新・ブランディングのチカラ 第8回「ひとりで作らない、ブランドの育て方」

「あなたのお仕事を、ひとことで言うと何ですか?」
そう聞かれて、すぐに答えられる方は、実は多くありません。 デザイナー、ライター、カメラマン、講師、店主。 やれることが多い方ほど、「いろいろやっています」と答えてしまいがちです。
私自身も、長い間そうでした。 今回は、この「いろいろ」が仕事に与える影響について、ブランディングの視点からお話しします。
「何でもできます」は、依頼につながりにくい
デザイン、空間、イベント、文章、撮影。 できることがたくさんあるのは、強みです。
ところが、それを「何でもできます」と伝えた途端、相手の頭の中では、あなたの顔が浮かびにくくなります。 依頼したいことは具体的なのに、その人に結びつかないからです。
人は、「何でもできる人」ではなく、 「このことなら、あの人」という形で、思い出されます。
見積もりの外の仕事を、引き受けてしまう構造
もうひとつ、見落とされやすい問題があります。 「何でもできます」と伝えていると、見積もりに含まれていない依頼が増えていきます。
「ついでに、これもお願いできますか」 「それくらい、できますよね?」
実際にできてしまうため、つい、おまけとして対応してしまう。 これは、形のある商品を売る仕事と違って、仕事の範囲が目に見えにくいサービス業に、特によく起こります。
おまけが続くと、次のような状態になります。
- 「頼めばやってくれる人」という立ち位置が定着する おまけが「当たり前」になり、対価が発生しなくなる 対応する側が、少しずつ疲弊していく
誤解のないようにお伝えすると、おまけそのものが悪いわけではありません。 気持ちよく対応できるのであれば、贈りものとして行うのは素敵なことです。 大切なのは、ご自身で選んでいるかどうかです。
断れずに、モヤモヤしながら続けるおまけは、贈りものではなく、がまんです。 がまんは、いずれ仕事そのものへの意欲を損ないます。
肩書きは、実績の「あと」ではなく「はじまり」
肩書きは、実績がそろってから名乗るもの。 そう考えていらっしゃる方は多いのですが、順番は逆だと、私は考えています。
名乗ると決めた日から、仕事が変わります。 言い切ることで、寄せられる依頼の質が変わり、依頼の質が変わることで、実績が変わっていきます。
そして、言い切るとは、できないことを増やすことではありません。 やらないことを、決めることです。
「ここまでが、私の仕事です」とお伝えできる方は、冷たいのではなく、お互いが気持ちよく仕事を進めるための線を引いている方です。 線があるから、その内側には全力を注げますし、外側は、ご自身で選んで、気持ちよくお贈りすることができます。
私の立ち位置について
私は、つくる側としても、依頼する側としても、両方の景色を見てきました。 その経験から、このたび、立ち位置を明確にいたします。
[背景ブロック]少数のかたと、深く向き合うブランディングを行います。[/背景ブロック]
数を追うよりも、一件ごとの深さを大切にしたい。 その方の「らしさ」を言葉と世界観に落とし込み、公開のタイミングまで含めて、ひとつながりに設計します。 そのために、お受けするご相談の数は、あえて絞ります。
今日からできること
ご自身のお仕事を、ひとことで言うと、何でしょうか。
うまく言葉にならなくても、問題ありません。 「〇〇な人」の〇〇に入る言葉を、まず3つ、書き出してみてください。 その中で、最も気持ちが動いたものが、ご自身の看板の種になります。
次回は、依頼する側から見た景色について、お話しします。 つくる人と依頼する人の間に、適切な線と言葉があると、双方の負担が、ぐっと軽くなります。
渡邊リシア


