何から始めればいいんだろう。
「すみません、散らかしっぱなしで。あとよろしくお願いします」
そう言って、慌ただしく出かけていかれたお客様。
小学生のお子さんがいる、子育て世代のお客様です。
90代のお客様も珍しくないくらととでは、子育て世代のお客様は少数派です。
その日は、お子さんの習い事や仕事が重なり、とても忙しそうでした。
「お任せください。いってらっしゃいませ」
そう言って、お見送りしました。
いつもの作業を進めながら、洗濯が終わっていることに気づきました。
普段、洗濯物を干したり、たたんだりすることは、このお宅での作業には入っていません。
でも、その日は思いました。
夜遅く帰ってきて、これが残っていたら嫌だろうな。
帰ってきてからやろうと思っていることを、一つでも減らしておきたい。
そう思って、洗濯物を干し、乾いていた洗濯物をたたみました。
そして帰る前に、家のカーテンを閉めて回りました。
その時、ふと思い出したことがあります。
子どもの頃、夕方になると母から、
「カーテン閉めて」
と頼まれて、家のカーテンを閉めて回っていたことです。
あの頃は、ただのお手伝いだと思っていました。
カーテンを閉めることなんて、大したことではない。
でも今なら分かります。
夕方の忙しい時間に、誰かがやってくれる。
たったそれだけでも、ありがたいことだったんですよね。
私にも、子育てに追われていた時代がありました。
子どもの習い事の送迎をして、夕飯を作って、家事をして。
時間はどんどん押していくのに、誰かが代わりにやってくれるわけではありません。
「まだこれもやらなきゃ」
「あれも終わってない」
一人でイライラして、時には子どもに当たってしまったこともありました。
だから今なら、あの頃の自分が何をしてほしかったのかが分かります。
帰ってきた時、
「あ、洗濯物が干してある」
「たたんである」
「カーテンも閉まってる」
そんな小さなことでも、「帰ったらやらなくちゃ」と頭の中にあったものが一つ減る。
その分、少しだけゆっくりできるかもしれません。
くらととは、高齢のお客様が多く、今は実家片付けや生前整理にも力を入れています。
でも、困っているのは高齢者だけではありません。
子育てをしながら、仕事をしながら、毎日の家事に追われている人もいます。
私自身がそんな時代を通ってきたからこそ、分かることもあります。
子どもの頃、母に頼まれて閉めていたカーテン。
何十年も経って今は、仕事で誰かの家のカーテンを閉めています。
子育てに追われていた頃の私が、誰かにしてほしかったことを。
今は私が、誰かにしてあげられる。
そんなことを思いながら、最後のカーテンを閉めました。


