チェンジマネジメントとは? 課題解決の施策を成功させるポイント

沖本能道

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テーマ:経営リスク対策


課題を解決するために、新しい施策を導入する。FAQを整備する、マニュアルを改訂する、研修を実施する、システムを導入する。企業では、さまざまな課題に対して改善策が検討され、実行されています。

しかし、施策を導入したからといって、必ず期待した成果が得られるとは限りません。

例えば、FAQを整備したのに、担当者が使ってくれない。研修を実施したのに、仕事の進め方が変わらない。新しいシステムを導入したのに、従来の方法が使われ続けている。

このような経験はないでしょうか。

施策の内容に問題があるのかもしれません。あるいは、施策を実践する人たちが、その目的や価値、具体的な使い方を十分に理解できていないのかもしれません。

課題解決の施策を成功させるには、施策そのものを考えるだけでなく、実際に施策を実践する人や組織の変化にも目を向ける必要があります。

そこで重要になる考え方が、チェンジマネジメントです。

チェンジマネジメントは、組織や業務に変化を起こし、目指す状態へ移行するための取り組みです。新しい施策を導入するだけでなく、関係者の理解や参加を促し、実践を通じて期待する成果につなげることが求められます。

この記事では、チェンジマネジメントの意味や代表的な手法を解説するとともに、課題解決の施策を成功させるために必要な考え方、関係者の参加を促す方法、実践事例を紹介します。

チェンジマネジメントとは? 課題解決の施策を成功させるための考え方

チェンジマネジメントの意味

チェンジマネジメントとは、組織や業務などに変化を起こす際に、現在の状態から目指す状態へ移行できるよう、計画的に管理・推進する考え方です。

企業では、経営方針の変更、組織改革、業務プロセスの見直し、DXの推進、新しいシステムや制度の導入など、さまざまな場面で変化が求められます。

こうした変化を実現するには、新しい仕組みやルールを用意するだけでは十分ではありません。

実際にその仕組みを使う人、業務を進める人、組織を管理する人など、関係者の理解と協力が必要になります。

例えば、新しいシステムを導入する場合、システムの機能や操作方法を説明するだけでなく、なぜ導入するのか、これまでの仕事がどのように変わるのか、導入によって何が改善されるのかを理解してもらう必要があります。

また、実際に使ってみると、想定していなかった問題や不安が生じることもあります。そうした状況を把握し、必要な対策を講じながら、目指す状態へ移行していくことがチェンジマネジメントの役割です。

チェンジマネジメントの目的と必要性

チェンジマネジメントの目的は、変化を起こすこと自体ではありません。

企業が抱える課題を解決し、目指す成果を実現するために、必要な変化を組織全体で実践できるようにすることです。

例えば、業務効率化を目的としてFAQを導入した場合、FAQを作成したことは施策の実施にすぎません。

担当者がFAQを活用し、問い合わせへの対応が改善され、顧客の問題解決や業務効率化につながって初めて、当初の目的に近づいたといえます。

同じように、研修を実施した場合も、研修を受講したことだけでは、業務上の成果が得られたとは限りません。学んだことを実際の仕事で活用し、期待する行動や結果につながっているかを確認する必要があります。

このように、施策の導入と、施策によって期待する成果の実現には隔たりがあります。

その隔たりを埋めるために、関係者の理解や参加、実践、評価、改善を組み合わせて進めることが重要です。

チェンジマネジメントで扱う変化は、人の意識だけではない

チェンジマネジメントというと、従業員の意識改革や、変化に対する抵抗を減らすことを思い浮かべるかもしれません。

もちろん、関係者の意識や行動は重要な要素です。

しかし、変化の対象は意識だけではありません。

  • 業務の進め方や手順
  • 担当者の役割や責任
  • 部門間の連携や情報共有
  • 評価や管理の仕組み
  • 使用するシステムやツール
  • 顧客へのサービスや提供価値

