真の国語を教えることとは Vol.3

テーマ:国語

 さて、一単語のレベル、すなわち言語としての音韻について、私は専門家ではありませんから、ここまで述べたこと、これから述べることに対してご指摘がありましたら、謹んで承りたいと思います。これより、文章を音読、味読する上での音韻について、持論を述べます。

 はじめに、百人一首の著名な短歌を例に採ります。

君がためをしからざりし命さへ長くもがなと思ひけるかな 藤原義孝

君がため春の野に出でて若菜摘むわが衣手に雪は降りつつ 光孝天皇

 この二首は、いずれも初句が「きみがため」の五音です。この五音のアクセントに違いがあるわけではありません。

 しかし、「ため」の意味するところは異なります。「をしからざりし」の方は、君(あなた)が「原因で」、「惜しくないと考えていた命でさえ、少しでも長くあって欲しいと思うようになった」というものです。「ため」は、あとに続く行為の動機のありかをあらわしています。

 一方「春の野に」の方は、君(あなた)にあげるために春の野で若菜を摘むという、動作(贈る行為)の対象、すなわち目的を示しています。

 この意味の違いから、音読(朗詠とは別)する時に、「ため」のあと、「をしからざりし」は空白なしでつづけて読む(と思われる)のに対し、「春の野に」では半拍または四分の一拍ぐらい、空きが生じると考えられます。現代では「お」と区別なく発音される「を」と、直前でわずかに息が抜けるハ行音の「は」との差異も関係するかも知れません。また、短歌として考えると、「春の野に出でて」が八音の字余りであることも、大きく影響しているでしょう。

 こうした違いを読みとる、言い方を変えれば感じとることに音読の大きな効果があり、それゆえに、黙読や、ただ棒読みする時とは違う、深い部分までの読解が可能になるのです。これが私と言問学舎の提唱、実践する「音読」、「音韻」ということです。先の百人一首の「君がため」の二首で、同じアクセントの初句の段階から、言葉の韻(ひび)きが微細に違って来る、それが音韻であり、そのことを感得する音読が、言問学舎の音読なのです。

 次回、散文、現代語で、さらに詳しくご説明します。


国語力に定評がある文京区の総合学習塾教師
小田原漂情
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小田原漂情
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小田原漂情(学習塾塾長)

有限会社 言問学舎

自らが歌人・小説家です。小説、評論、詩歌、文法すべて、生徒が「わかる」指導をします。また「国語の楽しさ」を教えるプロです。みな国語が好きになります。歌集・小説等著書多数、詩の朗読も公開中です!

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