新・ブランディングのチカラ 第2回 「好かれる」より「思い出される」
前回、「伝わってるはず」が、事業を壊すという話をした。
「なんでみんな、この想い分かってくれないんだろう」。そう肩を落としていた、あの経営者の方のお話には、実は続きがある。
想いを、そのまま渡さない
原因は、想いが弱いことではなかった。ただ、翻訳されていなかっただけだ。
外国語の翻訳と同じで、直訳しても意味が通じないことがある。想いも同じで、ご本人の言葉をそのまま相手に渡しても、正しく届くとは限らない。
その方が繰り返し伝えていたのは、「お客さんに寄り添った接客をしてほしい」という言葉だった。何度言っても変わらなかったのは、その言葉が、ご本人の頭の中にしかない映像のまま、渡されていたからだ。
翻訳の手順は、たった3つ
やることはシンプルだった。
- 想いを、動詞にする(「寄り添う」を「会計の時、お客さんの目を見て一言添える」という具体的な動作に直した)
- 一番伝えたいことを、一つに絞る(あれもこれも伝えたい気持ちをこらえて、まずは一つだけに絞った)
- 相手が体験する場面で言葉にする(朝礼で話すのをやめて、実際に接客が始まる直前に、その場でひとこと伝えるようにした)
たったこれだけで、スタッフの動きが変わり始めた。「言われた通りにやってるつもり」だったスタッフが、初めて「なるほど、こういうことか」という顔をしたそうだ。
広告やPRにも、同じことが起きる
この翻訳という作業は、社内だけの話ではない。広告やPRの言葉も、まったく同じ理由で届かなくなる。
「品質にこだわっています」ではなく、「一つの商品を、職人が3日かけて仕上げています」。
「お客様第一主義です」ではなく、「注文から24時間以内に、必ず本人の声で電話をかけています」。
抽象的な理念のままでは、広告費をかけても、誰の記憶にも残らない。具体的な一つの動作にまで翻訳された言葉だけが、外の世界で一人歩きを始める。
想いは、正しく翻訳されると、一人で歩き出す
数ヶ月後、その方からこんなご報告をいただいた。
「最近、スタッフが自分から声をかけてくれるようになったんです」
一つの動作に翻訳された想いは、スタッフの中でお手本になり、それぞれの応用を生み始めていた。誰かに指示されなくても、自分の判断で動けるようになる。それは、想いが本当の意味で「伝わった」証拠だった。
伝わらなかったのは、想いが足りなかったからではない。ただ、翻訳する一手間が、抜けていただけだった。
もし今、「伝えているのに伝わらない」と感じているなら。その想い、一緒に翻訳してみませんか。