こうした要素が相互に関係しながら変化します。

例えば、新しい業務手順を導入しても、担当者の役割や評価方法が従来のままであれば、新しい手順を実践しにくい場合があります。

また、新しいシステムを使うことで業務が効率化されるとしても、担当者にとって操作が複雑になったり、確認する仕事が増えたりすれば、活用が進まないことも考えられます。

そのため、変化を考える際には、人の意識だけでなく、業務や組織の仕組み、関係者が置かれている状況も含めて捉える必要があります。

チェンジマネジメントの代表的な手法・フレームワークと進め方

チェンジマネジメントには、変化を進めるためのさまざまな手法やフレームワークがあります。

代表的なものとして、ADKARモデルやコッターの8段階プロセスが知られています。

ADKARモデルとは?



ADKARモデルは、個人が変化を受け入れ、新しい行動を実践し、定着させるまでに必要な要素を五つに整理したフレームワークです。

ADKARは、次の五つの頭文字から成り立っています。

  • Awareness(認識):なぜ変化が必要なのかを理解する
  • Desire(欲求):変化に参加し、実現したいと思う
  • Knowledge(知識):変化に必要な知識や方法を知る
  • Ability(能力):実際に新しい行動を実践できる
  • Reinforcement(定着):変化を継続できるようにする

例えば、新しいFAQを導入する場合、担当者がFAQの必要性を理解し、使ってみたいと思い、使い方を知り、実際に活用できるようになり、その後も使い続けられる状態をつくるという流れで考えられます。

FAQを公開しただけでは、KnowledgeやAbility、Reinforcementまで実現したことにはなりません。

ADKARモデルは、個人が変化を実践するうえで、どの要素が不足しているのかを整理する際に役立ちます。

コッターの8段階プロセスとは?

コッターの8段階プロセスは、組織変革を進めるための代表的なフレームワークです。

変革を組織全体で推進するために、次の八つの段階を示しています。

  1. 危機意識を高める:なぜ変革が必要なのかを認識する
  2. 推進チームをつくる:変革を進める中心となるメンバーを集める
  3. ビジョンと戦略をつくる:目指す状態と実現方法を明確にする
  4. ビジョンを共有する:関係者に変革の目的や方向性を伝える
  5. 行動を促す:変革を妨げる要因を取り除き、実践できる条件を整える
  6. 短期的な成果を生み出す:変革の進展を確認できる成果をつくる
  7. 成果を活用して変革を進める:得られた成果を次の取り組みにつなげる
  8. 変革を組織に定着させる:新しい行動や仕組みを組織の文化に組み込む

このフレームワークは、組織全体で変革を推進する際に、どのような段階を踏む必要があるのかを考える手がかりになります。

フレームワークを使えば、変革が成功するわけではない

ADKARモデルやコッターの8段階プロセスは、変化を考えるうえで役立つ枠組みです。

ただし、フレームワークを知っていることと、実際に変革を成功させられることは同じではありません。

企業ごとに、抱えている課題や組織の状況、関係者の役割、施策の内容は異なります。

そのため、フレームワークの段階を形式的に実施するだけでは、十分な成果につながらない場合があります。

重要なのは、自社の課題や目指す状態を明確にし、関係者に何が起きているのかを理解したうえで、必要な施策を組み立てることです。

また、施策を実施した後には、実際に何が変わったのかを確認し、必要に応じて改善することも欠かせません。

なぜ課題解決の施策を導入しても、期待した成果につながらないのか?

