ビジネス変革:デジタル変革(DX)とビジネス変革:今理解すべき3つの視点
このコラムはビジネスパーソンの方々を対象に書いています。
このコラムはビジネス変革を実現するためのチェンジマネジメント(change management)について書きます。
私は、ファシリテーションを核としたコンサルティング・サービスを営んでいる個人事業主です。屋号を BTFコンサルティングといいます。BTF は Business Transformation with Facilitation の頭文字をとりました。トランスフォーマーという映画をご存知の方がいらっしゃると思います。クルマがロボットに変身したり、ロボットがクルマに変身したりする映画です。トランスフォーメーション(transformation)とは変身させることです。ビジネス・トランスフォーメーションとはビジネスを変身させてしまうことです。ビジネス変革とも言われています。「ファシリテーションを活用してビジネス変革を実現して欲しい、そのために貢献したい」と考え、この屋号にしました。
ファシリテーション(Facilitation)。「人と人が議論し合意形成をする。この活動が容易にできるように支援し、うまく合意形成できるようにする。」これを実現するためにはどうしたら良いのかという課題を科学的に考え、試行錯誤を繰り返しながら作りあげられた手法、これがファシリテーションです。ファシリテーションをする人をファシリテーター(facilitator)と言います。
チェンジマネジメントの説明をウィキペディアから引用します。
『チェンジマネジメントとは経営学用語の一つ。組織においての業務などといった様々な事柄を変革するということを推進、加速させ、経営を成功に導くというマネジメントの手法。組織が変革を行うということになったならば、その組織に長年慣れ親しんできた従来の方法に固執し、変革に対して反対をする構成員が多く存在する。そこでチェンジマネジメントでは、経営のトップ自らが変革が行われる組織の構成員に対して、変革が行われることの狙いや必要性を知れ渡らせ、構成員の意識を改革するために努められる。同時に構成員が変化が行われる組織の中でうまく適応できるようにも努められる。』
次に、私がこのコラムを書こうと思った理由を書きます。
米国にXPLANEという会社があります。XPLANEのCEOのAric Woodが2021年12月21日に投稿したブログ "Changing Change Management: The Shift from Process-Centered to People-Centered" を読んで共感したからです。
チェンジマネジメントをプロセス中心なアプローチから人中心なアプローチに変えようという提案だと、私は理解しました。
このコラムでは、Aricのブログを参照しながら、私の経験を踏まえて今という時代にビジネス変革を実現するためのチェンジマネジメントについて考えます。
このコラムは次の3つの章で構成します。10分程度で読める量です。
1. チェンジマネジメントとは
この章では、チェンジマネジメントを概説します。
冒頭ウィキペディアの説明を引用しました。
業務や組織にかかわる変革を推進・加速し、成功させることは簡単なことではありません。ビジネス変革を成功させることは簡単なことではないのです。私は、DX(デジタル・トランスフォーメーション)を「デジタル技術を活用したビジネス変革」という日本語で表現しています。DXを成功させることも簡単ではありません。
人は急激な変化を好まず、慣れ親しんだ環境ややり方に固執する人は多くいます。変革を進めようとすると必ず抵抗や軋轢が生じるのです。例えば、今までやっていた仕事のやり方が変わる。極端な例としては、今までやっていた仕事が不要になる。
チェンジマネジメントは、従業員を変化にうまく適応させられるよう、経営トップが率先して変革のねらいや必要性を組織に浸透させ、社員の意識改革を進めていこうという手法です。
よく知られているものには、コッターの変革の8つのプロセス や マッキンゼーの7S があります。
両方とも研究に基づいたもので、既に現場で有用性が証明されているものです。一方、オリジナルは前世紀に作られたものなので、少し古い考えに基づいて作られたものになっています。
日本は特に変革が進まず、失われた20年とか30年とか言われていて、相対的に他国と比べてビジネスパーソンの収入が伸びていないということが明らかになっています。このままでは良くありません。
次の章では、時代の変遷とチェンジマネジメントを見ていこうと思います。
2. 時代の変遷(産業の時代→情報の時代→パーパスの時代)とチェンジマネジメント
この章では、時代の変遷として産業革命以降の「産業の時代」、その後訪れた「情報の時代」、そして今まさに訪れている「パーパスの時代」について、チェンジマネジメントを見ていこうと思います。
産業の時代のチェンジマネジメント
18世紀半ばから始まった産業革命後20世紀の終わりくらいまでの時代のことです。
大きな組織の中で人々は協調して働く必要があり、会社の組織構造を効率化するためのテンプレートとして軍隊モデルを活用したとAricのブログは指摘しています。同様のことは、ティール組織 でも指摘されていまです。
この時代は、組織を均質で機械的なものと考えるように教え込まれていました。指揮統制の下で明確なルールがあり、命令はトップダウンで出されました。その命令を迅速に完了するために階層構造の組織構造を活用しました。
