳を積んで往生しようとする自力の心を捨てて、阿弥陀様に全てお預けしておけば良いのだと絶対他力の心境になれば、真実の往生が遂げられるのだ)

  煩悩具足のわれら(悪人)は、いづれの行にても生死をはなるることあるべからざるを、
  (煩悩まみれの我ら悪人は、どんなに工夫、努力して見たところで悟りを得て往生することなんて出来ないのを、)

  あはれみたまひて願をおこしたまふ本意、悪人成仏のためなれば、
  (哀れに思い、阿弥陀様がなんとか救いたいと願われた本当の目的は我ら煩悩まみれの悪人を救うためなれば、)

  他力をたのみたてまつる悪人、もつとも往生の正因なり。
  (阿弥陀様に全てをお任せすることが出来る悪人のその無我全託のその心境こそが往生する唯一の正しい要因なのだ)

  よつて善人だにこそ往生すれ、まして悪人はと、仰せ候ひき。
  (そのゆえに善人でさえ往生できる、ましてや悪人が往生できるのは当たり前だとおっしゃったのだ)
                                           『歎異抄』第3章」

 
 子育てにおいても、もっと良い子にしよう、賢い子に育てよう、強い子に育てようと自力作善の心を起こして子どもを育てて見ても、もともと親としても人間としても未熟で、子を思うゆえの煩悩(親のエゴ)から逃れられない私たちは、かえって子どもをおかしくしてしまうものなのです。
 それを不登校などの子どもの問題に直面して「ああ、自分の子育ては間違っていた。自分はダメな親だった。子どもに申し訳ないことをした。」と自覚し、反省して「自分に子どもの不登校は直せないのだ。発達障害も直せないのだ。賢い子に育てることなんかできないのだ。強い子に育てることなんかできないのだ。」と悟って、余計な手出し、口出しをやめて子どもを信じて子どもに任せようと無我全託の心境になれたら、それが善因となって色々な問題が克服されることを見てきた僕としては、この親鸞上人の「悪人正機説」は誠にその通りだと思われます。

 宗教的真実が子育てに生かされる。
 これはひとえに子どもの問題は親に与えられた「公案」に違いないからです。

 自分に与えられた「公案」から気づき(悟り)をいただいて、より幸せになっていく。

 今、子どもさんの問題で悩んでおられる親御様は、そんなふうに考えてみたらどうでしょう。





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