企業では、課題を解決するためにさまざまな施策が導入されています。

しかし、施策を導入したにもかかわらず、期待した成果が得られないことがあります。

FAQを整備しても、担当者が使わない

例えば、FAQを整備したのに、担当者が使ってくれないという問題です。

FAQには、問い合わせへの回答や、業務上必要な情報が整理されています。担当者がFAQを活用すれば、情報を探す時間を短縮し、回答のばらつきを抑えられる可能性があります。

ところが、実際にはFAQを使わず、自分の経験や記憶を頼りに回答している担当者がいるかもしれません。

この場合、FAQの項目数を増やしたり、検索機能を改善したりするだけで解決するとは限りません。

担当者がFAQの存在を知らないのか。必要な情報を見つけられないのか。内容を信頼できないのか。使うよりも自分で調べたり、周囲に聞いたりする方が早いと感じているのか。

使われない理由によって、必要な対策は異なります。

FAQを整備することが目的になってしまうと、実際に使う人の状況や、使わない理由を十分に捉えられないことがあります。

施策を導入する側と、実践する側では見えているものが異なる

施策を企画する側は、課題を解決するために必要なものとして、施策の目的やメリットを理解しているかもしれません。

一方、実際に施策を実践する側は、これまでの仕事の進め方が変わることや、新しい作業が増えること、覚えることが増えることなどを気にしている可能性があります。

例えば、FAQを使うように指示された担当者にとって、FAQを検索する作業が増えるだけで、業務が楽になる実感がなければ、積極的に使う理由を見いだしにくいでしょう。

また、新しい施策を実践することで、自分の仕事がどのように評価されるのか、責任や負担がどう変わるのかが分からなければ、不安を感じることもあります。

施策を導入する側が正しいと考えていることと、実践する側が納得して取り組めることは、必ずしも一致しません。

この違いを理解しないまま施策を進めると、説明や指示は伝わっていても、実際の行動につながらないことがあります。

変化に対する抵抗を、本人の意識の問題だけにしない

新しい施策が導入されると、従来の方法を変えたくない、今のままでよいという反応が見られることがあります。

こうした反応を、単に変化への抵抗や本人の意識の問題として捉えてしまうと、原因を見誤る可能性があります。

例えば、新しい施策を実践することで、仕事が増える、責任が重くなる、評価が下がる、失敗したときに責められるといった不安があるかもしれません。

また、施策の目的や効果を理解できず、自分にとって何が良くなるのかが分からない場合もあります。

そのような状況で、施策を実践するように求められても、積極的に参加することは難しいでしょう。

むしろ、新しい施策に取り組んで不利益を被る人がいれば、周囲の人は「静観した方が身のためだ」と考えるかもしれません。

変化に対する消極的な反応を、本人の性格や意欲だけで説明するのではなく、なぜそのような反応が生じているのか、置かれている状況や条件を確認する必要があります。

施策を導入する側と、実践する側の間に何が起きているのか?

施策を導入しても、関係者の理解や行動につながらないという問題は、企業の変革に関する調査からも見えてきます。

ここでは、電通が実施した「第3回 企業の変革に関する従業員意識調査」の結果を紹介します。

同調査は、2025年11月20日から21日にかけて、大企業の従業員や経営層、中間管理職など900人を対象に実施され、2026年4月21日に公表されたものです。

調査結果から、特に注目したい数字は次のとおりです。

  • 74.3%:勤務先が変革に関する情報を発信していると回答
  • 22.7%:自分自身が変革に向けた行動を起こしていると回答
  • 26.5%:変革の必要性は理解しているものの、自分事として捉えられていない「変革他人事層」
  • 25.3%:変革に否定的な回答者のうち、社内の理解や浸透が不十分だと回答
  • 23.6%:変革に否定的な回答者のうち、人事評価と結びついていないと回答

また、中間管理職の貢献に対する自己評価は、中間管理職本人が57.7%、経営層が66.0%である一方、一般従業員では26.5%となっており、立場によって認識に差が見られます。

