頑張り屋だからこそ持っている、5つの強み
果物売り場に、立派な箱が並んでいる。
きれいな包装。
整列した果物。
ひとつずつ個室に入っている。
……待遇がいい。
値札を見る。
一度、目を離す。
もう一度、見る。
見間違いではなかった……。
食べ物なのに購入覚悟。
普通の果物なら、
カゴに入れて終わり。
ところが、高級フルーツになると、そうはいかない。
「おいしそう」
食欲が立ち上がる。
値札を見る。
財務担当が着席する。
「これは、今日の買い物に必要なのか」
……急に脳内の社内稟議が始まる。
しかも、買ったあとも気が抜けない。
箱は立派。
中身は繊細。
持ち帰るまで、ぶつけないように気をつかう。
果物を買っただけなのに、
輸送部門まで兼任することになった。
食べる前から、
こちらの業務が増えている。
桃にも、身分制度があるらしい。
同じ桃でも、
袋に入っているものと、
立派な箱に鎮座しているものがある。
中身は桃。
なのに、扱いが違う。
普段の桃なら、
さっと洗って、
皮をむいて、
食べる。
高級な桃になると、
箱を開けるところから手つきが変わる。
落としたらどうしよう。
ぶつけたらどうしよう。
食べ頃を逃したらどうしよう。
……桃ひとつに、危機管理が忙しい。
普通の桃は食卓の一員。
高級な桃は、来賓待遇。
さらに高級になると、
食べるタイミングまで、
こちらが桃のご機嫌をうかがう。
果物を買ったはず。
いつの間にか、果物に失礼のない振る舞いを求められている。
自分の豆腐メンタル降臨。
開封から、すでに本番。
贈り物でもらった高級フルーツ。
うれしい。
これは、うれしい。
ただ、箱を開けるときに、少し緊張する。
包装を外す。
中身を確認する。
きれいに並んだ果物が現れる。
……ここで、すぐ食べていいのだろうか?
写真を撮るべきか。
家族に見せるべきか。
いや、先に食べるべきか。
果物を前に、判断事項が多い。
開封の儀を終えたと思ったら、
今度は食べ頃の確認。
切るときも慎重。
包丁を入れたら、
もう後戻りできない……。
桃を切るだけなのに、
人生の決断みたいになってきた。
そして、ひと口。
おいしい。
そりゃ、おいしい。
ここまで大切に扱われたのだから、こちらも真剣に味わう。
……いや、果物は最初から食べ物だった。
宝石には、できない仕事。
高級フルーツには、育てる手間も、技術も、工夫も詰まっている。
値段が高いのには、それなりの理由がある。
そこは、わかる。
わかるけれど。
どんなに立派な箱に入っていても、果物は熟す。
食べるのを迷っている間にも、時間は進む。
飾っておけば価値が上がる、というわけでもない。
むしろ、飾っているうちに食べ頃を逃す。
宝石なら、迷っていても待ってくれる。
……果物は待ってくれない。
高級フルーツとは、
値段だけでなく、
決断力まで試してくる食べ物らしい。
……次からは、もう少し気軽に食べたい。
そう思いながら、値札を見る。
食欲は自由。
購買権限は、財務担当が握っている。



