ブランディングを実施するメリット
「みんなに好かれるデザインにしてください」
ブランディングのご相談で、最も多くいただく要望だ。けれど結論から言うと、この発想には注意がいる。実は「好きかどうか」と「実際に買うかどうか」は、思っている以上に別物だからだ。
「好き」と「選ばれる」は、実は別のもの
マーケティングの世界に、「メンタル・アベイラビリティ」という考え方がある。少し難しく聞こえるが、要は「買おうと思った瞬間に、頭の中にパッと浮かぶかどうか」という話だ。
たとえば、100人中80人に「まあ好き」と言われるブランドと、100人中20人に「これしかない」と即座に思い出されるブランド。売上に直結するのは、実は後者の方なのだ。
多くの人に少しずつ好かれる努力より、一部の人にしっかり覚えてもらう努力。どちらが得かといえば、後者の方がずっと効率がいい。
なぜ、無難なデザインは選ばれないのか
現場でよく見てきた光景がある。「誰にでも好かれるように」と丸く整えられたデザインは、いざお店やネットで他の商品と並んだ瞬間、なぜかパッとしなくなる。
理由はシンプルだ。人が何かを選ぶとき、頭の中で使える"考える力"には限りがある。だから選択肢が並ぶと、脳は一瞬で「知っているもの」「印象に残っているもの」だけをパッと選び、それ以外は見なかったことにしてしまう。
特徴のない、当たり障りのないデザインは、この最初の絞り込みの段階で、あっさり見落とされてしまう。中身がどれだけ良くても、そもそも選択肢として思い出してもらえないのだ。
覚えてもらうための、ちょっとした工夫
では、思い出してもらうにはどうすればいいのか。私が実際の仕事でよく使っているのが、「引っかかりの数」を数えるという方法だ。
ロゴの形、色、お店の人の人柄、こだわりの作り方、変わった場所にあること——こうした一つひとつの要素について、「これって、他とちょっと違うよね」と言えるものがいくつあるかを数えてみる。
経験上、こういう"ちょっと違う"ポイントが、最低3つくらい揃っているブランドは、記憶に残りやすい。逆に、要素はたくさんあっても、どれも「普通」の範囲に収まっていると、いくら数を並べても印象には残らない。
大事なのは数の多さではなく、その中に「ちょっと変わっている」部分がいくつあるかということだ。
山梨で見た、"ちょっと変わっている"ことの強さ
八ヶ岳のこの土地には、効率よりも自分のこだわりを大事にしている生産者やお店がたくさんある。数字だけで見れば非効率に見えることも、その"個性"のおかげで、強く記憶に残り、自然と口コミで広がっていく場面を何度も見てきた。
ブランディングの仕事とは、こうした個性を削って無難にすることではない。むしろ、その個性をそっと引き立てて、ちゃんと伝わる形に整えることだと思っている。
「好かれる」より「思い出される」を目指す
みんなに好かれようとすると、どうしても無難な方向にまとまってしまう。思い出されることを目指すと、自然と個性が出てくる。ブランディングでは、実は後者の方が、理屈で考えても、数字で見ても、うまくいきやすい。
好かれようとするほど、ブランドの輪郭はぼやけていく。思い出されようとするほど、ブランドの姿ははっきりしてくる。
次回は、この「思い出される」ブランドが、なぜ値段の安さで勝負しなくてもよくなるのか、その仕組みについてお話ししたいと思います。