※各割合は、それぞれ調査で設定された質問・回答者の集計対象に基づく数値です。特に25.3%と23.6%は、変革に否定的な回答者を対象とした結果です。

情報を発信することと、行動につながることは同じではない

この調査で注目したいのは、企業が変革に関する情報を発信しているという回答と、自分自身が行動を起こしているという回答との間に差が見られることです。

企業が変革の必要性や方針を説明しても、それだけで従業員が自分の仕事や役割と結びつけて理解し、行動するとは限りません。

情報を受け取ることと、その意味を理解すること。理解することと、実際に行動すること。これらの間には、それぞれ隔たりがあります。

また、中間管理職の貢献に対する認識にも、本人と経営層、一般従業員との間で差が見られます。

変革を推進する側が十分に取り組んでいると考えていても、実践する側には、その取り組みが十分に伝わっていない可能性があります。

こうした認識の違いを放置したままでは、変革に必要な協力や参加を得ることが難しくなるでしょう。

変革を自分事として捉えられる条件を考える

変革の必要性を説明することは重要です。しかし、説明を受けた人が、自分の仕事や役割にどのような関係があるのかを理解できなければ、行動にはつながりにくいかもしれません。

必要なのは、変革の目的を伝えるだけでなく、実践する人たちが何を理解し、何を不安に感じ、どのような条件であれば参加できるのかを把握することです。

施策を導入する側と実践する側が、お互いの状況や期待を理解し合い、実際に取り組める方法を考える必要があります。

電通の調査は、企業の変革において、情報発信と従業員の行動との間に隔たりがあることを示す一つの市場データです。

その隔たりをどのように埋め、施策の実践や成果につなげるのか。ここに、チェンジマネジメントを考えるうえでの重要な論点があります。

施策を成功させるには、関係者の相互理解と参加がなぜ必要なのか?

施策を導入する側と実践する側の間に隔たりがあるとすれば、どのように解消すればよいのでしょうか。

そのために必要なのが、関係者同士の相互理解と、施策づくりへの参加です。

一方的に説明するだけでは、相互理解にならない

施策を導入する際には、目的や内容、期待する効果などを関係者に説明することが一般的です。

しかし、説明を受けた人が内容を理解したかどうか、納得しているかどうか、実際に取り組める状態にあるかどうかは、説明しただけでは分かりません。

また、施策を実践する人たちにも、それぞれの考えや事情があります。

管理者が見ている課題と、担当者が日々の業務で感じている問題は異なるかもしれません。導入する側がメリットだと考えていることが、実践する側には負担と受け取られることもあります。

そのため、導入する側から説明するだけでなく、実践する側の意見や不安、期待を把握する必要があります。

さらに、実践する側の話を聞くだけでなく、導入する側が何を目指し、なぜその施策を必要としているのかも理解してもらわなければなりません。

お互いの考えや期待を理解し合うことが、相互理解の出発点です。

ヒアリングとインタビューは、目的が異なる

関係者の考えを理解するために、ヒアリングやインタビューが行われることがあります。

ただし、ここで区別しておきたいのは、ヒアリングとインタビューは同じ目的のものではないということです。

当社では、顧客や関係者の声を三つの層で捉えています。


図 三層VOC概念図

A層:状況・現象

何が起きているのか、どのような発言や事象があったのか。

B層:意味・背景

なぜその状況が問題なのか、どのような事情や経緯があるのか。

C層:価値観・要求・動機

何を大切にしているのか、何を求めているのか、なぜそう考え行動するのか。

ヒアリングは、主にA層とB層の状況や背景を把握するために行います。

一方、インタビューは、C層にある価値観や要求、動機を理解するために行います。

例えば、新しいFAQを使ってくれない担当者に対して、ヒアリングを行えば、FAQを使っていないという状況や、使わない理由として検索に時間がかかる、必要な情報が見つからないといった背景を把握できるかもしれません。

