コールセンターで離職率が気になりだしたら、理由を知って改善しよう
「察する」という言葉があります。
辞書では、物事の事情を推し量って知ることや、相手の気持ちを推し量ることなどの意味で使われます。
日常生活では、
「言わなくても察してくれた」
「そこまで察してほしいとは思わなかった」
など、相手の気持ちや状況を読み取る場面で使われることが多い言葉です。
では、仕事の中で「察する」とは、具体的に何をしているのでしょうか。
特にコールセンターでは、顧客が電話で伝える言葉だけでは、抱えている問題や期待が分からないことがあります。
今回は、「察する」という言葉の意味を確認しながら、コールセンターの顧客応対で求められる「察する仕事」について考えてみます。
「察する」とは、相手の言葉に表れていないことを推し量ること
「察する」は、目の前にある情報だけを見るのではなく、その背景にある事情などを推し量ることです。
例えば、誰かがいつもより口数が少なかったとします。
「今日は何かあったのかな」
と考える。
これも「察する」の一つです。
ただし、ここで注意したいことがあります。
察したことが、そのまま事実とは限りません。
「口数が少ない」という事実と、
「何か嫌なことがあった」という推測は別のものです。
これはコールセンターの顧客応対でも同じです。
顧客の言葉や声の様子から何かに気づいたとしても、その時点で「きっとこうだ」と決めてしまえば、顧客の本当の状況を取り違える可能性があります。
だから、仕事として「察する」なら、気づいた後の確認が重要になります。
コールセンターで「察する」とは、何を察することなのか
コールセンターには、さまざまな問い合わせが入ります。
例えば、
「この商品は返品できますか?」
という電話があったとします。
この質問だけを見れば、返品できるかどうかを答えればよいように思えます。
しかし、顧客が本当に解決したい問題は、返品そのものとは限りません。
なぜ返品したいのか。
商品に何が起きたのか。
購入したときに、どのようなことを期待していたのか。
返品できれば、本当に問題は解決するのか。
こうしたことを確認しなければ、質問には答えられても、顧客が電話をした問題そのものを解決できない場合があります。
つまり、コールセンターで「察する」とは、
顧客の言葉だけを見るのではなく、その言葉が出てきた状況や背景を理解し、必要な確認につなげること
と考えることができます。
「察する」と「推測する」は同じではない
「察する」と「推測する」は、似た意味で使われます。
しかし、顧客応対では、この違いを意識する必要があります。
推測だけなら、
「きっとこういうことだろう」
と、自分の中で答えを決められます。
しかし、顧客応対では、その推測だけで対応を決めるわけにはいきません。
顧客が何に困っているのか。
何を期待しているのか。
何を大切にしているのか。
どこまで解決すれば納得できるのか。
これらは、会話をしながら確認していく必要があります。
そのため、
察する → 確認する → 理解する → 問題解決につなげる
という流れが重要になります。
「相手の気持ちを読む」という一言で片付けてしまうと見えなくなる、顧客応対の仕事がここにあります。
ベテランは、なぜ顧客のことを「察する」ことができるのか
コールセンターでは、同じマニュアルを読み、同じ研修を受けても、応対者によって結果が違うことがあります。
特に経験を積んだベテランを見ると、
「なぜ、そこに気づけるのだろう」
と思うことがあります。
顧客が最初に話した内容だけで判断せず、
「ここはもう少し確認したほうがよさそうだ」
と質問を追加する。
顧客の回答を聞いて、
「まだ問題が解決していないかもしれない」
と考える。
必要な情報が揃ったところで、それ以上は質問せず、対応へ進む。
この仕事を分解してみると、ベテランは単に「察している」のではないことが分かります。
例えば、
- 顧客の言葉を聞く
- 状況を確認する
- 背景を確認する
- 回答から次に必要な確認を考える
- 必要な情報が揃ったか確認する
- 状況に応じて対応を選ぶ
といった仕事をしています。
つまり、ベテランの「察する力」の中には、観察できる行動が含まれています。
「察する力」を個人のセンスだけにしてはいけない
もし、
「察するのは経験が必要だから仕方がない」
「センスがある人にしかできない」
と考えてしまったら、その知識は個人の中に残ったままです。
ベテランが異動すれば、その知識を別の人が使えるとは限りません。
では、どうするのか。
ベテランが「察している」瞬間を観察します。
何を見ているのか。
どのようなときに質問を追加しているのか。
どこまで確認したら次の対応へ進むのか。
その判断には、どのような情報が必要なのか。
こうしていくと、「察する」という感覚的な能力の中にも、仕事として整理できる要素が見えてきます。
ここで重要なのが、トークスクリプトの考え方です。
トークスクリプトは、決められたセリフを読むためのものではない
トークスクリプトというと、
「この質問には、この答えを返す」
という決められた文章を思い浮かべるかもしれません。
しかし、顧客の状況が一人ひとり違うコールセンターでは、それだけでは対応できません。
