働き方:非対面で信頼を築くために:私の体験を振り返りキーポイントを考察する
このコラムは、ビジネスパーソンの方々を対象に書いています。
雇用はジョブ型になり、成果主義に変わる流れがあります。あなたの会社は既にそうなっているかもしれませんね。
個人個人の能力を上げることが大切だとお考えの方がいらっしゃると思います。それだけでは不十分だ、と私は考えます。私は焦点を当てるべきはチームだと考えています。
このコラムでは、ファシリテーションを活用していただきたいと考えている私の立場から、成果を出すチームとなるためにはどうしたら良いのか、ということを考察します。
このコラムは次の3つの章で構成します。7分程度で読める内容です。
私は、ファシリテーションを核としたコンサルティング・サービスを営んでいる個人事業主です。屋号を BTFコンサルティングといいます。BTF は Business Transformation with Facilitation の頭文字をとりました。トランスフォーマーという映画をご存知の方がいらっしゃると思います。クルマがロボットに変身したり、ロボットがクルマに変身したりする映画です。トランスフォーメーション(transformation)とは変身させることです。ビジネス・トランスフォーメーションとはビジネスを変身させてしまうことです。ビジネス変革とも言われています。「ファシリテーションを活用してビジネス変革を実現して欲しい、そのために貢献したい」と考え、この屋号にしました。
ファシリテーション。Facilitationという名詞です。「人と人が議論し合意形成をする。この活動が容易にできるように支援し、うまく合意形成できるようにする。」これを実現するためにはどうしたら良いのかという課題を科学的に考え、試行錯誤を繰り返しながら作りあげられた手法、これがファシリテーションです。
ファシリテーションをする人をファシリテーター (facilitator) と言います。
1. ジョブ型と成果主義への移行
ジョブ型と成果主義への移行に関するニュースを聞く事が増えました。
この章では、今一度この動きを見てみたいと思います。
一例として、2020年10月後半以降のニュースをいくつかリストしましょう。
- 2020年10月20日付日本経済新聞記事『三菱重工が成果型評価 まず4万人対象 若手つなぎ留め』
- 2020年11月4日付日本経済新聞記事『三井住友海上、賞与の差 課長級で2倍 来年から一部ジョブ型』
- 2020年12月22日日本経済新聞『三菱ケミカル、成果主義を全面に 一般社員にも導入』
- 2021年2月4日付日本経済新聞記事『シニアも成果主義 カシオ給与変動、明治安田は管理職に』
- 2021年3月18日付日本経済新聞記事『NEC、管理職で成果主義強める ジョブ型後押し』
職務定義書(ジョブディスクリプション)を使って、個人個人の評価基準を上司と合意し、評価されるようになるようです。私もジョブディスクリプションについては、『これから起こる変化を考える:コロナ禍の時代にファシリテーターになろう』というコラムで説明しています。
あなたは、「個としてのご自分の能力を身につけなくては!」と思っていらっしゃるかもしれませんね。このことは大切なことです。一方、成果について考えると、個人の成果ではなく、チームの成果を重視する流れがあります。
例として、米国マイクロソフトを取り上げます。
上の記事は2016年11月の日経XTECHの記事です。マイクロソフトが2014年に、個人の成果よりもチームの成果を重視するように切り替えた、という内容の記事です。記事から、この変化の背景を抜粋します。
『パソコン向け市場が拡大していたころは、以前のランク付けによる評価制度が非常に有効に機能した。販売本数などの数字を組織的に積み上げて管理できるため、組織の末端で働く社員一人ひとりに割り当てた数字さえ達成できれば、会社は確実に成長できたからだ。』
『だが、ITのトレンドがパソコンからモバイル、クラウド、IoTに移ると、ランク付けによる評価制度が逆に成長の足かせとなってしまう。自分に割り当てられた数字さえ達成できればよい反面、他部門と手を組んでまで大きな数字を取りいこうといったモチベーションにはつながりにくいからだ。』太字部分は、私が太字で強調しています。
