悲劇の主人公スイッチON:孤独感を感じやすくなる時期
「これ、いい感じにしておいて。」
仕事をしていると、
たまに出会います。
この、ものすごく便利な言葉。
「どんな感じがいいですか?」と聞くと、
「そこは任せる。」とのこと。
任せてもらいました。
なので、考えます。
あれこれ考えて作ります。
そして、見せます。
「うーん……。」
来た。
「ちょっと違うんだよね。」
「どのあたりですか?」
「なんていうか……。もうちょっといい感じ。」
……「いい感じ」が一段階進化。
頭の中には、完成品がある
こういうとき、
頼んだ側の頭の中には、
たぶん完成形があります。
色も。
雰囲気も。
順番も。
「こうじゃない」という答えも。
ただ、相手の考えはこちらには見えていません。
それでも、「いい感じに。」と言われたので、
こちらも自分なりの「いい感じ」を作る。
当然、ズレることがあります。
だれしも同じ「いい感じ」を見ているとは限らない。
むしろ、
同じだったら奇跡です。
そして、修正が始まる
「ここをもう少し。」
「はい。」
直します。
「あと、こっちも。」
「はい。」
直します。
「うん。だいぶ近くなった。」
……近づいた。
ということは、
最初は遠かった。
その距離を、
こちらが歩いてきたわけです。
「ここまで言わなくても分かると思って。」
そう言われることもあります。
そのたびに思います。
いや、
言われてないものは分からない。
「任せる」は、便利な言葉です
もちろん、
本当に任せてもらうこともあります。
「ここまでは決まっている。
あとは自由にやって。」
これは分かりやすい。
何が決まっていて、
どこからが自由なのかが分かるから。
ところが、
「いい感じにして。そこは任せる。」だけだと、
どこまで任されたのか分からない。
自由にしたら、
「そこじゃない。」
控えめにしたら、
「もっと大胆に。」
大胆にしたら、
「ちょっとやりすぎ。」
……自由にやっていいのか、
正解を当ててほしいのか。
そこがさっぱり分からない。
頼まれたのは仕事なのに、途中から別の仕事になる
こういうやり取りをしていると、
ふと思います。
最初に頼まれたのは、
「作ること」でした。
ところが実際には、
何を求めているのか考える。
質問する。
推測する。
作る。
見せる。
違いを聞く。
直す。
……また見せる。
いつの間にか、
「相手の頭の中を推理する仕事」
が追加されています。
仕事が一つ増えたというより、
最初の説明に入っていなかった分を、
あとからこちらが埋めている。
そんな感じです。
だから、頼み方を見る
私は、こういう場面を見ると、
頼み方って、
単なる言葉の問題じゃないなと思います。
細かく指示するか。
全部任せるか。
そういうことでもない。
相手が動き出すために、
何が必要なのか。
そこを考えているかどうか。
たとえば、
「ここまでは決まっている。」
「ここからは任せる。」
「○日まで。」
「分からなければ聞いて。」
これだけでも、
ずいぶん違います。
反対に、
「いい感じに。」
「適当に。」
「普通に。」
「前と同じ感じで。」
が続くと、
こちらは仕事をする前に、
次のような翻訳作業が始まります。
「普通に」
↓
「あなたの普通を教えてください」
「いい感じに」
↓
「あなたのいい感じを教えてください」
この翻訳機能、
たぶん人間には標準装備されていません。
頼み方には、仕事のクセが出る
同じ仕事でも、
一度で終わることもあれば、
何度もやり直すこともある。
能力の差だけではありません。
最初に、
何が渡されていたか。
そこでも変わります。
「お願いしたから、あとはよろしく。」
では、頼んだ側の仕事は終わっていても、
頼まれた側の仕事は、
そこから始まることがある。
だから私は、
「この人は頼むのが上手いな。」
と思う場面があります。
説明が長いわけではない。
細かいわけでもない。
ただ、
相手が迷わないところまで、ちゃんと渡している。
逆に、
「いい感じにしておいて。」で始まり、
「なんか違う。」で終わる仕事を見ると、
……最初の「いい感じ」に、
もう少し情報を入れておいてほしかった。
と思います。
そもそも、こちらが見ていたのは仕事の完成形。
相手が見ていたのは、自分の頭の中の完成形。
同じものを見ているつもりで、
実は別のものを見ていた。
それなら、
ズレるのも無理はありません。
……ということで。
次に、
「これ、いい感じにしておいて。」と言われたら聞きましょう。
「その『いい感じ』、
もう少しだけ詳しくお願いします。」
仕事を始める前に、
翻訳から始めさせないことも大事なのです。