さらにインタビューを行うことで、担当者が仕事で何を大切にしているのか、どのような状態を実現したいのか、FAQに何を期待しているのかを理解できる可能性があります。

この違いは重要です。

状況や背景を把握するだけでは、情報を集めた側が相手の考えを理解したつもりになってしまうことがあります。

相手が何を大切にし、何を実現したいのかを理解し、さらに自分たちの目的や期待も伝え合うことで、初めて相互理解に近づくことができます。

率直に話し合える環境をつくる

相互理解を進めるためには、関係者が率直に意見を出せる環境も必要です。

例えば、上司と部下が同じ会議に参加していても、部下が上司の意見に反対しにくいことがあります。

施策を導入する側と実践する側の間にも、立場や権限の違いがあります。実践する側が不安や不満を感じていても、それを率直に伝えられなければ、本当の問題を把握することはできません。

そのため、役職や立場にかかわらず、意見を出し合える関係や場をつくることが大切です。

ここでいう環境づくりは、役割や責任をなくすことではありません。異なる立場にある人たちが、お互いの考えを率直に伝え、理解し合える状態をつくることです。

施策を実践する人たちの不安や疑問を受け止め、導入する側も目的や考えを伝える。そうした対話を通じて、参加者が自分たちの問題として施策を考えられるようになります。

関係者と施策を共につくり、実践・評価・改善するには?

関係者の理解が進んだら、次は施策をどのように実践するかを考えます。

重要なのは、導入する側が決めた施策を一方的に渡すのではなく、実践する人たちと一緒に考え、実行できる状態をつくることです。

関係者の意見を整理し、共通の課題を捉える

まず、関係者から出された意見や情報を整理します。

意見を集めるだけでは、何が問題なのか、どのような対策が必要なのかが分からないことがあります。

例えば、FAQが使われないという問題に対して、担当者から次のような意見が出たとします。

  • 必要な情報が見つからない
  • FAQの内容が古い
  • 検索するより、周囲に聞いた方が早い
  • どの回答を使えばよいか分からない
  • FAQを使う時間がない

これらを一つの問題として扱うのではなく、内容や背景を整理し、どのような課題が存在するのかを明確にします。

当社では、KT法の状況分析シートなどを活用し、関係者から出された意見や情報を整理することがあります。

整理した内容を関係者に共有し、さらに意見を集めることで、最初の話し合いでは出てこなかった問題や、認識の違いを把握しやすくなります。

ロールプレイを通じて、実践上の問題を見つける

課題や対策の方向性が見えてきたら、ロールプレイを行い、実際の業務でどのようなことが起きるのかを確かめます。

FAQを使う場合であれば、実際の問い合わせを想定し、担当者がFAQを検索して回答する流れを試してみます。

その中で、必要な情報が見つからない、検索する言葉が分からない、回答の選択に迷うなど、実践して初めて分かる問題が見つかることがあります。

こうした問題を参加者と一緒に確認し、必要な対策を考えます。

例えば、FAQの分類を見直す、検索語を追加する、回答の選択基準を明確にする、更新の担当者や手順を決めるといった対策が考えられます。

対策をシミュレーションし、実行できる状態にする

対策を立案したら、その対策によって問題が解決するのかを、もう一度ロールプレイなどで確かめます。

対策を考えただけでは、実際に問題が解決するかどうかは分かりません。

例えば、FAQの検索語を追加しても、担当者が適切な検索語を選べなければ、必要な情報を見つけられないかもしれません。

その場合は、検索語の追加だけでなく、検索の進め方や確認方法も見直す必要があります。

また、誰がFAQを更新するのか、どのような場合に修正するのか、更新内容を誰が確認するのかなど、役割や責任も明確にしておく必要があります。

こうして、対策を考え、試し、問題があれば見直すことを繰り返します。

重要なのは、関係者が対策の内容だけでなく、なぜその対策を行うのか、どのような状態を目指すのかを理解し、自分たちの役割を認識できることです。

実践前に評価基準を決め、結果を確かめる

施策を実践する際には、あらかじめ何をもって成果とするのかを明確にしておく必要があります。

例えば、FAQの導入であれば、単に利用回数を増やすことだけが目的ではないはずです。

  • 必要な情報を見つけられるようになったか
  • FAQを使って適切な回答ができるようになったか
  • 情報を探す時間が短縮されたか
  • 回答のばらつきが抑えられたか
  • 顧客の問題解決につながっているか

このように、施策の目的に合わせて評価項目を設定します。

そして、実践した後に、事前に定めた基準に照らして結果を確認します。

期待した変化が得られなかった場合には、施策の内容や実践方法、役割分担、評価基準などを見直します。

施策を導入して終わりにせず、実践・評価・改善を繰り返すことが、期待する成果につなげるために重要です。

複数の施策を組み合わせ、変革全体をどう推進するのか?

