ビジネス変革:なぜテレワークが機能しにくく、DXの成功率が低いのか:具体的な解決方法を考える

小川芳夫

小川芳夫

テーマ:ビジネス変革

このコラムはビジネスパーソンの方々を対象に書いています。

日本ではテレワークが機能しにくいデジタル技術を活用したビジネス変革(DX、デジタル・トランスフォーメーション)の成功事例が少ない。こういった話をよく聞きます。これはどうしてなのでしょうか?何が原因なのでしょうか?解決方法はあるのでしょうか?

このコラムでは、この辺りのことについて考えます。

  1. 最初に、日本ではテレワークが機能しにくく、DXの成功率が低い理由を仮説として考えます。
  2. 次に、考えた理由(仮説)を解決するための方法をハイレベルに考えます。
  3. 最後に、ハイレベルな解決方法を具体的に適用するとどうなるのか、具体的な解決方法を例を示しながら考えます。


私は、ファシリテーションを核としたコンサルティング・サービスを営んでいる個人事業主です。屋号を BTFコンサルティングといいます。BTF は Business Transformation with Facilitation の頭文字をとりました。トランスフォーマーという映画をご存知の方がいらっしゃると思います。クルマがロボットに変身したり、ロボットがクルマに変身したりする映画です。トランスフォーメーション(transformation)とは変身させることです。ビジネス・トランスフォーメーションとはビジネスを変身させてしまうことです。ビジネス変革とも言われています。「ファシリテーションを活用してビジネス変革を実現して欲しい、そのためのお手伝いをしたい」と考え、この屋号にしました。

ファシリテーション。Facilitationという名詞です。「人と人が議論し合意形成をする。この活動が容易にできるように支援し、うまく合意形成できるようにする。」これを実現するためにはどうしたら良いのかという課題を科学的に考え、試行錯誤を繰り返しながら作りあげられた手法、これがファシリテーションです。ファシリテーションをする人をファシリテーター (facilitator) と言います。

このコラムは次の3つの章で構成します。10分程度で読める量です。



1. 日本ではテレワークが機能しにくく、DXの成功率が低い理由(仮説)

この章では、「なぜ日本ではテレワークが機能しにくいのか?」、「なぜ日本のDX成功率が低いのか」を考え、仮説としての原因を考えたいと思います。

原因が特定できれば、打ち手としての対策を講じることができます。ここをこの章の目的にします。


なぜ日本ではテレワークが機能しにくいのか?

この節では「なぜ日本ではテレワークが機能しにくいのか?」を考えてみましょう。
現代ビジネスの2021年3月10日付の『なぜ日本企業だけ「テレワークによって生産性が落ちる」のか? その根本的な理由』 を参照情報とします。

私が知る数社の日本でビジネスをしている外資系企業ではほぼ100%テレワークをしています。ということは、日本人がテレワークできない、ということではなさそうです。現に、日本企業でもほぼ100%テレワークをしているところもあります。
テレワークできる会社とできない会社とに分かれていると考えられます。

他方、コロナだけでなく、甚大な自然災害は珍しくなくなっていると感じます。オフィスに行けないということが珍しくなくなるかもしれません。甚大な自然災害により自宅が破壊された場合は仕事どころではないでしょう。一方、公共交通機関が止まった、道路が寸断された、しかし家で安全に過ごせている、ネットにもつながっている、このような場合ならオフィスに行けなくてもオフィスにいる時と同じように仕事をすることができる、というようにしておくべきである、と私は思うのです。

現代ビジネスのコラムは『日本は「テレワークによって生産性が落ちる」と感じている人が多く、海外では「テレワークによって生産性が上がる」と感じている人が多い』としています。『テレワークで生産性が低下した理由の1位は「対面での素早い情報交換ができない」』であり、『テレワークによって素早い情報交換が妨げられてしまう最大の理由は、日本の組織は基本的に責任の所在が曖昧で、ビジネスプロセス全体が文書化・ルール化されていないから』としています。

