会議効率化:フレームワークとは?:今理解すべき3つの視点
このコラムはビジネスパーソンの方々を対象として書いています。
会議。
参加者全員で課題を議論し、打ち手(To Do)を決め、さらに、誰が、何を、いつまでに、何の役割を持って、実施するのかを合意形成しますよね。
合意された To Do が実施されない、という課題に遭遇したことはありますか?
このコラムでは、「実施されない To Do」を「実施できる To Do」「実施される To Do」に変えるためのコツを考えます。
このコラムは次の3つの章で構成します。7分程度で読める内容です。
私は、ファシリテーションを核としたコンサルティング・サービスを営んでいる個人事業主です。屋号を BTFコンサルティングといいます。BTF は Business Transformation with Facilitation の頭文字をとりました。トランスフォーマーという映画をご存知の方がいらっしゃると思います。クルマがロボットに変身したり、ロボットがクルマに変身したりする映画です。トランスフォーメーション(transformation)とは変身させることです。ビジネス・トランスフォーメーションとはビジネスを変身させてしまうことです。ビジネス変革とも言われています。「ファシリテーションを活用してビジネス変革を実現して欲しい、そのためのお手伝いをしたい」と考え、この屋号にしました。
ファシリテーション。Facilitationという名詞です。「人と人が議論し合意形成をする。この活動が容易にできるように支援し、うまく合意形成できるようにする。」これを実現するためにはどうしたら良いのかという課題を科学的に考え、試行錯誤を繰り返しながら作りあげられた手法、これがファシリテーションです。ファシリテーションをする人をファシリテーター(facilitator)と言います。
1. To Do が実施されない理由
To Do が実施されない理由にはいろいろなパターンがあるだろうと思います。例として、ここでは下記の3つを考えてみましょう。
- 投げっぱなし
- 面従腹背
- 能力不足
1.1. 投げっぱなし
会議の終了時刻が近づいてきていて、「◯◯については、Aさんお願いね。」と言って、一方的に To Do を振るやり方です。
かなり乱暴なやり方ですね。Aさんの合意を得ていません。そもそも、Aさんが◯◯について理解していることを確認していない可能性もあります。
1.2. 面従腹背
面従腹背とは、表面的に上の者に従うふりをしているものの、内心では従わないことです。
「◯◯については、Aさんお願いね。」となったときに、「はい。わかりました。」とは言うものの、To Do が実施されることはありません。
実は合意されていないのですから、実施されないのは、ある意味当然かもしれません。
1.3. 能力不足
「◯◯については、Aさんお願いね。」と言われ、「できるかできないか不安だなぁ。でも、私のことを信じて依頼してくれたのだから引き受けよう。」という気持ちで、「はい。わかりました。」と言うような場合です。
例えば、Aさんが若手だとしたら、「頑張ろう」という気持ちが優ってしまうこともあるでしょう。頑張れば実施可能なものならば良いのですが、頑張っても無理なこともあります。
2. To Do を実施可能なものにするためのコツ
1章では、To Do が実施されない理由を考えました。
この章では、1章で扱った下記3つについて、To Do を実施可能なものにするためのコツを考えます。
- 投げっぱなし
- 面従腹背
- 能力不足
2.1. 投げっぱなし
会議の終了時刻が近づいてきていて、何とか時間内に To Do を割り当てたいという思いから、「◯◯については、Aさんお願いね。」と言ってしまうことがあるかもしれません。もし、そうであればフォローする必要があると思います。
会議の場ではないところでAさんが納得するまで話し合うことが必要かもしれません。
もし、会議参加者の都合が許すのであれば、かつ複数の To Do を割り当てたのであれば、別の日時に会議を開催する方が良いかもしれません。そもそも時間に追われて、乱暴に決めてしまったのですから、◯◯の内容について会議参加者が同じ理解か否かもわかりません。参加者の間で理解が異なることはあり得ます。ここを丁寧に対応して、同じ理解の下に合意を得ることは大切です。
2.2, 面従腹背
バイアスがかかった見方かもしれませんが、いわゆるベテラン社員に面従腹背が見られることがあります。
ベテラン社員は、その人ならではの意見や主張を持っている人が多いです。また、ある仕事に対して周囲から専門家として認識されている人も多いです。そのような人のプライドを尊重しながら、◯◯についてAさんがやることの意義、そのことがチームにもたらす意義などを納得してもらうことが大切である、と私は考えます。
そもそも専門家なのですから、本人がやる気になれば、やってもらえるはずです。
同じ会社のチームであれば、多少の意見の違いがあっても、大きく考えれば同じベクトルの中にいることが多く、納得感を持って積極的に To Do を実施してもらえると思います。
デール・カーネギーは彼の著書『人を動かす』(ISBN978-4422100517)の中で、『人間は自尊心のかたまりです。人間は他人から言われたことに従いたくないが、自分で思いついたことには喜んで従います。だから、人を動かすには命令してはいけません。自分で思いつかせれば良いのです。』と書いています。
自分から納得感を持って「よし私がやってやろう」と思ってもらうこと。そうなるように会議をファシリテートすること。こういったことが大切だ、と私は考えます。
2.3. 能力不足
ある意味投げっぱなしに近いかもしれません。
目標は、各々の To Do 項目がスケジュール通りに目標の品質で実施されることです。ひとりで実施しなければならない、ということではありません。何人かで一つの To Do をやり遂げても良いのです。
To Do 項目までは決めるものの、その To Do の実施責任者だけ決めて、「後はよろしく」ではうまくいかない場合もあります。
3. RACI(レイシー)を活用しよう
