会社の会議:不要な会議がもたらす悪影響を考える:今理解すべき3つの視点
このコラムは、ビジネスパーソンの方々を対象に書いています。
このコラムは、会議の設計とは何か、事前準備としてファシリテーターは何をすべきなのか、について考える内容です。
会議の準備という観点では 『会社の会議の進め方:場を作る』 のプロセス設計に深く関係します。
このコラムは、次の3章で構成します。
7分程度で読める内容です。
私は、ファシリテーションを核としたコンサルティング・サービスを営んでいる個人事業主です。屋号を BTFコンサルティングといいます。BTF は Business Transformation with Facilitation の頭文字をとりました。トランスフォーマーという映画をご存知の方がいらっしゃると思います。クルマがロボットに変身したり、ロボットがクルマに変身したりする映画です。トランスフォーメーション(transformation)とは変身させることです。ビジネス・トランスフォーメーションとはビジネスを変身させてしまうことです。ビジネス変革とも言われています。「ファシリテーションを活用してビジネス変革を実現して欲しい、そのために貢献したい」と考え、この屋号にしました。
ファシリテーション(Facilitation)。「人と人が議論し合意形成をする。この活動が容易にできるように支援し、うまく合意形成できるようにする。」これを実現するためにはどうしたら良いのかという課題を科学的に考え、試行錯誤を繰り返しながら作りあげられた手法、これがファシリテーションです。ファシリテーションをする人をファシリテーター(facilitator)と言います。
1. このコラムを書こうと思った背景の説明
東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会会長の森喜朗氏が辞任し、新会長に橋本聖子氏が選出されました。
新会長に求められる5つの資質として下記が公開されました。
- 五輪・パラリンピック、スポーツに対する深い造詣がある
- 五輪憲章やや東京大会の理念を実現し、将来にレガシーとしてつなげていくことができる
- 国際的な活動の経験があり、国際的な知名度や国際感覚がある
- 東京大会のこれまでの経緯や準備状況について理解している
- 組織運営能力や多様な関係者の調和を図る調整力を備えている
そして、新会長を選出する会議のメンバーは下記の8名の方々でした。(順番には何の意図もありません)
- 御手洗座長
- 日本オリンピック委員会(JOC)の山下泰裕会長
- 東京都の多羅尾光睦副知事
- 国際オリンピック委員会(IOC)の荒木田裕子オリンピックプログラム委員
- 元五輪体操代表の田中理恵氏
- 元五輪柔道代表の谷本歩実氏
- パラ競泳の成田真由美選手
- スポーツ庁の室伏広治長官
このコラムは、もしファシリテーターがこのような選出会議に参画するとしたら、どのようになるのだろうか、という内容で考えていきます。
2. もし私がファシリテーターとして新会長選出会議をファシリテートするなら
この章では、もし私がファシリテーターとして新会長選出会議をファシリテートするなら、どうアプローチするのか、ということを考たいと思います。
この章を書く目的は「会議を設計するとは」どのようなことなのか、具体例をもって説明することです。
話を単純にするために、候補者は既に決まっている、という仮定で話を続けます。
御手洗氏が座長ですので、この会議の座長にいくつかの案を持って、会議の進め方について相談させていただきます。これ以降、御手洗氏という個人名を使う必要はないので、座長と書かせていただきます。
投票者の名前を出さずにスコア選定理由を書く案
まず、事務局が事前に作業することを書きましょう。
新会長に求められる資質は5つですので、事前に付箋くらいの大きさの紙を5枚用意します。事務局が各々の紙に資質を書いておきます。(1枚の紙に1つの資質を書きます。)そして5枚の紙を封筒に入れます。
封筒の表には候補者の名前が書かれています。
この作業を(候補者の数)X(選出メンバーの数)続けます。
選出会議メンバーには候補者の数の封筒が渡されます。選出メンバーは各候補者の各資質についてのレベルがどのようなものなのか数字を記入し、そのように判断する理由を簡潔に書き添えます。
レベルとは、例えば下記のようなものです。
- レベル1 – 基礎的な知識がある
- レベル2 – 初心者(限定的な経験がある)
- レベル3 – 中級(実務経験がある)
- レベル4 – 上級(誰の助けも借りずに自律して実務を遂行することができる)
- レベル5 – エキスパート(第一人者として、困難な課題に対して助言したり課題解決することができる)
選出会議メンバーは記入した紙を元の封筒に入れ封をし、事務局に渡します。
事務局は選出会議メンバーから渡された投票を下図のようなスプレッドシートにタイプします。タイプすることで筆跡が消えます。(下図はタップやクリックで拡大します)
事務局は、Aさん、Bさん、をシャフルします。AさんBさんとは、上図のAさんBさんです。
例えば、荒木田委員は、候補者◯◯さんのスプレッドシートではAさんで、候補者□□さんのスプレッドシートではBさんといった具合です。そもそも封筒には選出会議メンバーの名前が書かれていませんので、このようにシャフルされたスプレッドシートが出来上がります。
選出会議の会場には、選出会議メンバーとファシリテーターが入ります。
ファシリテーターは事務局が記入したスプレッドシートをプロジェクターで投影します。
この時点で、選出会議のメンバーは自分が書いたレベルと理由しかわかりません。Aさん、Bさん、Cさんなどと名前が伏せられています。誰が何と投票したのかはわかりません。ファシリテーターは何が誰の投票なのかわかりません。
投票者の名前という属性がなくなるのです。
自分以外の選出会議メンバーの意見を「誰々さん」という忖度なしに見ることになります。
