「先生、あの子からゲームとスマホを取り上げて下さい

長谷川満

長谷川満

 先日、中3男子のお母さんから電話がありました。

 「最近あの子、ゲームやスマホばっかりして全然勉強してないんです。
  私がいくら言っても全然言うこと聞かないので、先生がゲームとスマホを取り上げてもらえませんか?」という内容でした。

 「お母さん、ご心配は大変よくわかります。
  僕も最近◯◯君あんまり勉強に身が入っていないなあとは感じていました。
  でも・・、申し訳ありませんが、
  僕がゲームやスマホを取り上げることは出来ません。
  そんなことをしたら彼との信頼関係がつぶれてしまいます。
  それではいい指導は出来なくなってしまいます。
  お母さん、『北風と太陽』の話はご存知でしょうか。
  ここは、子どもを管理したり、罰を与えたりする「北風作戦」ではなく、
  子どもの心に寄り添った「太陽作戦」でいきたいと思います。
  ちょっとこの件は僕に任せてもらえませんか。
  あの子も志望校には受かりたいという気持ちは持っていますし、
  また受かるだけの力も持っています。
  僕もなんとしてでも受からせてやりたいと思っています。
  だから僕のやり方に任せてもらえませんか?」

 「わかりました。お任せします。」
 ということで次の指導の時に彼と話をすることにしました。

 お母さんとの電話のやり取りを全部正直に話して、
 先生は君を援助するためにいるのだから管理したり強制したりはしない
 だから安心してくれたらいい。
 でもお母さんの心配な気持ちもわかるし、
 僕も最近の君の様子は心配に思っている。
 だから頑張ってほしい。
 そのように伝えました。

 それからしばらくしてその次の指導のとき
 どうも家で勉強している様子が見えません。
 話をきいてみると全く勉強していないようでした。
 何をしているの?
 と聞くと、スマホで色々としているとのこと。
 2年生の3学期くらいからあることに夢中になっていて
 それの情報交換やら何やらでスマホばっかりいじっているようでした。

 「そうか・・、なんでも夢中になれるものがあるってことはいいことや。
  でも、そんだけ勉強の邪魔になってたらちょっと考えなあかんな・・。
  やっぱりスマホが手許にあったら触ってしまうやろ、 
  いっそのことお母さんにスマホ預けたらどうや。
  このままやと次のテストもひどいことになって、
  結局、スマホ取り上げられたら何にもならないやろ。
  ここは自分からお母さんにスマホを預ける方が得策やと思うけど
  どう思う?」
  
 「そうですね・・、そのほうがいいかも・・」

 「まあ、あとは君に任すけど、君も◯◯高校行きたいやろ。 
  先生も行かせてやりたいし、君には行ける力もあるんやから
  がんばろう。」

 「はい、じゃあ・・、そうします。」

 という会話が交わされた後はじめて昨日その子の指導がありました。
 今はちょうどテスト中で、今までのテストはなかなか出来たとのこと。
 そしてスマホはちゃんと自分からお母さんに預けたとのことでした。

 「そうかあ。えらかったなあ。お母さんどう言ってった?」

 「はい。自分から預けてくるとはなあ・・と驚いていました。」

 「そうか、驚いてはったか・・。まあ、よかったやん。」
 
 「はい、よかったです。」


 はからずもいい展開になりました。
 子どもは何も考えてないように見えますが、ゲームだって携帯だってやり過ぎは良くないこともよくわかっていますし、勉強だってやらなくっちゃとも思っています。
 わかっちゃいるけどやめられないのです。
 そんなときこそ強権的に管理したり罰を与えたりするのではなく、子どもの立場で、子どもと一緒に考えるなら、どうすることが一番いいのか、自らその答えを見つけてくれるのだと思います。
 教育とは、親や先生が「これが正しい」「こうすることがいいのだ」と上から教えることではなく、子ども自身がどうすればいいのかを見つけていくことを援助することではないかと思うのです。
 子どもが大きくなった時、色々な状況の中で自分で判断しなければならないことにもたくさん遭遇することでしょう。そのとき、どうしたらいいのか、自分で答えを出せる力を養うことこそが教育であるように思います。





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長谷川満(家庭教師)

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