ビジネスプロセスが文書化・ルール化されずに、暗黙知として属人化している。これが許されてしまう理由は何なのでしょう。一つにはビジネスプロセスを見える化することのインセンティブがないことなのかもしれません【仮説1】。メンバーシップ型で終身雇用・年功序列なので、別に言われていないことをやる必要を感じないのかもしれない、と思います。一方、2020年くらいから、ジョブ型で成果主義への流れが出てきています。

また、暗黙知として属人化することによって自分を守りたいという意識があるのかもしれません【仮説2】。自分が組織にとって必要な人であリ続けるために、意識的に見える化したくない、こういうことがあるのかもしれません。

もう一つの原因は、ハイコンテクストなやりとりをしているのかもしれません【仮説3】
ハイコンテクストとローコンテクストをご存知でしょうか。言葉の説明から始めましょう。

コンテクスト(Context)

コミュニケーションの基盤である言語・共通の知識・体験・価値観・ロジック・嗜好性など

ハイコンテクスト(High Context)

コンテクストの共有性が高い。
伝える努力やスキルがなくても、お互いに相手の意図を察しあうことで、なんとなく通じてしまう環境。しかし、その環境が整わないと一転してコミュニケーションが滞ってしまう。お互いに話の糸口も見つけられず、会話も弾まず、相手の言わんとしていることが掴めなくなってしまう。

ローコンテクスト(Low Context)

言語によりコミュニケーションを図ろうとする。(見方を変えればコンテクストに頼った意思疎通が不得意とも言える) そのため、言語に対し高い価値と積極的な姿勢を示し、コミュニケーションに関する諸能力 (論理的思考力、表現力、説明能力、ディベート力、説得力、交渉力) が重要視される。

上のハイコンテクストの説明「伝える努力やスキルがなくても、お互いに相手の意図を察しあうことで、なんとなく通じてしまう環境」、オフィスでの対面での場であれば、なんとなく通じていると感じていたのかもしれません。しかし、テレワークでは「伝える努力やスキル」がない人は困ってしまうのです。上に書いたとおり、伝える努力やスキルがなくても、お互いに相手の意図を察しあうことで、なんとなく通じてしまう環境が整わないと、一転してコミュニケーションが滞ってしまいます。お互いに話の糸口も見つけられず、会話も弾まず、相手の言わんとしていることが掴めなくなってしまうのです。

この章の初めの方で書いたことを再度書きます。
日本でビジネスをしている外資系企業ではほぼ100%テレワークをしている会社があります。また、日本企業でもほぼ100%テレワークをしているところもあります。日本人はテレワークができないというわけではないのです。

テレワークができない理由として、下記3つの仮説を立てました。

  • 【仮説1】ビジネスプロセスを見える化することのインセンティブがない
  • 【仮説2】ビジネスプロセスを見える化せずに暗黙知として属人化することによって自分を守りたいという意識がある
  • 【仮説3】社内でハイコンテクストなやりとりをしている


なぜ日本のDX成功率が低いのか

この節では「なぜ日本のDX成功率が低いのか」を考えます。
ボストン コンサルティング グループ(以降BCG)が2020年10月に出した『デジタルトランスフォーメーションに関するグローバル調査』というレポートを参照します。

BCGのレポートによると、デジタル・トランスフォーメーション(以降DX)に成功した割合は、日本14%、各国平均30%だそうです。

よく、DXには経営者のコミットメントが必要だ、と見聞きします。
私はDXを「デジタル技術を活用したビジネス変革」と表現しています。デジタル変革とすると、デジタル事IT事と誤解する方が多いと危惧するからです。ビジネス変革(Business Transformation、ビジネス・トランスフォーメーション)。ビジネス事なのです。トランスフォーマーという映画をご存知の方もいらっしゃると思います。クルマがロボットに変身したり、ロボットがクルマに変身したりする映画です。ビジネス変革とはビジネスを変身させるようなマグニチュードのものです。