ちょっと乱暴かもしれませんが、一言でまとめると、ビジネスが複雑になったので、個人だけでどうにかできる時代ではなくなった。チームの成果を重視する事が必要になった。という事だと思います。
マイクロソフトが上記の変化を取り入れたのが2014年。私は、日本も個人ではなくチームの成果を重視すべきだ、と考える者です。
個人の成果を評価することから始まるのかもしれませんが、早晩チームの成果を評価するようになって欲しい、と私は考えています。
2. 今年会社が重要視しているスキル
成果を出すチームになるためには、チームメンバーに求められるスキルがあります。各メンバーが身につけるべきスキルがあります。
この章では、この辺りのことについてLinkedIn(リンクトイン)が出している情報を参照しながら、見ていこうと思います。
LinkedIn(リンクトイン)が "The Top Skills Companies Need Most in 2020—And How to Learn Them" を公表しています。『2020年に会社が最も必要としているスキル ー その習得方法』という感じでしょうか。私はこれを参照する形で、『ソフトスキルとハードスキル:今要求されているスキルとは』というコラムを書いています。
会社が最も必要としているスキルということは、成果を出すチームになるために今不足しているので強化が必要なスキルと言い換える事ができると思います。
ソフトスキルとは、コミュニケーション、プレゼンテーション、ファシリテーション、リーダーシップ、チームビルディングなどの対人系のスキルです。チームで協働するときに役に立つスキルであり、重要度が増しているスキルと言えます。
ハードスキルとは、特定のタスクをするときに必要となるスキルです。ソフトウェア開発のスキル、プロジェクトマネジメントのスキル、会計のスキル、◯◯業務を遂行するスキルなどです。
会社が最も必要としているソフトスキルのベスト5は下記です。
1位:創造性(Creativity)
個として創造性を持つことも大切でしょう。私は、創造性を発揮できるようなチームになることが強く求められている、と考えます。
2位:説得(Persuasion)
個として説得力・納得してもらう力を持つことも大切でしょう。私は、チームとしてこのスキルを発揮できるようになることが強く求められている、と考えます。同僚やステークホルダーに対して、効率よく説明し納得してもらうことができる、このスキルが求められています。チーム内での説明・説得であれば、フレームワークを活用してわかりやすく議論する、PREPを活用して簡潔に話すなど、ファシリテーションを活用した会議のしかたを学ぶことが必要になるかもしれません。
3位:協働(Collaboration)
チームとして協働し成果を出す。そういうチームとなることが求められています。
私は、チームにファシリテーション・マインドを身につけていただき、ファシリテーターを活用して効果的に協働できるチームとなるようチームビルディングすることが求められている、と考えます。ファシリタティブなリーダーシップを持った人がチームにいると良いですね。そういう人を育成すべきだ、と考えます。ファシリタティブなリーダーシップについては3章で説明します。
4位:適応性(Adaptability)
ファクトを捉え、前向きな姿勢で、偏見なく冷静かつ公平な態度で、課題に立ち向かうことが求められています。先の見通せない時代に於いては、職場のチームで課題に立ち向かう以外の選択肢は私には思いつきません。アイデアを最大限引き出し、かみ合わせ、まとめていくことのできるファシリテーターが必須です。また、変化の激しい時には、『アジャイルな働き方』が必要だ、と私は考えます。
5位:感情知能(Emotional Intelligence)
同僚、すなわちチーム内のメンバーとの関係性の構築、難しい局面での対応、こういったことをうまくできる能力が求められています。
3. 成果を出すチームになるために
この章では、ソフトスキルにフォーカスして、ソフトスキルを活用して成果を出すチームになるためには、具体的にどうするべきかを考えます。
2章では、ソフトスキルとは、コミュニケーション、プレゼンテーション、ファシリテーション、リーダーシップ、チームビルディングなどの対人系のスキルだと書きました。
