真の国語‐音読と音韻について 下

小田原漂情

小田原漂情

テーマ:国語

 さて、もう少し追究すると、一つの言葉の持つ音韻は、他の言葉とのつながり方によって微細に変化するのではないかと考えられます。具体的に例をあげてみましょう。

 「栗=くり」という名詞ですが、東京近辺の人は、「くり」を、大体フラットに(高低なしで)発音すると思われます。「くりがすきです」など、「くり」の下に助詞がついて、短い文である場合です。
 
 しかし、「くり」の下に「ごはん」がついて「くりごはん」、あるいは「ひろい(拾い)」がついて「くりひろい」となる時などは、「り」の方が高い(強い)音になりますね。高く、強く発音する音を太字にして、短い文にしてみましょう。
「く❝り❞ひろいに行ったら、くりがたくさん落ちてたよ。」
 
 「ひと(人)」の場合も同様です。「あの人」の「ひと」は、低い平板な発音ですが、「人がいい」の「ひと」の場合は、❛と❜が少し上がり気味になるでしょう。

 また、福島県いわき市の中心駅であるいわき駅は、一九九四(平成六)年まで平(たいら)駅でした。いわき市そのものが、昭和四一(一九六六)年に磐城(いわき)市・平市を含む五市四町五村の合併で誕生しており、現いわき駅があるのは旧平市の平地区ですから、その後も二十八年間は「平」駅がいわき市の中心駅の名称だったのです。この地名の「たいら」も、それだけ読むときには語頭の「た」を高く強く「たいら」と読むのだと考えられますが、下に「駅」がつくと、「たいらえき」(「ら」が少し上がる)というフラットな読み方になるようです。「たいら」と無理に読むと「"た"いら❝え❞き」になりそうですから、そういう発音はしないのが、音韻の原則と言えるのではないでしょうか。

 「平」について、「平氏」の場合にもふれておきましょう。これはフラットに「へいし」と読むのでなく、「"へ"いし」と語頭を強く発音するのが、私などが歴史を学校で学んでいた場合の標準でした。もっともこれについては、「彼氏(私自身はこの「氏」をつけるのは嫌いですが)をやはりわれわれの年代は「"か"れし」と言っていましたが、平成に入ってしばらく経った頃からか「かれし」とフラットに言うようになりましたから、年代による違いがあるかもしれません(フラットな「かれし」については、週刊誌のエッセイでたしか内館牧子さんが、「枯れ木」と同じ発音と書かれていました。わかりやすいと思います)。

 さらには、こんな例もあります。「蛍」は一語で発音する時は一音目の「ほ」が高い、強い音、すなわち「"ほ"たる」ですが、有名な歌の「ほたるのひかり」では、二音目以降が少し高くなる「ほ❝たるのひかり❞」と言われることが多いと思われます。私が敬愛する藤山一郎先生(1911~1993)は、アクセントを重視するべきだとのお考えから、楽譜(メロディー)の上でも「ほ」が一番低くなっているこの歌を歌うのは好まないということで、「紅白歌合戦」でこの歌を全員で歌う場にお入りにならず、指揮者の立場に徹したのだと聞いております。

中低学年2

 このように、一つ一つの言葉に固有のアクセント(とリズム)があり、それが前後で組み合わされる言葉によって変化する、それも直接つながっているすぐ前や後ろの単語だけでなく、おおむね同じ一文の中にある前後の言葉と影響し合っていることを、きちんと押さえて音読することが、「音韻を生かした音読」です。こうした読みで読んであげると、文章を理解することが苦手な子でも、「よく意味がわかった」と言ってくれることが多いです。

 子どもたち自身に、この音読を聞かせた上で音読をしてもらうと、さらに理解は深まります。特に小学校四年生くらいまでの中・低学年の子たちは、こちらが音韻を生かして読んでいるところを敏感にとらえ、忠実に再現しようとしてくれるので、聞いていて楽しそうですし、そこで工夫をしている子たちの理解力は、やはり高いと言えます。音韻を生かした音読が子どもたちに真の国語力、真の学力をつけていくのです。

高学年2

※冬期講習もまだ受付しておりますし、12月18日から、新年度入塾説明会も開催致します。低学年のお子さんには低学年なりの、「音韻」をつかむ勉強法(指導法)があります。お早めにご相談下さい。


国語力に定評がある文京区の総合学習塾教師
小田原漂情
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小田原漂情
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小田原漂情(学習塾塾長)

有限会社 言問学舎

<真の国語>とは?正解を見つける力ではなく、文章の本質を読みとり、自分の身に引きつけて、生きた考えを組み立てられる力のことです。それをすべての生徒が「わかる」ように、かつ「楽しく」指導します。

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