BCGのレポートでは、破壊的なものと漸進的なものに大別しています。
破壊的なものは、『現在のビジネスモデルの大幅な変更・拡張、または競合に先んじた新規ビジネスモデルの開発を可能にするもの』としています。ビジネス変革ですね。
漸進的なものは、『現在のビジネスモデルのさらなる効率化を可能にするもの』としています。改善活動ですね。

BCGのレポートでは、企業は、デジタルの可能性を認識し、ビジネスモデルと価値提案を大幅にシフトさせていく必要があるとしています。

また、日本の特徴として事業部門のトップが推進するトランスフォーメーションが87%に上る』としています。そして、『特定の部門がスポンサーになっている割合がグローバルよりも高く、トランスフォーメーションがサイロ化するリスクが高いとしています。部分最適はできても全体最適はできないということだと思います。
『CEO直属の組織が推進しているトランスフォーメーションは、日本は30%以下であるのに対して、グローバルは62%だそうです。

日本ではCEOがコミットしたDXプロジェクトは少なく部門内にとどまっているために、ビジネス変革ではなく改善活動になりがち、ということがあるのかもしれません【仮説4】

また、『トランスフォーメーションに成功した企業のうち、リーダー層がアジャイルな考え方への意識変革ができていると回答した割合は73%だそうです。他方、『トランスフォーメーションに失敗した企業のうち、リーダー層がアジャイルな考え方への意識変革ができていないと回答した割合は85%だそうです。

昭和の働き方を変えられない、あるいは、昭和の働き方以外の働き方を知らない人たちがいるのかもしれません。言い換えると、アジャイルな働き方を知らない人たちがいるようです。【仮説5】


この章で立てた5つの仮説

この章では、「なぜ日本ではテレワークが機能しにくいのか?」、「なぜ日本のDX成功率が低いのか」を考え、下記5つの仮説を立てました。

  • 【仮説1】ビジネスプロセスを見える化することのインセンティブがない
  • 【仮説2】ビジネスプロセスを見える化せずに暗黙知として属人化することによって自分を守りたいという意識がある
  • 【仮説3】社内でハイコンテクストなやりとりをしている
  • 【仮説4】日本ではCEOがコミットしたDXプロジェクトは少なく部門内にとどまっているためにDXが成功しにくい
  • 【仮説5】アジャイルな働き方を知らない人たちがいる



2. ハイレベルな解決方法

この章では、1章の仮説が正しいとしたときに、どのような解決方法が考えられるのかをハイレベルに考えてみます。

なぜ、1章の仮説を正しいものとするかと言いますと、仮説が正しいか間違っているのかは、会社会社で異なるからです。正しいという会社もあるでしょうし、正しくないという会社もあるでしょう。

コロナ禍でまさにVUCA(Volatality、Uncertainty、Complexity、Ambiguityの頭文字)が加速しているように感じます。不安定さ、不確実性、複雑性、不明確さが増しているように感じています。

会社としては従来のビジネスに捉われないビジネス変革が求められているのだと思います。
会社で働く従業員の方々は、会社が持続可能なように貢献することが求められるのだと思います。



【仮説1】ビジネスプロセスを見える化することのインセンティブがない

ビジネスプロセスが見える化されていないと、ビジネス変革はできません。まさに「何をどうしたら良いのか見当もつかない」こんな感じになってしまいます。
そして、◯◯のビジネス変革をしたいと考えても、どこにどんな影響が出るのか、全く分析できません。


このような状況では困りますから、ビジネスプロセスは見える化する必要があるのです。

全社的にビジネスプロセスを見える化するプロジェクトを立ち上げるべきだ、と私は考えます。部門内で閉じてしまってはいけません。そして、このプロジェクトに参画する人たちが成果を上げた場合には評価すべきです。

