体が硬いのではなく、体が「ブレーキ」をかけているのかもしれない ― 前屈と「伸張耐性」の科学
夕方になると、目の奥がズーンと重くなる。頭まで霧がかかったようになり、肩や首も固まっている。パソコンやスマホを長く使う方なら、一度は経験があるかもしれません。「目が疲れただけなのに、どうして頭や首まで?」と不思議に思ったことはないでしょうか。このコラムでは、その疑問を一緒にたどっていきます。ただし、原因を一つに決める話ではありません。いくつかの可能性を並べながら、からだの仕組みを眺めていきます。
目は「見る道具」であり、ずっと働き続ける「小さな運動選手」でもある
目と聞くと、カメラのようなものを思い浮かべる方が多いと思います。実際には、目の中には、ピントを合わせるための小さな筋肉があります。近くを見るとき、この筋肉はぎゅっと縮んでレンズを厚くします。遠くを見るときは、力をゆるめます。スマホや本を見続けているときは、この筋肉がずっと縮んだままに近い状態です。腕を曲げっぱなしで重い荷物を持ち続けたら、だんだん疲れてくるのと似ています。
さらに、まばたきの問題もあります。画面に集中すると、まばたきの回数が減るという報告があります。デジタルアイストレイン(画面作業による目の疲れ)に関するレビューでは、1分間に十数回あったまばたきが数回に減った研究が紹介されていました。ただし古い画面での研究も含まれていて、今の環境にそのまま当てはまるとは限りません。まばたきが減ると、目の表面をぬらす涙が乾きやすくなり、ゴロゴロ感や重だるさにつながる可能性があります。
画面作業をする人を集めた研究をまとめた報告では、全体の7割ほどに何らかの症状があり、頭痛は約4割、首・背中・肩の痛みは約半数にみられたとされています。ここで気をつけたいのは、これは「画面が原因」と証明したものではなく、アンケートを中心とした結果だということです。それでも、目の症状と首や肩の症状が一緒に出やすいという傾向は、手がかりになります。
ここで大切なのは、目の疲れの裏側に、ドライアイ、ピント調節の負担、メガネやコンタクトの度数のずれなど、いくつもの要因が隠れているかもしれない、という見方です。気になるときは、眼科で確認してもらうことが安心につながる一つの方法です。
頭を支える首の「小さな筋肉たち」は、目と一緒に働いている
次は、首の話です。頭の重さは、体重のおよそ1割ともいわれます(一般的な目安で、個人差があります)。ボウリングの球を、細い首の上に乗せているようなものです。頭が背骨の真上にあれば、楽に支えられます。けれど、スマホをのぞきこんで頭が前に出ると、てこの原理で首の後ろの筋肉や、その周りを包む膜(筋膜)に、多くの力がかかります。
頭と首の境目には、後頭下筋群という小さな筋肉たちがあります。小さいのに、頭の向きをこまかく調整したり、視線を動かすときに頭の位置を微調整したりする、繊細な働きを持つと考えられています。目を細かく動かす作業が続くと、それに合わせて、この小さな筋肉たちも休みなく働き続ける可能性があります。
面白い研究もあります。亡くなった方のご遺体(献体)7体を調べた研究では、この後頭下の筋肉や首の後ろの靭帯が、脳や脊髄を包む膜(硬膜)とつながっている様子が観察されました。この研究をした人たちは、首の動きや緊張が頭痛に関わる説明の一つになるのではと考えています。ただし、とても小さな研究で、「この膜のつながりが頭の重さの原因だ」と言えるところまでは至っていません。今後の研究を待つ段階の、参考情報の一つです。
首のこわばりを感じるとき、「首が固いから目が疲れる」のか、「目が疲れているから首が緊張する」のか、どちらが先かは、人によっても日によっても違うかもしれません。はっきりしているのは、目と首が別々に働いているのではなく、ひとつながりで働いている、ということです。
たとえば、夕方の運転や、床に座って靴下を履くときのことを思い浮かべてみてください。首だけを前に折って下をのぞきこむと、首の後ろがぐっと引っ張られる感覚になりやすいかもしれません。そんなときは、脚の付け根から体を折りたたむイメージを持つと、頭が背骨の延長にふわっと乗った感覚に近づくことがあります。もちろん、感じ方は人それぞれで、正解は一つではありません。
痛みの「住所」が重なる ― 目の奥の重さが、首から来ているように感じることも
最後に、少し不思議な話です。痛みや感覚は、神経という「電線」で脳に届きます。顔や目のまわりの感覚を運ぶ神経と、首の上のほうの神経は、脊髄に入るあたりで、同じ「中継所」に集まっていると考えられています。
中継所では、どちらの電線から来た信号かが、混ざってしまうことがあります。そのため、首のあたりの刺激が、「目の奥が重い」「こめかみが痛い」という感覚として脳に届くことがある、という説明がされています。住所の似た家が並んでいて、郵便が別の家に届くようなイメージです。
片頭痛の方を対象にした研究では、約半数の人に、首の後ろ側が中心の痛みがみられたと報告されています。ただしこれは片頭痛の方々での話で、すべての頭の重さに当てはまるわけではありません。
だからこそ、「頭の重さ」を一つの原因で説明するのは難しいと考えられます。眼の状態、首や肩の緊張、片頭痛や緊張型頭痛といった頭痛のタイプ、睡眠、ストレス、呼吸の浅さ、部屋の乾燥や明るさなど、たくさんの要素が重なっている可能性があります。
次のような場合は、筋膜やセルフケアよりも先に、医療機関で確認することをおすすめします。突然の激しい頭痛、視力の急な低下、視野が欠ける、物が二重に見える、手足のしびれや力の入りにくさ、ろれつが回らない、発熱を伴う、いつもと違う頭痛が続くとき。眼科、内科、脳神経外科などが相談先になります。
こうした心配が少ないとき、からだの使い方や姿勢を見直すことは、アプローチの一つとして役に立つ可能性があります。たとえば、頭を背骨の上にふわっと乗せるイメージを持つ。息をゆっくり吐きながら、遠くの景色に視線を移す。ときどき意識してまばたきをする。どれも小さなことですが、目・首・頭がひとつながりだという視点に立つと、休ませるきっかけが増えるかもしれません。
ご自分のペースで、できそうなところから、一緒に試していきましょう。


