会社の会議:ファシリテーションでどう変わる?:共感マップ(考える・感じる)
このコラムは、ビジネスパーソンの方々を対象に書いています。
このコラムのテーマは、会社の会議における「安心安全な場」です。
これが何を意味するのか、すぐにわかった方は、このコラムをお読みいただく必要はないと思います。
他方、そうでない方には、是非ご一読いただきたいと思います。理由は、人と人とが議論する場において、とても大切なことだからです。私のファシリテーションでは、最も大切なことの1つと言っても過言ではありません。
下記の3つの章で、この大切なことを説明します。5分程度で読める内容です。
私は、ファシリテーションを核としたコンサルティング・サービスを営んでいる個人事業主です。屋号を BTFコンサルティングといいます。BTF は Business Transformation with Facilitation の頭文字をとりました。トランスフォーマーという映画をご存知の方がいらっしゃると思います。クルマがロボットに変身したり、ロボットがクルマに変身したりする映画です。トランスフォーメーション(transformation)とは変身させることです。ビジネス・トランスフォーメーションとはビジネスを変身させてしまうことです。ビジネス変革とも言われています。「ファシリテーションを活用してビジネス変革を実現して欲しい、そのために貢献したい」と考え、この屋号にしました。
ファシリテーション(Facilitation)。「人と人が議論し合意形成をする。この活動が容易にできるように支援し、うまく合意形成できるようにする。」これを実現するためにはどうしたら良いのかという課題を科学的に考え、試行錯誤を繰り返しながら作りあげられた手法、これがファシリテーションです。ファシリテーションをする人をファシリテーター(facilitator)と言います。
1. 会議における「不安危険な場」とは?
この章では、このコラムのテーマである「安心安全な場」の反対語として「不安危険な場」について考えてみましょう。
ある会社の営業部での話し合いの場面という想定です。
従業員Aは若手、従業員Bと従業員Cは先輩従業員という設定です。
話し合いのテーマは、「あまり売れ行きの芳しくない清涼飲料水をどう売り出していくか」です。
- 部長:それでは、何でもいいからアイデアあれば言ってくれ。
- 一同:・・・
- 課長:ここは意見があれば何でも自由に言える場だから遠慮せずに、さあ。
- 従業員A:こういうのはどうですか?2本か3本まとめて買った場合には、1本サービスとか。
- 従業員B:それじゃあ、利益が上がらないじゃないか。
- 部長:そうだな、ちょっと無理があるかな。
- 従業員A:それじゃあ、5本以上では?
- 従業員C:そんなに買う奴なんて、あまりいないんじゃぁないかなぁ。
- 部長:そもそも、そんなやり方したら、中身には自信がありませんと言っているようなものじゃないか。
- 課長:そうそう、安売りのスーパーじゃないんだから。さあ、他にはないかな?
(参照:カウンセラーの「聴く力」 ISBN978-4569772608)
いかがですか?上の話し合いのようなご体験はありますか?話し合いあるあるでしょうか?
できれば、少しの時間読み進めるのをやめて、従業員Aの立場に立ってみたり、従業員Bの立場に立ってみたり、部長や課長の立場に立ってみたりして、上の話し合いについて考えてみてください。
一例として、私は従業員Aの立場に立ってみました。「何でも自由に言える場って言ったよね?何でみんなから否定されなくっちゃいけないの?当選者がデザインした自分オリジナルのラベルをつけた、すっごくインパクトのあるドリンクを1本サービスってどうかな、って思ったのに。聞いてもくれなかった。もう、この人たちの前で発言するのは止めようかな。」なんて思ってしまうかもしれませんね。自分のアイデアを受け入れてもらえる「安心安全な場」ではなく、いつ否定攻撃されるかわからない「不安危険な場」になってしまっています。
見方によっては、有能な若手をみんなで潰しているようにも見えてしまいます。
もう一点。この話し合い、従業員Aさん以外は評論家みたいになっているように見えます。「あまり売れ行きの芳しくない清涼飲料水をどう売り出していくか」というテーマに対して、いろいろなアイデアを募る話し合いだったはずなのに。
2. 会議における「安心安全な場」とは?