なお、ビジネスプロセスの見える化に関しては、一般社団法人 BPMコンソーシアム という法人があります。


【仮説2】ビジネスプロセスを見える化せずに暗黙知として属人化することによって自分を守りたいという意識がある

自分を守りたいという気持ちは自然なものだと思います。

もっと自分を守るためにはビジネスプロセスを見える化した方が良いです。特に、コロナ禍でVUCAでビジネス変革が求められている今は。

暗黙知として属人化してしまうと、代わりの人がいないので、もしコロナに罹患してしまった場合は数日間仕事に穴を空けることになってしまいます。後遺症が出てしまったら仕事をできない日々が続いてしまうかもしれません。

仮説1に書いたことの重複になります。
ビジネスプロセスが見える化されていないとビジネス変革できないのです。「何をどうしたら良いのか見当もつかない」し、「◯◯のビジネス変革をしたいと考えても、どこにどんな影響が出るのか、わからない」ということになってしまいます。

見方を変えると、あなたが担当しているビジネスプロセスを見える化すると、コロナ禍でVUCAの今のような環境に耐えることに貢献することになります。また、ビジネス変革にも貢献することになり、その分野の専門家として認知されるようになります。ビジネス変革は1回で終わりではなく、継続的に変革し続けることが求められますので、専門家として変革し続けるプロジェクトに参画することになることが期待されると思います。

以上書いたとおり、見える化することは自分を守ることになる、と私は考えます。


【仮説3】社内でハイコンテクストなやりとりをしている

ローコンテクストなやりとりに切り替える必要があります。
具体的な解決方法は3章で考えることにします。


【仮説4】日本ではCEOがコミットしたDXプロジェクトは少なく部門内にとどまっているためにDXが成功しにくい

McKinsey & Companyが2020年5月に出したレポート "The future of work in Japan" は、下記3点を指摘しています。

  1. ⽇本は反復型のルーチンワークが占める時間が56%に達しており、そのうち67%が⾃動化できる可能性がある
  2. 失われた20年の中、⽇本の産業は既存のプロセスを徹底的に磨くことで価値を⽣んできた
  3. リアルを変える「⼿段」としてのデジタル変⾰(DX)であるという考え⽅をもって、そもそものビジネスのやり⽅や、現場での進め⽅といった実業の部分を変えないと、実際にビジネスで価値を⽣むことにならない


私は2番は改善活動のことを言っているのではないかと考えています。部門内で閉じてしまうと、しかも社外の声を聞かずに部門内だけで考えてしまうと現状の課題解決(改善活動)になってしまいがちだと思います。改善活動を部門内の部分最適と考えると、部分最適を集めても全体最適になることはないでしょう。「失われた◯◯年」を続ける余裕のある会社は少ないはずです。

1章でトランスフォーマーという映画を取り上げて、ビジネス変革とはビジネスを変身させるようなマグニチュードのものだと書きました。改善活動では立ち行かなくなったのだと思います。会社のビジネスを変身させることが求められているのだ、と私は思います。

CEOが決断するしかないのです。他方、CEOが決断しない場合は、ひとりの従業員として会社の将来性を考えることが必要なのではないか、と私は考えます。

ジョブ型に変わり成果主義になる流れが2020年後半くらいから早まっていると感じています。ひとりの従業員として会社の成績を評価するマインドセットを持つことは大切だ、と私は考えています。コロナ禍になって、転職や転社をした人が増えているように感じます。


【仮説5】アジャイルな働き方を知らない人たちがいる

アジャイル、英語のagileで「機敏な」という意味の形容詞です。
会社であれば、仕事はチームで行いますよね。

  • 機敏に各メンバーの状況を共有し、
  • 機敏に振り返りを実施し、
  • 適宜機敏に打ち手を考え、
  • 考えた打ち手を実施し、
  • 機敏に振り返りを実施して、適宜機敏に打ち手を考える

このサイクルを機敏に回す働き方をアジャイルな働き方と言います。

コロナ禍でVUCA。不安定で(Volatility)、不確実で(Uncertainty)、複雑で(Complexity)、不明確(Ambiguity)な今、この働き方が注目されています。