ここまで、関係者の理解と参加、施策の共創、実践・評価・改善について説明してきました。

しかし、企業が抱える課題は、一つの施策だけで解決できるとは限りません。

複数の課題が関係し、複数の施策を組み合わせて進める必要がある場合もあります。

個別施策の実施だけでは、全体の課題を解決できないことがある

例えば、FAQが使われないという問題を考えてみましょう。

FAQの内容を見直すだけで解決する場合もあります。しかし、情報の更新が滞っている、担当者の教育が不足している、業務手順が統一されていない、評価方法が実態に合っていないなど、複数の要因が関係している場合もあります。

この場合、FAQの改訂だけでなく、更新ルールの整備、担当者教育、業務手順の見直し、評価方法の改善などを組み合わせる必要があるかもしれません。

さらに、それぞれの施策には、実施する順序や依存関係があります。

FAQを改訂する前に、情報の管理方法を決める必要があるかもしれません。教育を実施する前に、業務手順や評価基準を整理する必要があるかもしれません。

個別施策をそれぞれ実施するだけでは、全体として目指す成果につながらないことがあります。

そのため、課題と施策の関係を整理し、全体を見ながら推進することが必要です。

課題を構造化し、対策の優先順位を決める

複数の課題がある場合には、まず何が問題なのかを整理し、それぞれの原因や関係性を捉える必要があります。

当社では、課題を整理したうえで、対策の優先順位を検討する際に、次の三つの観点を用います。

  • 緊急性:どれだけ早く対応する必要があるか
  • 重大性:放置した場合に、どの程度の影響があるか
  • 拡大性:時間の経過とともに、問題がどの程度広がる可能性があるか

この三つの観点から、何を優先して取り組むべきかを検討します。

ただし、優先順位を決めることは、点数をつけて機械的に順番を決めることではありません。

課題の内容や影響を整理し、関係者が何を優先すべきかを理解できるようにすることが大切です。

また、課題が大きすぎて優先順位をつけられない場合には、問題をさらに細分化し、それぞれに対する対策を検討する必要があります。

PLとPMの役割を分け、変革全体を推進する

複数の施策を組み合わせて変革を進める場合、全体を見渡し、課題や対策の関係を整理しながら推進する役割が必要になります。

当社では、実務上、PLとPMの役割を分けて考えています。

PLは、プロジェクトリーダーとして、変革の目的を実現するために全体を采配する役割を担います。

具体的には、次のような活動です。

  • 目指す状態と実現する目的を明確にする
  • 課題を構造化し、原因や関係性を整理する
  • 必要な施策を立案し、実施する順序を考える
  • 関係者の意見を集め、合意形成を進める
  • 部門間の調整や意思決定を支援する
  • 施策の実践状況や結果を確認し、改善につなげる

一方、PMは、プロジェクトマネージャーとして、計画やスケジュール、進捗、資源など、プロジェクトの管理・調整を支援する役割を担います。

変革全体を推進するには、目的や課題、施策の関係を捉えて采配する役割と、実行を管理・調整する役割の両方が必要です。

これらの役割を適切に分担することで、個々の施策の進捗管理だけに追われることなく、変革全体を目的に向けて進めやすくなります。

なお、PLとPMの具体的な役割分担は、プロジェクトの規模や内容、組織の体制によって異なります。当社では、変革を推進する実務に合わせて、両者の役割を整理しています。

