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小田原漂情

国語力に定評がある文京区の総合学習塾教師

小田原漂情(おだわらひょうじょう) / 学習塾塾長

有限会社 言問学舎

コラム

忘れがたき日に誓う

2014年8月21日 公開 / 2017年2月21日更新

テーマ:小田原漂情

コラムカテゴリ:スクール・習い事

 6日、9日、15日につづき、私にとってこの8月の忘れがたい日に塾長ブログで述べた一文を、転載させていただきます。常体の文である点、ご容赦下さい。


 21年前の今日、藤山一郎先生が亡くなられた。私がその頃、もっとも案じていたことだった。

 2日後の新聞でそのことが報じられ、その日の昼過ぎに、私は愛知県の豊橋駅から、上りの新幹線こだま号に飛び乗った。「飛び乗った」という形容は、決して大袈裟なものではない。朝の時点では激しく動揺していて、予定の決まっていた豊橋の書店さんとの打ち合わせにはそのまま赴いたが(当時名古屋在住)、その仕事が終わると居ても立ってもいられぬ思いで営業所に電話を入れて、午後半休とさせてもらった上で、すぐさま指定席の切符を買い、急いで乗り込んだものである。

 目黒の藤山先生のご自宅では、その日にお通夜、翌日告別式が行なわれたが、お通夜の前から、弔問客が献花をさせていただけるよう、受け入れをして下さっていた。私はたしか3時半ごろ、お伺いしたのだと思う。祭壇では藤山先生のお歌いになった歌がずっと流されており、私がお花を捧げた時には『懐かしのボレロ』がかかっていた。献花を終えて奥様にお悔やみを申し上げると、奥様は「お暑い中を・・・」と、お気遣い下さった。

 今日ことさらに、21年前のその日のことを書かせていただくのには、理由がある。私は藤山先生にまこと多くのことを教えていただいたが、「昭和史」の一面も、その中に含まれているのである。
 
 昭和20年(1945年)の敗戦に至る前、多くの文学者が、「戦争に協力」し、そのことは、戦後追及を受けることとなった(「文学者の態度」の問題として)。一方、流行歌の歌い手は、「時局」に合う歌を歌うのが、一般的である(淡谷のり子さんは例外)。そうでなければ、「発禁」処分の対象にされやすいし、さらにはレコード作りに欠かせない「シェラック」という東南アジア産の原料が、回って来ない。そういう時代であったという。

 藤山先生は、東京音楽学校(現東京藝術大学音楽学部)で声楽を学ばれ、「国費で音楽を勉強した」ことに、誇りと責任感をお持ちだったから、時局に合う歌を歌われる際にも、そのことに報いる気持ちをも込め、真っ直ぐに歌われたであろう。一方戦後の昭和24年(1949年)には、『長崎の鐘』を歌われ、のちに「讃美歌に近いような、祈りの気持ちで歌っている」との述懐を、残されている。

 昭和十年代、特に16年以降の「文学」というものは、多くの人の目に触れる形では、あまり残っていない。一方流行歌は、現在でもある程度は入手できるし、30年ほど前には、FMラジオなどでもよく放送され、豊富に残されていた。それらの「歌」からは、より身近に、率直に、当時の世相というものを、知ることができた。藤山先生は、『燃ゆる大空』と『長崎の鐘』の両極をもって、私にそれを教えて下さったのである。

 その藤山先生のご命日に、さる15日にも記した「受け継ぎ(ながら)、伝える」ことを自ら誓う意味で、先生をお見送りした日のことを、綴った次第である。やはり近ごろの、「あの時代(昭和十年代)」の描き方は、ある一面に流れ過ぎているように思えてならないのである。

                                       平成26年8月21日
                                            小田原漂情


                                                      

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