チームで協働する際には良好なコミュニケーションは欠かせません。また、チーム内外に説明する局面もありますのでプレゼンテーションも大切です。さらに、ファシリテーション、リーダーシップ、チームビルディングは、成果を出すチームとなるために欠かせません。
会議。
会議は、ビジネスパーソンが協働して合意という成果を創る場、と考える事ができます。「たかが会議、されど会議」なのです。会議はソフトスキルを駆使する必要があります。協働して合意という成果を創る体験をいかに魅力的なものにできるか、いかに価値のあるものにできるか、この辺りがキーポイントになってくるでしょう。
ティール組織という書籍があります。(ISBN 978-4862762269)10万部を突破したそうです。第1版第10刷のページを参考までに付記します。
『達成型(オレンジ)組織では、従業員にプレッシャーをかけ、彼らが手を抜かないようにするのが管理職の仕事だ。』(p.206)としています。管理職には上位の管理職がいるので、この管理は循環する仕組みになっています。
一方、『学術研究によると、人々が意味のある目的を追求し、その目的に向かって動くための意思決定力と資源を持っているときには、上司からの喝も、無理な目標も必要ない。』(p.207)としています。
そして、『人々は陰で他人を評価しながら、その他人が自分について何を言うだろうかと神経質なまでに気にするものだ。そうした場所では、何か言葉が発せられ、沈黙が生じ、だれかの眉毛がつり上がるたびに、いったい何を意味するのだろうという詮索が始まる』(p.210)としています。
さて、このコラムのテーマは、「成果を出すチームになるために」です。「成果を出すチーム」は「評価されるチーム」と強くつながっていると思います。
達成型(オレンジ)組織での評価とは、人事(昇進、収入、雇用など)に直結する事が多い、と私は思います。上司が評価を行う事が多いです。その評価は頻繁に行われるのではなくて、多くても年に数回ではないでしょうか。そこには不安や心配がついて回ることも少なくありません。キーポイントは、不安や心配はパフォーマンスを下げる可能性が高いということです。
評価をフィードバックと考えてみましょう。
あなたのチームが互いに信頼関係のあるチームであり、そこで協働する場は安心安全な場だとします。頻繁にお互いにフィードバックを交換することは、どのような意味を持つのでしょうか。
それは、学び成長するための機会の提供になります。何故か。
うまくできたことについて、何故うまくいったのかを分析し、もっと良くするために次に何をトライしてみるか、をフィードバックする。
うまくいかなかったことについて、何故うまくいかなかったのかを分析し、次に何をトライしてみるかをフィードバックする。
このようなフィードバックをチームメンバー同士で交換し合うことで、組織力は強化されます。チームビルディングです。
うまくいった場合、「よかったよかった」では成長がありません。偶然うまくいっただけかもしれません。何故うまくいったのか、原因を分析して次につなげること、言い換えると次回も「うまくいくこと」を再現可能にする事が大切です。
うまくいかなかった場合、「何をやってたんだ!」という怒りの発散がNGであることはよく知られています。また、「次頑張ります。」「もっと頑張れ。」というような精神論に持っていかない事は大切だと思います。
能力的に無理があるのであれば、誰かのサポートがあればうまくできる可能性があるのか。時間的に忙しくてうまくいかなかったのであれば、仕事の優先順位付けに工夫の余地はあるのか。家庭の事情である期間は勤務時間が制約されるような状況であれば、チームとして何とかする方法はあるのか。「何故うまくいかなかったのかを分析し、次に何をトライしてみるか、をフィードバックする」とは、そういった実施可能な具体的なものであるべきです。
もう少し言うと、「うまくいかなかった」となる前の「うまくいかないかも」という予兆を捉えて行動することは大切です。アジャイルな働き方という働き方をご存知ですか?『働き方:アジャイルな働き方とは?』のような働き方に変えることを検討することは価値がある、と私は考えます。
あなたが、上記のフィードバックを適宜行うチームのメンバーだとしたら、どうでしょうか?