必要なのは、
何を確認するのか。
なぜ確認するのか。
回答によって、次に何を確認するのか。
どの情報が揃ったら、問題解決へ進むのか。
という会話の設計です。
つまり、再現したいのは「同じセリフ」ではありません。
質問、確認、会話の順番、分岐、選択基準、問題解決までの流れ
を再現できるようにすることです。
これなら、ベテランが経験によって身につけてきた顧客応対の知識を、組織で共有できる可能性があります。
「察する仕事」は、設計して終わりではない
ここで、もう一つ重要なことがあります。
どれだけ丁寧にトークスクリプトを設計しても、実際の顧客応対では、想定していなかったケースが発生します。
「このケースでは、今の確認だけでは足りない」
「ここは別の質問を追加したほうがよい」
「この状況では、この分岐が必要だった」
という気づきが生まれます。
これは、設計が失敗したということではありません。
実際に使ったからこそ、新しい知識が見つかったとも言えます。
重要なのは、その気づきを個人の経験だけで終わらせないことです。
コールセンターで生まれた気づきを、ナレッジとして循環させる
応対者が新しい気づきを得たとします。
その気づきを更新依頼として共有する。
推進するチームが内容を確認する。
必要であれば、質問や確認ポイント、分岐、選択基準などを更新する。
そして、更新されたナレッジを、再びコールセンターで使う。
この循環をつくることが重要です。
つまり、
設計する → 使う → 気づく → 更新する → また使う
という循環です。
これを繰り返すことで、最初はベテラン個人が持っていた知識を、組織として使えるナレッジへ変えていくことができます。
私は、KKD(経験・勘・度胸)をなくす必要はないと考えています。
むしろ、
KKDが働いた瞬間を、次のナレッジ更新につなげる。
そのことが、コールセンターの組織学習につながります。
では、「察する」をAIに任せればよいのか
ここまで考えると、
「では、その察する仕事をAIにやらせればよいのでは?」
という疑問が出てきます。
しかし、私はそう単純には考えていません。
AIが、
「この顧客はこう考えています」
と決めてしまうことが目的ではありません。
また、
「この場合は、この回答をしてください」
とAIに顧客応対そのものを任せることでもありません。
顧客との会話を行い、状況を理解し、対応を判断するのはヒトです。
AIは、そのヒトが適切に判断するために、
- 必要な確認ポイント
- 次に確認すべきこと
- 状況に応じた会話の流れ
- ベテランが持っていたナレッジ
- 過去に更新された確認や分岐
などを、必要なタイミングで提示する。
この役割分担が重要だと考えています。
判断はヒト・意思決定はヒト。
AIは、ヒトの判断を置き換えるのではなく、判断に必要な知識を使いやすくするために活用する。
AIコーチングエンジンは、「察する」をどう支援するのか
私たちが開発しているAIコーチングエンジンは、AIに顧客の気持ちを判断させるシステムではありません。
ベテランが顧客応対で行っている、
質問、確認、会話運び、分岐、選択基準
を構造化し、必要な場面で応対者を支援します。
例えば、
「今の会話で、ここまでは確認できている」
「この状況では、次にここを確認する必要がある」
という情報を、応対者が使える形で提示する。
応対者は、それを参考に顧客と会話し、自分で判断します。
これによって、「察することができるベテランを増やす」という考え方ではなく、
ベテランが行っている顧客理解のための仕事を、必要なときに誰もが使える状態にする
ことを目指します。
「察する」を、個人の能力から組織の力へ
「察する」は、人によって能力差が出やすい仕事です。
だからこそ、
「できる人を探す」
だけではなく、
「できる人は、実際に何をしているのか」
を見ることが重要です。
顧客の言葉を聞く。
状況を確認する。
背景を理解する。
必要な情報を集める。
問題解決まで会話を運ぶ。
その仕事を設計する。
実際に使う。
使う中で生まれた気づきを更新する。
そして、必要な場面ではAIを使って、そのナレッジを応対者が利用できるようにする。
こうして考えると、「察する」は単なる個人のセンスではありません。
顧客を理解し、問題を解決するための仕事として、組織で学習していくことができます。
私たちは、コールセンターの改善を、単なる応対者教育やAI導入だけで終わらせません。
顧客の言葉の奥にある状況を理解し、必要な確認を行い、顧客が期待する問題解決につなげる。
そのための仕事を設計し、ナレッジとして循環させる。
その中でAIを活用する。
最終的に目指しているのは、
会社として顧客期待に応えること。
コールセンターから得られる一つひとつの顧客の声を、顧客応対の改善だけで終わらせず、会社全体の改善につなげていく。
もし、
「ベテランと新人で顧客応対の品質に差がある」
「マニュアルや研修を整備しても、なかなか独り立ちできない」
「ベテランの経験や勘を、組織のナレッジとして残したい」
「AIを導入したいが、判断までAIに任せることには違和感がある」
といった課題があれば、コールセンターの実際の業務を見ながら、どこまで設計できるのか、一緒に整理することができます。