ちなみに、私は 『働き方:アジャイルな働き方とは:アジャイルな働き方を導入するには』 という3分程度で読めるコラムも書いています。

アジャイルな働き方を導入するには、ファシリテーションを活用することが必要だ、と私は考えます。
ファシリタティブなリーダーシップを持った人が必要です。


解決方法の要約

2章では、1章で出た5つの仮説について、ハイレベルな解決方法を考えました。
どうやら、これらが解決出来るのならば、テレワークが機能しDXにも対応できそうです。
もちろん、この5つだけではないかもしれませんが、この5つは解決しないと前に進めなさそうだ、と言えると私は考えます。

「【仮説1】ビジネスプロセスを見える化することのインセンティブがない」に対する解決方法

全社的にビジネスプロセスを見える化するプロジェクトを立ち上げ、このプロジェクトに参画する人たちが成果を上げた場合には評価する。小さな成果を頻繁に評価する。

「【仮説2】ビジネスプロセスを見える化せずに暗黙知として属人化することによって自分を守りたいという意識がある」に対する解決方法

暗黙知で属人化しておくよりも、見える化することは自分を守ることになる。

「【仮説3】社内でハイコンテクストなやりとりをしている」に対する解決方法

ハイコンテクストではなく、ローコンテクストなやりとりにする。

「【仮説4】日本ではCEOがコミットしたDXプロジェクトは少なく部門内にとどまっているためにDXが成功しにくい」に対する解決方法

CEOがコミットした全社的なプロジェクトにする

「【仮説5】アジャイルな働き方を知らない人たちがいる」に対する解決方法

アジャイルな働き方を導入する。そのためにファシリタティブなリーダーシップを持つ人を育てる。

これらの解決方法を具体的にすると、どういうことになるのか。3章ではこの辺りについて考えます。


3. 具体的な解決方法の例

この章では、2章で述べたハイレベルな解決方法を、具体的に適用するとどうなるのか、具体的なイメージを持っていただくことを目標に例を用いて考えてみます。

CEOがコミットした全社的なプロジェクトを立ち上げます。目の付け所は、お客様です。お客様の顧客体験価値を上げることです。部門内の業務改善ではありません。

はじめにやるべきことは、全社的に現状のビジネスプロセスを見える化することです。プロセスマッピングします。
下図はプロセスマッピングの例です。一番ハイレベルなプロセスです。(図はタップやクリックで拡大します)
プロセス・マッピング

プロセスマッピングを作るためにはワークショップを開催します。リモートで働いている人がいる場合には、miroMURAL のようなクラウド上のホワイトボードを活用します。
このワークショップを促進するためにファシリテーターを入れます。何故か。ファシリテーターはローコンテクストなやりとりをするための、ワークショップの設計方法を知っているからです。1章に書いたとおり、ただ集まっただけでは、お互いに話の糸口も見つけられず、会話も弾まず、相手の言わんとしていることが掴めなくなり、ワークショップは失敗します。ファシリテーターはローコンテクストなやりとりをしながら、議論を促進し、ワークショップを進行します。


上図は一番ハイレベルなプロセスマッピングです。
例えば営業本部は、ショップからのFAX発注書を受け、生産依頼書を作成し、生産本部にFAXします。
どのような仕事であっても、抽象化すると、何かの依頼を受け、何かを処理し、次工程に何かを渡す、ということになると思います。インプット(input)、プロセス(process)、アウトプット(output)の頭文字を取ってIPOという場合もあります。上図の黄色い四角形の中身を、IPOの観点で詳しく記述することが次のレベルです。暗黙知で属人化しないように見える化する必要があります。

ビジネスプロセスを見える化する上で大切なことは、IT事にしない、ということです。ビジネスを見える化しているのですから、ビジネスを回しているその道の専門家が見える化を担当するべきです。ビジネス事であるべきです。ITの専門家が担当してしまうと、◯◯システムでやっていることを記述してしまいがちです。IT事になってしまいます。IT事にすると、ビジネスの専門家にとって、わかりにくい記述になってしまいがちです。