面倒臭い、と考える方もいらっしゃるかもしれませんね。
学び成長するための機会を得られる、と考える方もいらっしゃるでしょう。
ジョブ型と成果主義を生きていくためには、「学び成長する姿勢」が必要です。
ところで、リーダーシップとは何でしょう。
リーダーシップとは、職場のチームで目標に向かって協働し、目標を達成することを成し遂げる力です。目標を達成するよう働きかける力とも言えます。
そして、リーダーとは、役割や職責であり、具体的には主任、課長、部長などです。
リーダーシップは、リーダーの職責を担う人だけに求められる能力ではなく、チームの目標を達成するために活動している従業員一人ひとりに必要な力といえます。
先が見通せない激変しているビジネス環境にいる今、課題への対応スピードを上げることが必要です。能動的に行動し、周囲に働きかける力を持つ人材が求められています。在籍年数や年齢は関係ありません。従業員一人ひとりがリーダーシップを身につけることは、チームの成長に大きく貢献します。
ファシリタティブ (facilitative)は、「物事の進行などを促進する」という意味の形容詞です。ファシリタティブなリーダーシップとは、ファシリテーションを中核に置きながら、チームに働きかけチームを目指す目標に到達するようリードするリーダーシップです。
ファシリタティブなリーダーシップが、チームを安心安全な協働の場にして、互いの信頼関係を醸成することに役立ちます。ファシリタティブなリーダーシップを持った人のもと、学び成長するチームとなっていただきたい、と私は考えます。
安心安全な協働の場を作るはじめの一歩は、「発言しやすい・発言が否定されない安心安全な場」を作ることです。これは、かなり難しいというか訓練が必要かもしれません。安心安全な場については、私のコラム 会社の会議における「安心安全な場」とは? でわかりやすく説明しています。
少し前の段落で、評価をフィードバックと考えてみました。安心安全な場における評価とは、どのようなものでしょう。
チームメンバーがチームに貢献していることを実感できることは大切です。その貢献に対して他のメンバーから評価され感謝されることも大切です。例えば、うまくいかなかったことについて、何故うまくいかなかったのか分析し、次に何をトライしてみるのか、をフィードバックし、話し合いトライする。つまり学びのトライです。この活動をとおして少しでもうまくいったのであれば、フィードバックした人(アドバイスした人)に対して、トライした人が「ありがとうございました。◯◯さんのアドバイスのお陰で助かりました。」など感謝の言葉を言う。トライした人に対してチームのメンバーは「□□の時、△△に挑戦したことでチームの雰囲気が変わったよね。よく頑張りましたね。」など言葉で評価する事が大切です。
ファシリタティブなリーダーシップを活用して、チーム内にそういう協働の場を作ることが、とても大切です。
毎日のようにDXという言葉を見聞きします。DXに対処するためにもファシリタティブなリーダーシップは有効です。この辺りのことについては、私のコラム『コロナ禍のリーダーシップ:ファシリタティブなリーダーシップとは』でわかりやすく説明しています。
チームを育てるためには、各々のメンバーが育つ事が前提になります。フィードバックは大切です。その上でさらに、お互いの多様性を認め、各メンバーが自己肯定感と自信を高め、成長した個と個を紡ぎ、チームを育てることも大切です。この辺りのことについては、私のコラム『自分を育てる・組織を育てる』の3章でわかりやすく説明しています。
チームが育つための、コロナ禍の環境面でのキーワードとして、リモートやオンラインがあると思います。かなり慣れてきた方もいらっしゃるようです。『コロナ禍の職場のチームを再構築する』というコラムの中で、「自分たちのチームのコロナ禍の時代のチーム文化を創る会議」というワークショップを開催することを提案しています。リモートやオンラインという環境の下で、チームのみんなが働きやすいように、新しい文化・ルールを創るべきだ、と考えているからです。
また、テレワークによるメンタルヘルスへの影響が心配されます。ひとりで悩んではいけません。ひとりで悩ませてはいけません。チームみんなで打ち手を考える事が大切です。ファシリタティブに対応することが大切です。この辺りのことについては、私のコラム『新型コロナウイルス対策:今大切なこと:メンタルヘルスへの影響と打ち手を考える』でわかりやすく説明しています。
あなたのチームでは、チームに求められるスキルは何々で、チームとして各スキルはどのくらいのレベルが必要で、各メンバーは現状どのくらいのスキルレベルにあるのか、ということを見える化していらっしゃいますか。つまり、「成果を出すチームになる」というテーマについて、スキルの観点から考えるという事です。この辺りのことについては、私のコラム『スキルマトリックスとスキルレベル:スキルについて考える』で具体例を上げてわかりやすく説明しています。
成果を出すチームになることは、とても大切なことです。ファシリタティブなリーダーシップを持つ人を育成し、その人を中心に、学習するチームにするチームビルディングをし、成果を出すチームを目指していただきたい、と私は考えています。
うまくチームビルディングできたならば、そのチームで協働して働くことは、貴重な従業員体験を獲得することに繋がる、と考えます。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。