【第9回】 AI教育の課題

「褒めて伸ばす。」
教育や人材育成の場面で、よく使われる言葉です。
確かに、叱られてばかりいるより、褒められた方が嬉しい。
子どもでも大人でも同じでしょう。
しかし私は、これまで多くの人と関わってきた中で、
「ただ褒めれば、人は成長するのだろうか」
と考えるようになりました。
「すごいね」
「よくできたね」
「偉いね」
もちろん、こうした言葉も大切です。
でも本当に人の成長につながるのは、その一歩先にあるのではないでしょうか。
今回は「褒める」ということについて考えてみたいと思います。
結果だけを褒めていないだろうか
例えば、子どもがテストで100点を取りました。
「100点!すごいね!」
当然、褒めたくなります。
しかし、もし次のテストが70点だったらどうでしょう。
本人は、
「100点を取らなければ褒めてもらえない」
と思ってしまうかもしれません。
そこで少し視点を変えてみます。
「毎日少しずつ勉強していたね」
「前に間違えたところを、今回はできるようになったね」
「分からないところを自分で調べていたね」
これなら、点数だけではなく、
そこに至るまでの努力や成長
を見ています。
私は、この違いはとても大きいと思っています。
店長時代に感じた「見てくれている」という力
私は長年、店長として多くのスタッフと一緒に仕事をしてきました。
販売実績が上がった。
作業が早くなった。
お客様から褒められた。
そうした分かりやすい成果は評価しやすいものです。
しかし、本当に大切なのは、それだけではありませんでした。
以前はできなかった仕事ができるようになった。
自分からお客様に声をかけるようになった。
困っている新人を自然に助けていた。
見えにくいところで努力していた。
そんな小さな変化に気づいて、
「最近、ここが良くなったね」
と伝える。
すると相手の表情が変わることがあります。
人は「褒められた」ことだけが嬉しいのではなく、
「自分のことをちゃんと見てくれている」
と感じることが嬉しいのだと思います。
「すごい」より「どこが良かったか」
学校でも家庭でも同じです。
子どもが絵を描いて持ってきた時、
「上手だね」
と言うことがあります。
もちろん悪い言葉ではありません。
でも、
「この色の組み合わせ、面白いね」
「ここを細かく描いたんだね」
「最後までよく描いたね」
と具体的に伝えたらどうでしょう。
子どもは、
「ちゃんと見てもらえた」
と感じるのではないでしょうか。
これは大人でも同じです。
「頑張ったね」
だけではなく、
「昨日できなかったところを、今日は自分でできたね」
と言われた方が、自分の成長を実感できます。
つまり、
褒めるとは評価することではなく、相手の変化を見つけて言葉にすること
なのかもしれません。
失敗した時にも褒められるものがある
では、結果が出なかった時はどうでしょう。
試合に負けた。
テストの点数が悪かった。
発表がうまくいかなかった。
仕事で失敗した。
そんな時にも、見るべきものがあります。
挑戦したこと。
途中で諦めなかったこと。
失敗した後にやり直したこと。
人に助けを求められたこと。
結果だけを見れば「失敗」でも、その過程には成長の芽がたくさんあります。
第5回で「見守る」ことについて書きましたが、見守っているからこそ、その小さな変化に気づくことができます。
褒めるためには、まず相手を見ることが必要なのです。
AIは人を褒めることができる
生成AIに文章を見せれば、
「よく書けています」
「素晴らしいアイデアです」
と返してくれることがあります。
これからAIが教育に使われるようになれば、子ども一人ひとりに励ましの言葉を返すことも増えていくでしょう。
これはAIの良い活用方法の一つだと思います。
しかし私は、ここでも人間の役割がなくなるとは思いません。
毎日その子を見ている先生だから分かる変化。
家庭で一緒に生活している親だから気づく成長。
長く一緒に働いている上司だから分かる努力。
そうした、
「昨日のあなた」と「今日のあなた」の違い
を見つけられることは、人と人との関係の中だからこそ生まれるものではないでしょうか。
AIが褒めてくれる時代だからこそ、人間には相手をよく見ることが、これまで以上に求められるように思います。
褒めることが目的になってはいけない
もう一つ、私が大切だと思うことがあります。
それは、
何でも褒めればいいわけではない
ということです。
できていないのに「できたね」と言う。
努力していないのに「頑張ったね」と言う。
それでは言葉そのものが軽くなってしまいます。
時には、
「ここはもう少し頑張ろう」
「今回はうまくいかなかったね」
と伝えることも必要でしょう。
大切なのは、褒めることそのものではありません。
その人が、
「もう少しやってみよう」
「次はできるかもしれない」
と思えること。
褒めることは、そのための一つの手段なのだと思います。
「昨日より少しできた」を見つける
教育というと、どうしても大きな成果に目が向きます。
テストの点数。
成績。
合格。
大会の結果。
資格。
しかし人の成長は、そんな大きな出来事だけで起きているわけではありません。
昨日できなかったことが、今日は少しできた。
昨日言えなかった「ありがとう」が今日は言えた。
昨日はすぐ諦めたけれど、今日はもう一度挑戦した。
そんな小さな一歩の積み重ねが、やがて大きな成長になります。
だから私は、
「褒める」とは、その小さな一歩を見逃さず、本人に伝えること
なのだと思います。
「ちゃんと見ているよ」
「前よりできるようになったね」
その一言が、次の一歩につながることがあります。
子どもでも大人でも、人は自分の成長を認めてもらうことで、もう一度前へ進む力を得られるのではないでしょうか。
次回は、
【第7回】「叱る」とは何か ― 怒ることとの違い
について考えてみたいと思います。
Today's English Phrase
Praise the effort, not just the result.
(結果だけでなく、努力を認めよう。)
結果を見るだけではなく、その人が歩いてきた過程を見る。
そこから本当の「褒める」が始まるのではないでしょうか。
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