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寺田淳

シニア世代が直面する仕事と家庭の問題解決をサポートする行政書士

寺田淳(てらだあつし) / 行政書士

寺田淳行政書士事務所

コラム

60才で留意すべきあれこれ

2023年1月24日

テーマ:50歳からの人生

コラムカテゴリ:くらし


【はじめに】

 タイトルでは60才と書きましたが年齢に深い意味はありません。
一般的に働き方が大きく変わるのは今でも60才ではと思ったので
定年退職の年齢となる60才を前面に打ち出した次第です。

 新卒で入社して60才迄勤め上げ、長年携わってきた仕事を離れる。
学生から社会人になった時以来の生活の変化に遭遇する訳です。
 
 長い社会人生活の中でも
「初めての体験」という方が圧倒的に多いはずです。

 今回のコラムでは、
このような生活環境の変化の際に、
特にシニアが注意すべき事例について紹介したいと思います。

【高額な退職一時金に惑わされないこと】

 サラリーマンの場合、特に気を付けたい注意点です。

 大半の定年退職者は、今まで経験のない桁数の入金を目にすると
つい「このくらいの出費なら大したことはないだろう」
「これまでの働きへのささやかなご褒美と考えれば…」
といった甘い判断で、結果的には浪費に奔りがちです。

 長年の夢だった2泊3日程度の家族旅行ならまだいいのですが、
なんとなく気が大きくなって、まだ買い換えの必要がないのに
新発売の家電品や家具類、はては新車の一括払いでの購入まで!

 こうなると、かなりの危険信号が点ることになります。

 また以前にも紹介しましたが
口座開設時に入手した貴方の個人情報から
退職の時期を正確に把握している取引金融機関から
「退職金での資産運用」
の勧誘が始まります。

 取引を開始する際には
生年月日から勤務先、勤続年数といったデータを
求められますから、逆算すれば退職の時期は概ね正確に把握されます。

 
 資産運用自体は決して悪いことではありません。
大きな買い物などの浪費よりはよほど賢明な選択と言えるでしょう。
退職金というまとまった資金を基に、より資産を増やそうと考える。
人生100年時代を考えれば、検討に値するものであることは確かです。

 ですが、そこにも注意点があることは意識しておくべきです。

 銀行と言えどもいわゆる営利企業のひとつです。
会社にとってより利益が出る商品を推奨するのは当たり前の事です。
必ず注目し、問い合わせをしたくなるようなキャッチコピーを用意し、
魅力的な商品を強く推奨してくるのです。

 無論全てが思惑通りに評価益を出す保証はありません。
中には想定を超える損失を被るリスクも内包しています。

 ですが、
どういう訳か初めてこの世界に参加するといった
投資初心者の多く、特にシニア世代に多く見られるのが
「自分の判断に間違いはない」という根拠の薄い自信と、
「今更この年でこんな質問は恥ずかしい」というプライドが
まぜこぜになってしまい、結果的には「プロが勧めるのだから」と
言われるがままに推奨された商品に高額投資をする傾向が見受けられます。

 歴戦のプロですら損するような世界です。
まして退職後に初めて投信に手を染めるとなれば、
事前の学習や情報収集はより慎重かつ徹底すべきです。

【楽観的な思惑と他者依存に要注意】

 次に、起業や独立の際に欠かせない注意点です。

 この場でも何度も何度も紹介してきましたが、
シニア起業を目指す場合に絶対避けるべき「起業動機」として、

成功者が続出しているから、
面識のある人物が成功したのだから
さらに能力的には自分より劣っていた人物で成功するのだから
当然自分も成功する。

 あるいは、
人気急上昇の成長分野だから、
専門家も太鼓判の人気商売だから
当然自分も成功する。
 
 この傾向は会社員時代に役職者だった方ほど、
自分なりの成功体験を持っていることが
裏目に出るケースが見受けられます。

 ~自分なら失敗はしない、なぜなら今まで成功者だったから~
といった考えが、拙速な行動を後押ししているようです。

  
 その一方で、
宮仕えとは異なる世界に参入することに慎重な構えの方にも
また別の形での落とし穴が潜んでいることを意識して下さい。

 飲食にしても物販にしても、
起業・開業セミナーのテーマでは
「こうすれば開店1年目で黒字化は確実」
「○○で貴方も年収1千万円生活を手に入れましょう」
といったものが少なくありません。

 これは、先に述べた投資運用の場合にも言えることで、
金融機関が主催する無料の投資セミナーや金融市場レポートの勉強会、
有料講座でノウハウを修得出来るといったセミナー等も数多くあります。

 ですが、ここでも安易に参加することは要注意です。

 特に、具体的な内容を事前に確認しないまま
相手側に促されて1年間の有料コースの受講契約を結ぶ等は
先の資産運用の場合と同じく、資金の浪費のリスクが潜んでいます。

 起業・開業に向けたセミナー等も、
如何にも調子のいい謳い文句に惑わされることなく、
自分に必要なスキル収得に有益かどうか? 
自分の扱う商売にも使えるものか?など等、
具体的な目的をはっきりさせておく必要があります。

 人に勧められて、広告宣伝を見て、勧誘されて…
ただ漠然と受講を決めてしまっては、結局何ら得るものはありません。

 残念ながら「受講していることで起業は成功」といった
超のつく楽観主義、他者依存の傾向は今も無いわけではありません。

 さらに、起業することが目的であり、ゴールという方もいます。

 仮に一流の予備校に通っても、絶対に第一志望に合格する訳はなく
志望大学に合格したとしても、それで就職活動もうまくいく訳はないのです。

起業はあくまでも今後の生活の糧を得るためのきっかけに過ぎません。

 受講しているだけで、既に何かを成しているといった考えでは、
決して安くはない受講・研修参加費用をただただ浪費するだけです。

 さらに、60代以上のシニア世代の場合、
おカネと共に時間的な余裕もなくなっています。
勢いや一時の感情で行動するのではなく、具体的なイメージを確立してから
起業の為の準備に取り組むべきと思います。 

【出費の見直し】

 ここではより具体的な話になります。

 60歳、定年退職などで生活環境が変わったシニア世代に共通する
おカネに関する注意案件です。

1)カードでの買い物の見直し
  私自身もそうですが、現金を伴わない支払いは気が緩みます。
 ここにカードローンを併用すれば、より金銭感覚が鈍ります。
 1か月後の利用明細を見てからでは遅いのです!
 