この組織構造の中で、個人は人的資源(human rerource)として扱われました。この時代の人的資源と言う言葉の裏には、擦り切れてしまったら簡単に交換できる歯車のようなもの、というニュアンスがあると思います。
この時代のチェンジマネジメントという言葉の裏には、トップダウンで変革に関する情報を上から下へ伝えることによって、力づくで変革を進める、軍隊モデルなので命令に背くことは許さないという姿勢があると思います。
階層構造の上に立つトップが命令を出し、下の人的資源を管理(マネジ)するという構造になっています。組織を機械とみなしていて、人にフォーカスしていないとも言えると思います。
下図の左側のピラミッド型の組織構造です。なお、この図の出所は私のコラム 『組織力強化:コロナ禍のリーダーシップ:ファシリタティブなリーダーシップとは』 です。
今でもこのようにトップダウンの指揮命令で統制をとっている組織はあると思います。
情報の時代のチェンジマネジメント
21世紀に入る頃から情報が注目されるようになってきました。情報の時代です。人の想像力こそが最も価値ある資源となった時代です。
産業の時代において競争を優位に進める基準は、生産性、効率化やアウトプットでした。
情報の時代においては、想像力やイノベーションが競争を優位に進めるための基準になってきました。事実や理論に基づき科学的に分析を進めて、想像力を持ってイノベーションを起こすことが求められるようになってきました。
そこで、組織には権限委譲された創造的な従業員が変革の実現という目標に向かって前進する環境を作ることが必要になりました。
情報の時代に入っても、組織構造は産業の時代の名残で変わらずに残っていました。
一部の組織では、産業の時代の節で引用した図の右側のように支援型のサーバント型になったとこともあると思います。
パーパスの時代のチェンジマネジメント
従業員が自分の仕事の存在意義を見つけられるように支援する必要が出てきました。
ビジネス変革する意義は何なのか、その変革によって自分の仕事はどのように変わり、どのような意義があるのか従業員自らが見つけられるように支援するということです。
興味や関心事を共有する人とプロジェクトを調整し、コミュニケーションの質を高め、共感と共創をとおしたコラボレーションができるように支援することが大切になってきます。
そして、組織は共通の目標を達成するために集まった人の集まりとなることが求められます。
下図左側のホリゾンタル型は、自分の組織のピラミッドだけにとらわれず、むしろその枠を越えて、タテよりもヨコへ、人と人、組織と組織とのホリゾンタル(水平方向)なつながりを基盤する組織形態です。
下図右側のオープン型は、チーム内でお互いの尊敬と信頼を尊び、徹底的に情報共有し、権限委譲することを基盤とします。一人ひとりの従業員とオープンな関係を構築しようとする組織形態です。
上図右側のオープン型の各点は、組織内の個人を表していて、周囲に関心を払い、権限を与えられた従業員です。
人中心の観点で、活気ある生命体としての組織という視点で、チェンジマネジメントを進化させる必要があります。
具体的にどうチェンジマネジメントを進化させるべきなのか
この節はAricのブログを参照しながら、私の経験を合わせて書いていきます。
プログラムから納得へ
単にビジネス変革のプログラムを力づくで強要してもうまくいきません。
「なぜビジネス変革をするのか」「その変革の存在意義は何か」「その変革が実現したらどうなるのか」などの未来を展望し、本当にそうしたいと納得する必要があります。納得を得るまで丁寧にアプローチすることが大切です。
命令から参加へ
命令やコントロールをすることで、服従させて変革を受け入れさせたり、力づくで変革をさせようとしてもうまくいきません。
従業員が変革プロジェクトに自ら積極的に参加してもらうようにすることが大切です。人が何かを本気でやろうと決心するためには、論理的にやるべきだと分かっていることに加えて、自らがそれをやることに対して納得することが必須です。
情報を階層構造組織の上から下へ伝えるのではなく共創へ
命令に近いニュアンスを持つ情報を組織の上から下へ伝言ゲームのように伝えていくことによって変革を実現しようとしてもうまくいきません。
より良い変革を共創するために、チームの中にある知性を称賛することが大切です。小さなことでも役に立つ意見やアイデアを称賛するという姿勢はとても大切なことです。
プロセスから原理原則へ
ガチガチにルールを作るのではなく、納得できる原理原則を決めて、その原理原則の中で創造的に行動できるようなガードレールを決めることが大切です。
権限を委譲されて、自律性を持った能力が開花された人たちには、箸の上げ下げまで規定したルールは不要というか邪魔で、ガードレールの外に出ない限りは自由にやらせるほうが良いという考え方です。人を信頼するというアプローチと言えます。ガチガチなルールを作るというやり方は、「あの人には無理だろう」とか「あの人はサボるだろう」といった人に対する不信が背景にあるように思います。
同質から多様へ
個人もチームも、それぞれ欲求や要求を持っています。変革に対して抱く感情、欲求や要求は多様です。同質ではありません。
どんな場合にもうまくいく万能の変革を成功させる方法があれば多くの人たちは喜ぶかもしれませんが、そのようなものは無いのです。