ビジネスプロセスを見える化する目的はDXのためでもあります。IT事にしてはいけない、でもITの専門家も入る必要がある。ここを解く1つの選択肢として、プロジェクト・マネジメント・オフィス(Project Management Office、以降PMO)をプロジェクトに入れることを提案します。

2章で参照した、McKinsey & Companyが2020年5月に出したレポート "The future of work in Japan" は、テクノロジー(技術)・アナリティクス(分析)・ビジネススキル(事業)をかけあわせた仕事・スキル「ビジネス・トランスレータ」(技術を活用し事業変革をリードできる人材)が必要だとしています。

私は、PMOにビジネス・トランスレータの役割を持たせてはどうか、と考えます。自分の業務以外のビジネスの専門家の人にもわかる、ITの専門家にもわかる、そうした見える化をワークショップを開催して実施します。ローコンテクストな議論を積み重ねてワークショップに参加している全員が理解できる見える化されたものを作成します。目線はお客様の顧客体験価値を上げること。PMOはビジネスの専門家とITの専門家との間に立って、両者をかみ合わせてつなぐ役割を担います。少し前の段落で書いたファシリテーションのスキルが必要になります。また、業務プロセスの知識とITの知識も必要でしょう。さらに言うと、ファシリテーションだけでなく、ソフトスキルが必要になります。

ソフトスキルは、ファシリテーション、コミュニケーション、プレゼンテーション、リーダーシップ、チームビルディング、エモーショナル・インテリジェンスなど対人系のスキルです。

PMOが相対するステークホルダーは多勢います。相手に合わせたコミュニケーション戦略を立て、伝えたいことをわかりやすく伝え、何を理解したのかを確認しながらコミュニケーションすることが求められます。わかりやすく伝えるためには、プレゼンテーションが求められる場面も多いでしょう。

リーダーシップとは、職場のチームで目標に向かって協働し、目標を達成することを成し遂げる力です。目標を達成するよう働きかける力とも言えます。リーダーとは、役割や職責であり、具体的には主任、課長、部長などです。
リーダーシップは、リーダーの職責を担う人だけに求められる能力ではなく、チームの目標を達成するために活動している従業員一人ひとりに必要な力といえます。コロナ禍でVUCAの今、課題への対応スピードを上げることが必要です。能動的に行動し、周囲に働きかける力を持つ人材が求められています。在籍年数や年齢は関係ありません。従業員一人ひとりがリーダーシップを身につけることは、会社の成長に大きく貢献します。

この章で書いている全社的なビジネスプロセスの見える化。このプロジェクトは簡単ではありません。ちょこちょこっとできるようなものではありません。全社的なビジネスプロセスを見える化するという目標に向かって、リーダーシップを持ってプロジェクトを導くPMOであれば、プロジェクトチームはひとつのチームとしてまとまっていくと思います。難しいプロジェクトを成し遂げたチームは結束力が増しますよね。つまり、PMOはチームビルディングする能力も必要になるのです。

この章で述べているPMOに必要なこと。特にコロナ禍でVUCAの今、大切なキーワードはアジャイルです。
全社的なビジネスプロセスの見える化プロジェクトは簡単ではありません。壁にぶち当たり続けるかもしれません。「うまくいかなそう」「このままではヤバいかも」といった兆候を察知し、必要な人たちで「うまくいかなそう」な状況を分析し、課題を特定し、打ち手を考え、打ち手を実行する。このサイクルをやり続ける。学び続ける。これが大切です。大きな失敗はチーム力を弱めてしまいます。他方、「このままではうまくいかなそう」という危険を察知し、打ち手を講ずることで、大きな失敗となる危険を回避しながら、なんとかプロジェクトを前に進めることができれば、チーム力を強くすることができます。


このような能力を持つPMOメンバーがいない、という場合は、そういう人を育てる必要が生じてきます。

また、PMOにはプロジェクト・マネジメントの能力が必要であることは言うまでもありません。



最後までお読みいただき、ありがとうございました。
 
 
 

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