自分以外の視点からの意見を見ることによる気付きもあるでしょう。
選出会議ではメンバーがスクリーンに投影されたスプレッドシートを見ながら、意見を出し合います。
最初に候補者◯◯さんについて議論し、合意された結果を、スプレッドシートの総合判断欄にファシリテーターが記入します。
次に候補者□□さんについて議論し合意された結果が、□□さんの総合判断欄に記入されます。
そして、各候補者の総合判断欄を見比べて、ひとりの候補者が選出されます。
実際の進め方は2段階にすることを座長に提案します。
1段階目は、会議の進め方(議論プロセス)について選出会議メンバーに説明し、納得感を持ってもらうことです。ここでの議論の目的は会議の進め方を議論することであり、目標は会議の進め方を合意することです。座長と合意したからといって、各メンバーから支持される進め方か否かわかりません。全員が合意できる会議の進め方でなければ、納得感のある議論はできませんし、そもそも最初から合意されていなければ参加者意識も薄くなってしまいます。
2段階目は、合意された進め方(議論プロセス)で、候補者を選出することです。
投票者の名前を出さずにスコア選定理由を書かない案
もし、座長との相談の場で「理由は実際の会議の場で議論するからスプレッドシートに記入しなくていいのでは?」のような意見が出されたら、下図を見せます。(下図はタップやクリックで拡大します)
その際、レベルを選んだ理由を付けるメリットとデメリットを座長に説明することは必要でしょう。
1つのメリットは各選出会議メンバーが、理由を沈思黙考することです。人によっては、フワフワした固まっていない考えを持って会議に参加することがあります。ブレインストーミングは、その時はハイな気持ちになって「やった感」を感じることができますが、後になって「もっと良い考えがあったな」と思い返すことがあります。ひとりで「考える」時間を持つことは大切です。また簡潔にまとめることで、考えを整理し洗練させることができます。一文にまとめることを要求するという手もあると思います。実は、自分の考えを持って会議に参加することで、議論の質が上がり、会議時間の短縮につながることが多いのです。
デメリットの1つは、誰の意見かを推測可能になる可能性があることが挙げられると思います。選出会議メンバーの名前を伏せるという目的が失われる可能性があるということです。
投票者の名前を出す案
もし、座長との相談の場で、選出会議メンバーの名前を伏せてしまうことに抵抗を示された場合、選出会議を開催することの必要性を話し合う必要性があるかもしれません。
下図を見ながら話し合う必要があるかもしれません。(タップやクリックで拡大します)
私の意見が通るべきだ、なぜなら私は偉いから。といったような役職・役割を議論に持ち込みたいという気持ちはわからないでもないです。でもその気持ちを尊重するのであれば、会議を開催して皆の意見を出してもらい議論することの意義は何なのか、ということです。
『ファシリタティブなリーダーシップとは』 で書いたカリスマ型(支配型)でいたいのであれば、「私はこう決めた。君たちはこの決定に従え。」と命令してしまうしかないでしょう。
ただし、会議に参加するメンバーが賛成すれば、という条件がつきますが。もし、メンバーが賛成するということであれば、平たく言うと上の意見に反対できないヒラメなメンバーということになりますので、会議を開催する意味がありません。時間の無駄です。
それでも形だけの会議を開くというのであれば、もし私がファシリテーターなのであれば、「私は不要なので、どうぞお好きに開催してください」と言うと思います。ファシリテーターは不要だからです。
他方、選出会議メンバーたちが自由闊達に意見を議論できるように既にチームビルディングされているのであれば、名前を出しても出さなくても関係ないので、上図の案3でも意味のある話し合いができると考えます。この場合は、ファシリテーターが入る価値があります。
この章では、会議開催に際して、事前に会議の進め方(議論プロセス)を、その会議のオーナー(この章の例では座長)に相談するということを書きました。この章に書いたことは会議の設計です。ファシリテーターは会議のオーナーの意見を尊重する必要はありますが、全てに従うという戦略をとるべきではありません。ファシリテーターは会議のプロとも呼べるような人であるべきで、会議のオーナーに助言や示唆を与えることは大切な役割なのです。会議の設計は、できる限り具体的でわかりやすくて、会議の進行の様子を想像できるような粒度にすることが大切である、と私は考えます。
3. この会議設計の再利用
会社の会議でも、何かを選ぶこと、あるいは何かを評価すること、を目的とする会議を開くことがあると思います。
そのような場面では、2章に書いたようなやり方が再利用できると思います。
ファシリテーターとしては、再利用できる会議の設計書を、複数持っていると心強いはずです。ファシリテーターとしての資産と言い換えることもできるでしょう。
参加者の名前を伏せるやり方は、「誰」という属性を取り去り、「意見やアイデア」に集中して議論したいときに有効な場合があります。
ただし、実際の会議では対面にせよオンラインにせよ、会って議論するのですから 『会社の会議における「安心安全な場」とは?』 に書いた、下記3点が大切です。
- 否定されない安心安全で信頼できる場であること
- 前向きな話し合いができる場であること
- アイデアを紡ぎあわせようとする場であること
会議を設計するということがどのようなものなのかご理解頂けたでしょうか。
ステップとしては、下の3つです。
- ファシリテーターが会議を設計する(会議のオーナーと相談するたたき台を作る)
- ファシリテーターは会議のオーナーと相談する(2章の例では座長)
- 会議参加者の合意を得てから、設計した会議のやり方で会議を進める
最後までお読みいただき、ありがとうございました。