必ずしも、多様な全ての欲求や要求を満たすことは出来ないかもしれませんが、無視するのではなく、丁寧に対応して変革に対する納得を得る努力を怠らないことが大切です。
この章のまとめ〜変革を成し遂げるためには〜
権限が移譲されて能力を持った思慮深い人が、変革の実現に向けて動くように説得し、納得の上で変革に参画する必要があります。ですから、どのように組織を編成してマネジし、従業員を導くのか、よく考える必要があります。
これは、チェンジマネジメントに対する理解を再構築することになるのだと思います。現代の個人やチームの多様な欲求や要求により合ったものであるために、チェンジマネジメントを再構築するということです。
変革は会社の存在意義に合致したものであるはずです。会社の存在意義は従業員の共感と納得を得たものであるはずです。ですから、多様な欲求や要求といっても180度ベクトルが異なるようなものではなく、丁寧に対応して納得を得ることは可能で、これは変革を成し遂げるために必須なことである、と私は考えます。
3. ファシリタティブなリーダーシップが探究への鍵
2章では、現在のパーパスの時代に合うように既存のチェンジマネジメントを進化させる必要があるという趣旨の内容を書きました。
下記を書きました。
- プログラムから納得へ
- 命令から参加へ
- 情報を階層構造組織の上から下へ伝えるのではなく共創へ
- プロセスから原理原則へ
- 同質から多様へ
上の箇条書き中の黄色でハイライトした部分を実現するためには、ファシリタティブなリーダーシップが必須である、と私は考えます。
ファシリタティブ (facilitative)は、「物事の進行などを促進する」という意味の形容詞です。ファシリタティブなリーダーシップとは、ファシリテーションを中核に置きながら、チームに働きかけチームを目指す目標に到達するようリードするリーダーシップです。
全社規模のビジネス変革を実現するためには、営業、マーケティング、経営企画、業務、ITなど各部門の専門家を集め、アイデアや意見を引き出し、まとめ、合意を形成することが必須です。社外の人に入ってもらう場面があるかもしれません。初めて会う人たちと協働することになるかもしれません。
もし、今まで自組織内の改善活動を主に行っていたとすると、全社規模での協働は初めての経験となるかもしれません。自組織内で気心の知れた共通の用語を使う人たちと協働するのではなく、異なる組織文化の中にいる人や異なる用語を話す人たちと協働することになります。チームとして機能するようチームビルディングが重要です。事業部門、業務部門、IT部門などの間に入り、ファシリテーションなどのソフトスキルを活用して、これらの部門をつなぐ役割を担い、変革プロジェクトを推進するファシリタティブなリーダーシップが必要だと考えます。
ソフトスキルは、ファシリテーション、コミュニケーション、プレゼンテーション、リーダーシップ、チームビルディング、ネゴシエーション、エモーショナル・インテリジェンスなどの対人系のスキルです。
権限が移譲されて能力を持った思慮深い人が、変革の実現に向けて動くように説得して、納得の上で変革に参画するようになるためには、ファシリタティブなリーダーシップが必須だ、と私は考えます。
その上で、1章で取り上げた、コッターの変革の8つのプロセスやマッキンゼーの7Sを活用しながら変革を進めていくことが大切だろうと考えます。
ベイン・アンド・カンパニーの『チェンジ・パワー・インデックス』という指標を活用して、チームの変革実現能力を見える化し、変革実現能力を高めるためにどこを重点的に取り組むべきかを把握することは有効かもしれません。
トップが明確な目標を示し何故変革するのか従業員の腑に落ちるメッセージを発信することは必須です。他方、参画する人にとっては具体的にどうアプローチしたら良いのかわからず不安になる局面があると考えますし、面従腹背の人がいる場合もあります。キーパーソンであることもあります。腑に落ち切っていない場合もあります。
ファシリタティブなリーダーシップを活用して、このような人を同じ目標に向かって進むチームの一員になってもらった経験があります。丁寧に説明してその人に合った対応をして、その人にとって価値があるものだと思ってもらうことが必要です。初めは時間がかかるかもしれませんが、自分にとって体験価値があると納得すれば積極的に参画してくれるようになります。チームの重要な一員になります。その人の不安を取り除き、変革プロジェクトに参画することがその人のためになることを納得してもらうように対応していくことが大切です。
「そのチームで協働するという体験の価値」を各自が納得すること、その価値に魅力を感じられること、これが必須である、と私は考えます。
2章で書いたとおり、どんな場合にもうまくいく万能の変革を成功させる方法はありません。リアルな経験を積み重ねながらビジネス変革を実現するためのファシリタティブなリーダーシップの探究を進めていくことに価値がある、と私は考えています。
昨今DX(デジタル技術を活用したビジネス変革)という言葉を聞かない日はないというくらい良く聞きます。一方、1章の冒頭で書いたとおり、ビジネス変革は簡単なものではありません。あなたにとってのチェンジマネジメントを探究する必要があるのだろう、と私は考えています。
このコラムが、あなたがビジネス変革を実現するためのファシリタティブなリーダーシップの探究を始めるきっかけとなったら幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。