アドレナリンとメンタルヘルス:バランスを保つための管理方法
自分に自信が持てなかったり、不安や不満が消えないと辛いですよね。
どうすればいいか分からなかったり分かっているけど取り組めなかったり、その時の心情は様々です。
常に思い浮かぶ「どうすればいいのか」という問いへの答えの一つが「自己対話」です。
自分の内面と対話することで自分の本心を知り、前向きに取り組むモチベーションを養いましょう。
1.自己対話とは何か?
①定義
自己対話とは、文字通り「自分自身と向き合って話をする」ことです。
相手が自分ですから、ほとんどは心の中での対話になるでしょう。
『自己対話(self-talk)とは、個人が自分自身と対話を行う内部のプロセスを指します。
このプロセスは、思考や感情、行動に関する内的な言語的表現を伴い、個人が自己を理解し、自己制御し、問題解決を図るための手段とされます』
聞くのも自分、答えるのも自分、というのは不思議な感じがしますよね。答えが分かっていて質問をするみたいで、「意味があるのかな?」と思うかもしれません。
しかし、実は自分が何を考えていて、どうしてそう思うのか、は、わかっていないことが多いです。分かっていないというより、明確に言葉に出来ていないことが多いのです。
心の中で自分自身と対話することは、自分の本心を明確にするために必須の作業です。
②自己対話がメンタルに与える影響
まず、自分の感情をマネジメントすることが出来ます。
嫌なことがあった時、つい「うざい」「だるい」「めんどい」で片づけてしまっていないでしょうか。
そうした言葉は感情や状況を包括的に表現してくれるのでとても便利ですが、その分具体性に欠けます。
自分自身の感情に向き合うためには、ざっくりとしか理解できていなければ対処出来ません。自己対話によって「うざい」感情を分析、整理、明確化することが出来、管理することが出来るようになります。
ポジティブな内容で自己対話すると、自分に対する評価を改善することにもつながります。
日本人は「謙虚」「自制」「反省」が美徳とされているため自分を批判して厳しく評価することが得意です。
しかし反面、いつでもどこでも自分に対しては厳しい言葉しか向けない習慣がついてしまい、疲れ果ててエネルギーが枯渇している時でも更にそれを削るような自己批判をしがちです。
自己対話の時は、あえて前向きに「これからどうすればいいか」に目を向けると、自分の良い面を見落とすことが減っていきます。
自分の思考や感情をどう扱うかは、最後は自分が決めるしかありません。自己対話はその作業にはうってつけです。
自分にとって困難な場面を何とか切り抜けた。けれど他者の評価は芳しくなかった。
その時他者目線で疲れ切った自分を批評しては、努力が「無駄働き」に感じてしまいます。自分にとって高いハードルを越えることが出来た事実を正しく評価出来るのは自分自身です。他者の意見や評価は参考材料でしかありません。
2.自己対話が自分磨きに有効な理由
①内省と自己理解の促進
「内省」というと、昔学校で書かされた反省文のような内容を思い浮かべるのではないでしょうか。
内容は「自分のどういう言動が間違っていた、どのように反省しているか、今後は同期をつければいいか」のようなものだったと思います。
しかしこれは内省の役目の半分しか果たしていません。なぜなら反省文を書くよう指示した人に高い評価をもらうために書いているからです。
本来の内省とは、他人の評価は関係ありません。
自分が間違っていたり不足していた点はあるでしょう。でもそれだけではないはずです。
自分なりに頑張ったこと、今回の経験を通じて得た教訓、新しい気づきや次回への課題など、ダメ出し以外の内容が必ずあります。
それもひっくるめた内省こそが「自己理解」です。
マイナス面もプラス面も両方あるから、自分を磨くことが出来るのです。
②ポジティブ思考の促進
ここで一つ質問です。「ポジティブ思考」とは何でしょうか。
『何でもいいからとりあえず明るく前向きに考える』こと、という印象が強いかもしれません。
しかしそれは状況によっては自分のネガティブな思考を無視して蓋をしているだけになりかねません。無視しても自分の思考は消えません。逆に暴走して強化される恐れもあります。
ポジティブ思考とは、ネガティブな思考や状況を受け容れる態勢を整えることです。
ネガティブな思考や状況は、自分を苦しめます。自分が間違っていた、自分は他人より劣っている、と感じとどうしても傷つきますよね。
しかし感情とは別に状況は変えることができません。自分が関わったことが喜ばしくない状態にあるなら、それを否定して次へ進むことは難しいです。
自己対話することで、その状況に至るまでのプロセスを自分に対して正直に振り返ることが出来ます。ポイントは一つ一つ丁寧に振り返ることです。
そうすることで「喜ばしくない現状」という結果だけにフォーカスすることが無くなります。過程における評価点や問題点に気づくことが出来ます。
それによって状況を受け容れることが可能になります。
≪惠然庵コラム≫ 自信をつける
③モチベーションの維持