チェンジマネジメントの実践事例――新設コールセンターの変革

ここまで説明してきた考え方を、実際の取り組みを通じて紹介します。

これは、新設されたコールセンターで、顧客応対を開始した後に生じた問題を、関係者と一緒に解決していった事例です。

オペレーターが顧客応対中に泣いてしまった

新設コールセンターで顧客からの電話を受け始めたところ、オペレーターが顧客応対中に泣いてしまうという出来事がありました。

当初は、顧客からの厳しい言葉が原因なのか、システムや業務の進め方に問題があるのか、はっきりしていませんでした。

そこで、実際の通話録音を確認しました。

すると、オペレーターは顧客からの質問に対して、どの回答が適切なのか判断できず、言葉に詰まりながら応対していました。

その結果、顧客の不満が高まり、オペレーターは対応しきれなくなってしまったのです。

この問題を、オペレーター個人の能力や精神的な強さの問題として片づけることはできません。

顧客の問い合わせに対して、何を確認し、どのように回答すればよいのか。応対に必要な会話運びが十分に設計されていないことが、問題の背景にありました。

関係者を集め、率直に話し合える環境をつくる

そこで、センター長、SV、複数のオペレーター、実際に泣いてしまったオペレーターを含めて、対策を検討する場を設けました。

最初に行ったのは、関係者の意見を集めることです。

顧客からどのような問い合わせがあるのか。どのような回答が必要なのか。どのような場面で判断に迷うのか。

それぞれの経験や考えを出してもらいました。

ただし、すべての問い合わせに対して、一つの正解を用意できるわけではありません。顧客の状況や問題によって、必要な質問や回答は変わります。

そのため、決められた回答を増やすだけでなく、顧客の発言をどのように捉え、次に何を確認し、どのように会話を進めるのかを整理することにしました。

また、参加者が率直に意見を出せるように、立場や役職にとらわれず話し合える環境を整えました。

顧客の問題解決から逆算して、会話運びを設計する

次に、顧客との会話を、次のような流れで整理しました。

  1. 挨拶をする
  2. 顧客の問い合わせ内容を把握する
  3. 問い合わせ内容に応じて確認する
  4. 顧客が問題だと感じている現象を掘り下げる
  5. 問題解決に必要な回答や提案を行う