この章では、RACI(「レイシー」と読みます)を紹介し、活用方法を考えます。
3.1. RACI(レイシー)の紹介
RACI は、役割と責任を見える化するものです。R、A、C、I 各々の役割と責任は下記です。
- R:実行責任者(RはResponsibleの頭文字):当該 To Do 項目を実行することに責任を持つ人(複数人可)
- A:説明責任者(AはAccountableの頭文字):当該 To Do 項目について内容や進捗・状況を組織内外に説明することに責任を持つ人(通常ひとり)
- C:相談される人(CはConsultedの頭文字):当該 To Do 項目の実行を支援する役割を担う(円滑に実行されるよう相談を受け助言する人(複数人可)
- I:報告を受ける人(IはInformedの頭文字):当該 To Do 項目の進捗・状況について報告を受ける役割を担う人(複数人可)
- R と A は誰かを必ず任命します。兼任可です。
- C と I は誰も任命されなくてもOKです。この2つも兼任可です。
下の動画(約5分30秒)は、RACI を説明しています。
ここでは、動画中に例として説明されている家事分担について、考えてみます。私の方で少し変更しています。(下図はタップやクリックで拡大します)
上図の RACI はお母さんに家事が集中しています。
- A:すべての家事の項目について、内容などを家族に説明することに責任を持っています。
- R:すべての家事の項目を実行する責任も持っています。
「お父さんは何もしないし、子供たちも大きくなってきたのに何も手伝ってくれない。なんで全部私がやらなくちゃいけないの!?」とイラッとするのも頷けますよね。
イライラしているお母さんを見て、小学校高学年のボクが、「お母さんどうしたのかな?」と心配になったとします。
- ボク:「お母さん。最近なんかイライラしてるように見えるんだけど、どうしたの?」
- お母さん:「あなたたちも大きくなったのに、お父さんも誰も家事を手伝ってくれないからかなぁ。なんかそれがイヤな感じがするのよ。」
- ボク:「どうしたらいいの?お手伝いしようか?」
- お母さん:「そうね。じゃあ、今度みんなで相談してみようか。」
このような会話があったとしましょう。
後日、お母さんがA4の紙に RACI の空白の表を書いてリビングのテーブルに置きました。
そして、家族全員で相談して下図の RACI を作りました。(画像上のタップやクリックで拡大します)
- お母さんは全部の家事の項目について、A すなわち内容などを家族に説明する責任を持ち続けます。
- R つまり実行する責任をみんなで分担することになりました。買い物はお父さん、洗濯は中学生のお姉ちゃん、皿洗いはお母さん、調理は最近家庭科で調理を習って興味を持ち始めたボクがお母さんの助けを受けながら頑張ることにしました。
- C は相談される人です。実行の支援もします。お母さんは、お姉ちゃんの洗濯の相談役にもなっています。お姉ちゃんとボクも食べたいものがあるので C がついています。「買い物に行くときには、何か食べたいものがあるのか聞いてね」という感じです。
- I は報告を受ける人です。お母さんは、食料品の買い出しについて、どこで何を買ってくるのか事前に報告を受けます。有体に言うと、買ってくるものを実質決めるのかもしれませんね。お父さんは、調理に I がついています。味にうるさいのかな。もしかすると、食べ物に何かの制限があるのかもしれません。
3.2. 面従腹背のベテラン社員への RACI 活用方法
2.2節の面従腹背のベテラン社員への RACI 活用方法を考えます。
業務の専門家であり、特定の業務についてとても詳しい人だとします。さらに、つい深掘りしてしまい求められているもの以上のものを作りがちのため、スケジュールが遅れる傾向がある人だとします。
このような場合、この専門家のベテラン社員を R(実施責任者)にして、スケジュール管理の観点でアドバイスをするプロジェクト・マネージャーを C(相談される人)にする、チームリーダーを A(説明責任者)にする、ということが有効かもしれません。To Do を実施する能力は持っているので、スケジュールの観点で相談できる人・アドバイスしてくれる人を付ければ、問題なく To Do が実施されるようになります。
3.3. 能力不足の新人さんへの RACI 活用方法
2.3節の新人さんへの RACI 活用方法を考えます。
新人さんを R(実施責任者)にして、その仕事に詳しい専門家を C(相談される人)にして、チームリーダーを A(説明責任者)にする、ということが有効かもしれません。専門家に相談しながら、アドバイスをもらいながら、OJT的に実施します。そして、To Do の進捗状況や課題などを、説明責任を持つチームリーダーに報告します。もし、チームリーダーも相談に乗ったりアドバイスをしたい、ということであれば、チームリーダーには A(説明責任者)に加えて C(相談される人)の役割も持ってもらえば良いのです。
ところで、このコラムはここまでオンライン会議か否かということに言及していません。
なぜかというと、リアルに対面の会議であっても、オンライン会議であってもできるからです。
オンライン会議の場合は、クラウド上のホワイトボードを活用して、チームで協働してホワイトボードに RACI の表を書きながら、会議を議論を進めれば良いのです。
オンライン会議でのホワイトボード活用に関しては、『会社の会議:会議の変革:今ファシリテーターが注目されている理由』 でわかりやすく解説しています。
RACI は単純(わかりやすい)かつ強力なフレームワークです。
ただし、ご自身の道具として使いこなすためにはリアルな仕事の場での実践が必須です。実際、使いこなすためにはコツがあります。文字数が長くなってしまいますし、リアルな仕事でないと定着しないので、このコラムは RACI の紹介にとどめました。
BTFコンサルティングでは RACI を始め、フレームワークに関するセミナーを持っております。単純な説明会ではなく、ご自身のご体験をフレームワークを使ったらどうなるのかを考えながら、納得感を持ちながらご理解いただく実戦的な内容となっています。
最後までお読みいただきありがとうございました。