何かに取り組んだり乗り越えなければいけないとき、モチベーション(動機づけ)はとても重要です。前へ進む推進力ですから、これをいかに長く持続できるか、が、目標達成のカギになります。
モチベーションには2種類あります。「内的動機づけ」と「外的動機づけ」です。
内的動機づけとは、自分の興味関心や使命感によって強化される動機づけです。そのため外的環境に左右されることが少なく、結果よりプロセスを重視しやすくなります。
外的動機づけはいわゆる「ご褒美」によって喚起される動機です。便利ではありますが何によってモチベーションが上がるかには個人差があるため、効果は様々です。
どちらかと言うと内的動機づけのほうが長く維持されやすいと言われています。
自己対話は、自分自身と心の中で質疑応答する作業です。何かに取り組んでいる過程で、自己対話を通して自分の内的動機を思い出し、修正し、強化しながら進むことが出来るのです。
3.自己対話のやり方
それでは実際にどのように自己対話を行うか、を見ていきましょう。
以下の4ステップで進めていきます。
①STEP1:静かな場所でリラックス
まずは自分がリラックスできる空間を確保しましょう。
自分に対して心の中で問いかけ、それに対する解を探す作業です。外的な刺激は邪魔になったり、自分自身の解を出す妨げになります。
気持ちの切り替えのために、ゆっくり3回深呼吸しましょう。
②STEP2:今の状況や感情、思考について質問する
心の中に自分が二人いることを想像しましょう。
まずは左側の自分です。質問者に設定します。
■今何が起きている?
■今の状況に対してどんな感情を抱いている?
■それに対してどうしたいと考えている?
のような内容を、具体的な質問にしましょう。そしてそれをもう一方の自分に投げかけます。
今起きていること、とは、もしかしたら複数あるかもしれません。まず1つにフォーカスして説明しましょう。
そのためには最初から、もしくはそれ以前の状況から振り返る必要があります。
その過程で、見落としていた事実を拾っていきましょう。
③STEP3:自己理解を深める
振り返った過程の中で、その都度自分が感じた感情や思考も同時に思い出すことになると思います。
その時、感情や思考がネガティブなものだったとしても、反射的に自分を批判することは待ってください。
その時の自分は、そう感じたり判断することが最適だったのではないでしょうか。
自己対話を行っている最中に、良い悪いを判断しないようにしましょう。
聞き取りをする感覚です。「そうだったんだ」と受け取るだけにとどめておきましょう。
批判や評価をせず事実として受け取り続けることで、開始時から現在までの過程全体としての自分の心を変化を観察することが出来ます。
細部を一つずつ認識して最後に全体を見ることで、自己理解が深まります。
≪惠然庵コラム≫一人で悩むときのコツ
④STEP4:目標や未来像を明確化する
自己対話を繰り返すことで、自分自身が本当に求めている未来像や目標が浮彫りになってきます。
うつ病になった家族をケアする生活の中で、自分のストレスや葛藤を持て余していたかもしれません。もうこんな状態は続けられない、と思い詰めていたけれど、自己対話を通じて自分が今まで出来ていたことや解決してきた問題を思い出すことが出来たとします。
ストレスとなっている状況は継続するかもしれませんが、それを通じて得た新しい目標や気づきが、自分を支える柱になります。
それによってただしんどかっただけの現状に、自分なりの意義を持たせることが出来るようになるでしょう。
4.自己対話を実践するときのヒント
①日記やメモを活用する
頭で考えていることは意外とすぐ忘れてしまいます。思考は一時も止まることはありません。感情はモヤモヤと残り続けるとしても、理論的な思考は後から来た刺激にどんどん上書きされてしまいます。
その場で、は難しいかもしれませんが、何かに記録しておくことをお勧めします。
自分の本心や悩み事に対する見解は、全く関係ない時に思い浮かぶことが多いです。それは問題そのものから離れてリラックスしたことで思考力が復活したからです。
しかし関係ない時に思い浮かぶと、そのまま流してしまいがちです。
スマホのメモ機能を活用するも良し、夜寝る前に日記に箇条書きにしておくのもお勧めです。
②オープンな姿勢をもつ
「オープン」とは「無条件」な状態です。
ストレスを抱え込みがちな人は、「○○でなければならない」のような条件をたくさん自分に課しています。その条件に合致しない、満たさない結果や思考は全て「駄目なもの」に分類してしまいます。
その条件を解除しましょう。
「べき思考」は合理的に自分を律することが出来るときのみ有効です。何が何でも貫き通さなければいけないものではありません。
自分に対して「何でもあり」な姿勢で、自己対話を試みましょう。
③自問自答を繰り返す
「ソクラテス式問答法」をご存じでしょうか。
「なぜ?どうして?」を何度も繰り返すことで、相手の思考を深めていく方法です。
同じように、自己対話の時は1つにテーマについて複数回「なぜ?」を繰り返しましょう。