1章では、このコラムのテーマである「安心安全な場」の反対語として「不安危険な場」について、例示しました。
この章では、「安心安全な場」について考えてみましょう。
次の例は、どうでしょうか?
- 従業員A:こういうのはどうですか?2本か3本まとめて買った場合には、1本サービスとか。
- 従業員B:面白そうなアイデアだね。もう少し具体的に話してくれる?
- 従業員A:はい。2本か3本まとめて買った場合にくじを引いてもらうんです。で、当選者は自分でデザインした自分オリジナルのラベルをつけたドリンクを1本もらうことができるというのはどうかな、って思いました。
- 従業員C:インパクトありそうだね。SNSで評判になるかも。
- 課長:おっと...それってインパクトの強いキャンペーンを打つってことだね。
- 部長: じゃあ、まずは「売り上げ増につながりそうなインパクトの強いキャンペーン」について、アイデア出ししてみようか?
従業員Bの「もう少し具体的に話してくれる?」が、1章の例を大きく変えるきっかけを与えています。
1章の例で「従業員Aがもっとわかりやすく発言すればよかったんだよ」なんて言わないで欲しいです。従業員Aだって、自分のアイデアをわかりやすくみんなに伝えることができれば良いのかもしれませんが、完璧な人間なんていないし、みんなでチームでアイデアを引き出し合うことに価値がある、と私は考えるのです。その場に集まったチーム全員の力を合わせて一番良いアイデアを導き出すことに価値がある、と考えます。
従業員Bはこれをやってくれました。従業員Bに触発されたのか、2章の例では評論家っぽい人はいません。みんなが真剣に、「あまり売れ行きの芳しくない清涼飲料水をどう売り出していくか」というテーマに対して、アイデア出しをしようとしている様子が伺えます。
3. 話し合うときに大切なポイント
ポイントは3つです。
- 否定されない安心安全で信頼できる場
- 前向きな話し合い
- アイデアを紡ぎ合わせようとしている
上記のポイントを実現するためには、ファシリテーションが役立ちます。
ファシリテーターは、話し合いのための場づくりとして、これらのポイントに重点を置きます。
1章の「不安危険な場」の例で、
- 従業員B:それじゃあ、利益が上がらないじゃないか。
- 部長:そうだな、ちょっと無理があるかな。
と発言が出た段階で、ファシリテーターが、「あれ?今は、いろいろなアイデアを募る段階ですよね?この時間はアイデア出しに注力してみませんか?よろしいですか?(そして、みんなの賛成が得られたら)ところでAさん、具体的にはどのような感じなのか、もう少し詳しくご説明いただけますか?」と言ったりします。
ファシリテーションが浸透している組織であれば、「あっ、いけね。やっちゃった。」と従業員Bと部長は気付くかもしれません。まだ浸透していない組織では、「えっ、俺を・私を否定するの?俺・私は部長なんだけど。」と思われてしまうかもしれません。
回避策としての、ひとつの選択肢は、私のような外部のファシリテーターを入れることです。「えっ、俺を・私を否定するの?」という感じを察知したら、少しお時間をいただいて、「ファシリテーターが入った会議はどういうものか」をリマインドさせていただいたりします。リマインドするということは、事前に会議の参加者には「ファシリテーターが入った会議はどういうものか」を説明し理解してもらっていることが前提になります。もしファシリテーターが参加者から一時的に嫌われても、従業員の方が不利益を被る危険性はありません。
ファシリテーションが組織に浸透するまでは、外部のファシリテーターを活用する選択肢がある、ということを覚えておいていただきたいと思います。また、ファシリテーターが育成されるまでは、OJTで外部のファシリテーターの助言を受けながら協働しながら成長するという選択肢がある、ということも覚えておいていただきたいと思います。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。