気づいてくれていたことが後から届く:関係性が育てる安心の記憶
秋になると、
カメムシがやってくる。
稲刈りで住処を追われたカメムシが、
暖かい場所を求めて家に入ってくるらしい。
窓の隙間から。
洗濯物に紛れて。
ときには、堂々と室内に。
……不法侵入のくせに、侵入経路が豊富。
寒いだけなのに、扱いがひどい。
カメムシは越冬する昆虫。
冬を越すために、
暖かい場所を探している。
つまり、本人としては必死。
寒い。
暖まりたい。
なんとか隙間を見つけた。
ようやくたどり着いた先で待っているのは、殺虫スプレー。
……入居審査、厳しすぎる。
しかも、
カメムシは危険を感じると、
あの臭いを出す。
本人にしてみれば、
身を守るための防衛措置。
こちらにしてみれば、
被害届を出す前に、現場が臭いで封鎖される。
まったく、最後まで厄介。
事情を知れば、許せるのか。
考えてみれば、
カメムシも気の毒ではある。
寒さをしのぎたいだけ。
別に、こちらに恨みがあるわけでもない。
それなのに、
姿を見ただけで大騒ぎ。
まだ何もしていない段階で、すでに有罪。
……まあ、こちらにも言い分はある。
カメムシの種類や状況によっては、
皮膚に炎症を起こす危険もある。
茶色い虫だからといって、
何でも同じ扱いにはできない。
見た目で判断するなと言われても、
こちらは虫の身元確認から始めなければならない。
しかも、素手で触ってから後悔しても遅い。
相手の事情を理解する前に、
こちらの皮膚を守りたい。
同情と無防備は、別の話である。
理解促進キャンペーン、開催。
それでも、カメムシが嫌われる理由を少しでも減らせないかと思う。
臭いを出すのにも理由がある。
寒いから暖かい場所を探している。
そう説明すれば、
少しは見方が変わるかもしれない。
「カメムシも、冬を越すために必死なんだよ」
すると。
「いや、無理。気持ち悪い」
……終了。
説明、わずか数秒。
こちらが用意した事情説明は、
審議にすら入らなかった。
理解する気がない相手に、
理解の大切さを説く。
この時点で、すでに企画の設計に問題がある。
事情はわかった。だが、話は別。
考えてみれば、
世の中には似たようなことがある。
事情を聞けば、
そうせざるを得なかった理由はわかる。
悪気がなかったこともわかる。
だからといって、
迷惑を受けた側が無条件に受け入れなければならないわけではない。
事情を理解することと、
被害を引き受けることは違う。
カメムシだって寒いのだろう。
越冬場所を探すのも、
生きるためなのだろう。
そこは理解する。
ただし。
こちらの家を、
無料の越冬施設にする契約は結んでいない。
今年も、カメムシは暖かい場所を探す。
こちらは、窓の隙間を確認する。
片方は生存活動。
片方は防衛活動。
同情はする。
事情もわかった。
……でもね。
越冬先まで、
こちらの善意に丸投げしないでいただきたい。
生きるのは自由。
ただし、うちは宿泊施設ではない。