この流れをもとに、顧客の発言や意図、オペレーターの質問や確認、次の会話につながる分岐を整理していきました。

顧客の発言に対して、どのような質問をすればよいのか。その回答によって、次にどのような対応へ進むのか。

会話の流れを分岐する形で設計することで、担当者がその場のアドリブだけで応対を組み立てなくてもよい状態を目指しました。

関係者と一緒に、施策をつくり、試す

会話運びを設計する過程では、関係者から出された意見をKT法の状況分析シートなどに整理し、参加者に共有しました。

さらに、最初の話し合いで出てこなかった意見を集め、ロールプレイを通じて実際の応対を試しました。

その中で、想定していなかった問題や、確認が不足している部分が見つかれば、対策を見直します。

また、対策を実施した場合に、何が解決されるのかをシミュレーションし、参加者が自分の役割や行動を具体的にイメージできるようにしました。

重要だったのは、完成した仕組みを一方的に渡すのではなく、仕組みがどのように動き、担当者がどのように活用するのかを、関係者と一緒に考えたことです。

ロールプレイを繰り返す中で、担当者が担う役割や、評価において重視する行動も具体化していきました。

こうして、関係者が自分たちの意見を反映しながら、施策をつくり上げていきました。

実践結果を評価し、改善につなげる

施策を実践する際には、事前に評価基準やルールを整理しました。

また、KT法の状況分析シートで整理した対策を全体スケジュールに落とし込み、個々の担当者の予定や役割も明確にしました。

実践後には、あらかじめ設定した基準に照らして結果を確認し、必要な改善を行いました。

その結果、当初想定していた以上の変化が見られ、顧客応対中に泣いてしまったオペレーターも、その後は同じような状況に陥ることなく応対できるようになりました。

この事例で重要なのは、単に会話の流れを設計したことだけではありません。

問題の原因を確認し、関係者の意見や不安を理解し、施策を共につくり、実践を通じて検証し、改善したことです。

施策を導入する側と実践する側が、お互いを理解し、目指す状態を共有したうえで取り組んだからこそ、組織として変化を進めることができました。

課題解決の施策を成功させるために、当社が支援できること

課題解決の施策を導入しても、期待した成果につながらない場合、何を見直せばよいのか分からないことがあります。

施策そのものに問題があるのか。実践する人たちの理解が不足しているのか。業務や組織の仕組みに原因があるのか。あるいは、複数の課題が関係しているのか。

原因によって、必要な対策は異なります。

まずは現状を調査・分析し、課題を整理する

当社では、コールセンターの改善に限らず、企業の業務や組織、顧客接点などに関する現状を調査・分析し、課題を整理する支援を行っています。

例えば、次のような状況です。

  • FAQやマニュアルを整備したのに、十分に活用されていない
  • 研修を実施しても、実際の業務に変化が見られない
  • 新しいシステムを導入したものの、従来の業務から移行できない
  • 改善施策を実施しているが、期待した成果につながらない
  • 部門や担当者によって、課題の捉え方や優先順位が異なる
  • 改善活動が途中で停滞し、何から着手すべきか分からない

こうした状況を確認し、現象だけでなく、その背景にある原因や関係性を整理します。

そのうえで、課題を設定し、対策を立案し、緊急性・重大性・拡大性を踏まえて優先順位を検討します。

何が問題なのか、なぜ問題が起きているのか、何から取り組むべきなのかを明確にすることが、改善の出発点です。

課題の整理から、対策の実行・変革の推進まで

課題解決の施策を成功させるには、調査・分析だけでなく、必要に応じて施策の詳細設計や実行、関係者との調整、評価、改善などを進める必要があります。

当社では、経営や事業、業務の変革に関する課題に対して、ITの導入を目的とするのではなく、目指す成果を実現するための手段として、必要な支援を検討します。

また、変革全体を推進する必要がある場合には、課題や施策の関係を整理し、関係者の合意形成や実行を支援することも重要になります。

もちろん、すべての企業に同じ施策が必要なわけではありません。

企業の状況や課題、目指す成果に応じて、何を変え、どのように進めるべきかを検討することが大切です。

株式会社アクティブ・コーチング・システムへの相談

課題解決の施策は、導入することがゴールではありません。

FAQやマニュアル、研修、システム、業務改善など、どのような施策であっても、実際に活用され、期待する成果につながっているかを確認する必要があります。

そのためには、施策を実践する人たちの状況や考えを理解し、関係者と一緒に実践できる方法をつくり、結果を確かめながら改善していくことが重要です。

「施策を導入したのに、現場で使われていない」
「改善活動を続けているが、期待した成果が出ない」
「関係者の理解や協力が得られず、変革が進まない」
「複数の課題が絡み合い、何から着手すべきか分からない」

このようなお悩みがありましたら、株式会社アクティブ・コーチング・システムにご相談ください。

まずは現状を調査・分析し、課題を整理したうえで、何から着手すべきかを一緒に考えます。
課題解決の施策を、導入して終わりにしない。
関係者の理解と参加を促し、施策を実践し、評価・改善を繰り返すことで、期待する成果につなげる。

それが、チェンジマネジメントを通じて目指したい、課題解決の進め方です。

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沖本能道
専門家

沖本能道(コールセンター運用改善コンサルタント)

株式会社アクティブ・コーチング・システム

クレーム(コールセンター)を基点にして、独自AIと業務改善の実績を融合したサービスを提供し、会社組織横断で課題解決を推進支援します。

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