2)スマホの取り扱いに注意
  シニア世代は特に注意するのがこれです。
 ショップなどのスタッフから言われるままに無用な有料アプリや
 各種サービス契約を結んではいませんか?

  ここでも変なプライドが顔を出して、取説読めばわかるからと
 十分な説明を避けてしまう傾向があります。
 概ね店頭で接客するのは年下スタッフです。
 何となくこんなことを聞くのは素人と思わるのでは(事実素人ですが)
 と、うやむやな理解のまま契約を結ぶのです。

  さらにスマホを介してネット証券取引を始めた場合には
 より安易にYESをクリックしないような注意が欠かせません。

  詳細は省きますが、
 ネット証券での売買は一瞬のクリックミスで命取りになるのです。

3)現役時代の虚礼に拘っていないか?
  さすがに会社を離れれば、
 お歳暮お中元といった出費は止まるでしょう。
 ただ中には、半ば慣習として定年後もやりとりを続けている、
 止め時を見失ってしまった、といったケースもあるようです。
 
  同様に、
 年賀状や季節の挨拶状も数がまとまれば無視出来ない負担となります。
 費用負担に加え作成にかける時間という負担も生じます。

  ようやく最近になって
 退職を機に虚礼を廃止する旨を宣言し易い環境にもなってきており、
 私の周囲でも今年で年賀状仕舞いする旨を伝える方が増えています。

  無駄と分かっていても自分からは口に出来ないようですが
 実際のところ、自分が気にするほど先方は気にしていません。
 一回だけ勇気を振り絞れば済むことです。

  虚礼とは異なりますが、定年退職して数年もたつのに、
 既に独立した40近い子供に今でも仕送りをしている!
 といったケースがありました。

  まず子供から仕送り辞退とは言い出さないでしょうから、
 ここはやはり親が嫌われ役を担うしかないでしょう。

  私が聞いた話では
「相続財産の先渡し」と考えて仕送りを是とする事例がありました。
 ですが、数年後に肝心の親世帯の生活に支障が出始めたのです。
 これではまさに本末転倒です。


4)保険の見直し
  例えば子供が独立したら、高額な死亡保障は必要でしょうか?
 自分の為の治療や入院等への備えに切替える選択もあります。

  よく宣伝されていますが、高齢になっても加入できる保険があります。
 それよりも「高額療養費制度」で十分対応可能な場合もあります。

  この歳でもまだ入れる保険があったと安易に加入する前に
 各種の医療制度を調べることを優先しましょう。


5)無用・無益な付き合い(参加)の見直し
  なかなか難しいこととは思います。
 会社時代の同期会、学生時代のサークルやゼミなどのOB会、
 参加することが楽しい、生きがいという場合なら問題はありません。
  
  ですが最近は話題も乏しくなってきた。
 毎回同じメンバーしか参加しなう。
 毎回同じ話題に終始している、最近は健康と年金の話題ばかり…
 でも何となく惰性で参加している。
 とはいえ、自分が最初の離脱を言い出すのは抵抗があって…

  このような状況が続いているのであれば、
 貴重な会費も時間も無駄でしかありません。

  先の年賀状と同じタイプの問題です。
 やはり気まずい思いは1回、と割り切って決断をすべきでしょう。

【その他】

 最後になりますが、ペットの問題も避けては通れない問題と言えます。

 この問題でよくあるパターンとしては、
子供が独立して家を出てしまい、さみしいから飼いたい。
友人がペットと過ごしている姿に魅力を感じたから自分も飼いたい。
等の理由が挙げられます。

 私の周囲にも、上記の理由でペットを飼い始めた事例があります。

 ただ現実問題として飼育に関する費用は、けっこうな金額です。
さらに何故かペット愛好家になると複数飼育に向かうようです。
ますます費用負担が増すにもかかわらずです・・・

 せっかく子供が独立して生活費が軽減したものの、
ペット飼育でまた元通りでは元も子もありません。

 おカネの問題以外にも、より深刻な懸案事項があります。
自分の健康とペットの寿命を冷静に判断しなくてはいけないことです。
いやな話ですが、自分に何かあった場合のペットの面倒をどうするか?
一時的、長期的な引き受け先を確保しておくことは最低限の責任です。
それが出来ないのであれば、飼育は断念すべきだと思います。

 飼育が無理でしたら、今は猫カフェ等が各地に出来ています。
こういった施設の利用で飼育の代用とするような考えも必要でしょう。

 

 ここで紹介した以外にも懸念される課題は少なくありません。
60才で留意すべきと書きましたが、正確には60才になってからではなく
出来れば60才までに、備えを始めるべき問題と私は考えます。  

この記事を書いたプロ

寺田淳

シニア世代が直面する仕事と家庭の問題解決をサポートする行政書士

寺田淳(寺田淳行政書士事務所)

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