睡眠の質とは何だろう?「寝ても疲れが取れない」を睡眠休養感と身体の使い方から考える
「あご」は体の中でいちばんよく使われている関節のひとつ
私たちは一日のあいだに、話す、食べる、あくびをする、飲み込むといった動作を、数えきれないほど繰り返しています。そのすべてに関わっているのが「顎関節」です。左右の耳の少し前、指を当てて口を開け閉めすると動きを感じられる場所にあるこの関節は、体の中でもっとも使用頻度が高い関節のひとつとされています。それだけに、少しの不調でも日常生活への影響が出やすい部位だといえるかもしれません。
口を開けるという、実はとても複雑な動き
顎関節は、下あごの骨と頭の骨のあいだに「関節円板」という小さなクッションのような組織をはさんで動いています。ただ蝶番のように開閉するだけでなく、わずかに前後にスライドする動きも同時に起きているため、単純な一方向の関節ではありません。硬いものを噛むときと、やわらかいものを噛むときで、あごの動き方が微妙に変わるのも、この複合的な構造があってこそだと考えられています。
「これが原因」と言い切れないのが、あごの不調の難しさ
顎関節の不調というと、噛み合わせの悪さだけが原因だと思われがちですが、実際にはそう単純ではないようです。専門的な指針では、緊張しやすい仕事や忙しい生活といった環境的な要因、日中や睡眠中の歯ぎしり・かみしめといった習慣的な要因、生まれ持った関節の形やかみ合わせといった体の要因など、複数の要素が少しずつ積み重なって症状につながっていくと考えられています。「これさえ治せば大丈夫」と言い切れるものではなく、いくつもの歯車がかみ合って起きている状態、というイメージの方が近いのかもしれません。
噛みしめの緊張が、離れた場所まで伝わっていく仕組み
あごを動かす筋肉(咬筋や側頭筋)は、首すじにある筋肉と、皮膚のすぐ下を覆う「筋膜」という薄い膜を通じてつながりのある範囲に位置しています。歯を強く噛みしめる状態が続くと、その緊張はあご周りだけにとどまらず、こめかみや首すじにまで広がっていくタイプの痛みとして報告されることがあります。たとえるなら、体にぴったりフィットした一枚布の服の裾を引っ張ると、離れた肩のあたりまで生地がつれてしまうようなイメージです。あご単体の問題として考えるよりも、首から肩にかけての緊張と地続きになっている可能性がある、という見方ができそうです。
「舌」が顎と首をつなぐ橋渡し役をしているという考え方
あまり知られていませんが、顎の下から喉にかけてある「舌骨」という小さな骨には、舌を動かす筋肉と、首を支える筋肉の両方がつながっています。この舌骨が、顎関節と首の骨(頸椎)の動きをつなぐ橋渡し役として働いているのではないか、という考え方があり、舌をゆっくり動かす簡単な運動をしたあとに、首の動かしやすさが変わったという報告も存在します。ふだん意識することのない「舌の位置」が、あごや首の状態に影響しているかもしれないというのは、なかなか興味深い視点です。
姿勢との関係は「まだよくわかっていない」というのが正直なところ
こうした話をすると「姿勢が悪いから顎関節症になるのでは」と考えたくなりますが、実はここについては慎重な姿勢が必要です。海外の研究をまとめたレビューでも、頭や首の姿勢と顎関節症の関連性は「依然としてはっきりしない」とされており、これまでの研究には方法の質にも課題があると指摘されています。姿勢だけを犯人扱いするのではなく、あくまで関係している可能性のひとつとして捉えておくのが、誠実な向き合い方だといえそうです。
小さな気づきを積み重ねていくということ
顎関節や噛みしめの悩みは、原因がひとつに定まらないぶん、「これをやれば治る」という単純な答えを示しにくいテーマです。それでも、日中ふと気づいたときに歯が強く噛み合っていないか確認してみる、深呼吸をしながらあごの力を抜いてみる、といった小さな積み重ねが、あごから首、肩へとつながる緊張のサインに気づくきっかけになるのではないかと感じています。体の中でつながっている場所を少しずつ紐解いていく——そんな視点を、日々の生活のなかに持ってもらえたらと思います。