上述した「質問者」の役割です。
例えば以下のような要領です。
『今日家族とケンカになったよね。あの時どう思った?』
『正直腹が立った。あんな言い方しなくていいと思う』
『あんな言い方って?』
『私はいつも頑張ってるのに、まるでもっと頑張れって言われているような気がした』
『もっと頑張れって言われたの?』
『直接は言われなかったけど、そんな気がした』
『どうしてそう感じたの?』
『何となく……。だって顔が怒ってたし』
『顔が怒っていたから、自分にもっと、って要求された、と思ったの?怒ってた理由は他にないの?ていうか本当に怒ってたの?』
繰り返すうちに自分の矛盾点に気づいていきます。
途中でひっかかって進めなくなったら、メモしておいて後でまた考えたり、当事者に相談してもいいですよね。
5.自己対話の注意点
①自分を批判する表現を避ける
先ほども述べたように、自分の心の中で自分に対して問いかけるとき、どうしても強い言葉で批判しがちです。
しかしこれでは自分の不満や不安、悲しみが強くなるだけで、振り返りにも再発見にもなりません。
「それは良くない、間違っている」と感じることがあっても、一旦保留して一つの事実として受け止めましょう。
②客観的な視点を保つ
自己対話では問いかけも答えるのも自分ですから、自分の立場から見た点ばかりフォーカスしがちです。
しかし状況とは、見る人によって異なります。自分には三角形に見える三角錐が、上から見ている人には円形に見えます。
同じように、自分とは違う役割や立場にいる人を想定して状況を振り返り直しましょう。
もし夫婦でケンカになってしまったことに対する自己対話をしているなら、自分以外の家族やペット、後日相談するかもしれない友人になったつもりで違う視点から振り返ってみましょう。
第三者の視点に立ったうえで、自分はどう考えるか、が「自己対話」です。
③やり過ぎ注意
長時間取組み過ぎ無いよう注意しましょう。
自己対話は自分を理解することに非常に有効ですが、その分精神的に非常に疲れます。自己対話の過程で自分のネガティブな面をオープンに受け容れようとするのですから当然です。
1回10分程度から始めましょう。
自分に対するネガティブな批判が止まらなくなったらすぐ止めましょう。
そしてリラックスしてから再開しましょう。
もう一つ、トラウマ的体験に突き当たった時も要注意です。特にPTSDと診断されている方は、無理せず中断し、カウンセラーや主治医との対話に切り替えましょう。
6.今日からできる日常の自己対話
①定期的な時間を設ける
1日のうちに自己対話する時間を作るとよいでしょう。
1日を振り返る、と言う意味では夜が相応しいかもしれませんが、つい掘り下げ過ぎて思考が活性化して睡眠の妨げになっても良くありません。
夕食を終えた食休みのタイミング、お風呂に入っているときの10分だけ、など、あえてリラックス度が高いタイミングがおすすめです。
②目標や課題に関連付ける
今目指している目標がある場合、「次は何をしよう」のようにステップ化して取り組んでいると思います。
それと関連付けて自己対話しましょう。
例えばうつ病になった家族に自分の疲労を伝えることが出来ず悩んでいる場合。
「今日は何も言えなかった。でもそれは相手も状態がよくなさそうだったから。そう言う時に無理に伝えようとしなくていいから、その分セルフケアの時間を増やせばよかったんだな」
と考えることで、自分の成長や進歩に気づいて、モチベーションが保たれます。
③習慣化する
時間を決めて、今取り組んでいる課題に関連付けて自己対話することで習慣化することが出来ます。
習慣化するには少なくとも3ヶ月かかると思ってください。
「3日、3週間、3ヶ月」という言葉があります。大体その感覚で新しく始めたことに飽きたり止めたくなったりします。
3ヶ月続けばもうそれは自分の日常の一部です。
長く感じるかもしれませんが、3ヶ月は、途切れ途切れでもいいので続けてみてください。
≪惠然庵コラム≫ 自己分析すれば人生が変わる
https://keizenan.net/2022/04/14/self-analysis/
7.まとめ
自分を成長させたい、磨きたい、と言うポジティブな動機はもちろん、今の問題から解放されたい、不安を感じ続けたくない、と言う理由にも、自己対話は重要です。
なぜなら自分の不足を補うための、自分にとって有効な方法やテーマのカギは、自分の中にこそあるからです。
他の人にとって役立つ情報が、自分にそのまま当てはまるわけではありません。
自分が何に困っていて、何が不足していると思っていて、どうなりたいと思っているかは、自分にしか分かりません。
そのために有効なのが、今回ご紹介した自己対話です。
自分とたくさん対話しましょう。習慣化することで自分を俯瞰し、感情を受け容れて、コントロールすることが出来るようになります。
その結果として自分の成長を実感し、自己評価や自己肯定感が上がるのです。
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