高校生の期末テスト対策 『こころ』(夏目漱石)の解釈はこれで万全!
前回掲載しましたWeb夏期講習⑪センター試験対策・国語の鉄則は、連日多くの方にご覧いただく盛況で、大変ありがたく存じております。
さて、より詳しく実例を知りたいというご要望もありますので、「センター対策の鉄則・実例編」をお届け致します。夏目漱石の『彼岸過迄』が用いられた年(2008年本試験第2問)を例にとります。
二人の容貌が既に意地のよくない対照を与えた。しかし様子とか応対ぶりとかになると僕は更に甚だしい相違を自覚しない訳にいかなかった。僕の前にいるものは、母とか叔母とか従妹とか、皆親しみの深い血族ばかりであるのに、それらに取り巻かれている僕が、この高木に比べると、かえってどこからか客にでも来たように見えたくらい、彼は自由に遠慮なく、しかもある程度の品格を落とす危険なしに己を取り扱う術を心得ていたのである。知らない人を怖れる僕にいわせると、<この男は生まれるや否や交際場裏に棄てられて、そのまま今日まで同じ所で人となったのだと評したかった。>彼は十分と経たないうちに、凡ての会話を僕の手から奪った。そうしてそれを悉く一身に集めてしまった。その代わり僕を除け物にしないための注意を払って、ときどき僕に一句か二句の言葉を与えた。それがまた生憎僕には興味の乗らない話題ばかりなので、僕はみんなを相手にする事も出来ず、高木一人を相手にする訳にもいかなかった。彼は田口の叔母を親しげにお母さんお母さんと呼んだ。千代子に対しては、僕と同じように、千代ちゃんという幼馴染みに用いる名を、自然に命ぜられたかのごとく使った。そうして僕に、先ほどお着きになった時は、ちょうど千代ちゃんと貴方のお噂をしていたところでしたといった。
僕は初めて彼の容貌を見た時から既に羨ましかった。話をするところを聞いて、すぐ及ばないと思った。それだけでもこの場合に僕を不愉快にするには充分だったかもしれない。けれどもだんだん彼を観察しているうちに、彼は自分の得意な点を、劣者の僕に見せつけるような態度で、誇り顔に発揮するのではなかろうかという疑いが起こった。その時僕は急に彼を憎み出した。そうして僕の口を利くべき機会が廻って来てもわざと沈黙を守った。(以上、問題掲載の『彼岸過迄』より一部引用)
さて、問2では、<この男は~>の部分に傍線が引かれ、「僕」のそのような思いの説明として最も適当なものを、5つの選択肢の中から選ぶのが問題です。この問題で、正答は次の内容の選択肢となっています。
・明るく話し上手で人づきあいに長けているうえ、そつのない態度で会話を支配するので、不快に思っている。
そしてこの選択肢のうち、「人付き合いに長けている」「そつのない態度」「不快に」が、正答の根拠、すなわち「青線を引く部分」です。
これに対して、誤答の各選択肢では、「不快に」に対し「羨ましく」「うっとうしく」「憎らしく」などの表現が、「そつのない態度」に対し「おしつけがましいもの」「完全無欠な態度」「作為的な振る舞い」など、「人付き合い~」に対しては「家族のように親しげに」などの、言い過ぎであったり、ふさわしくなかったりという表現が、意図的に盛り込まれているのです。
この違いを見きわめることが、「センター試験の国語対策の“鉄則”」であり、技術として習練の段階では、誤答の根拠に赤線、正答の根拠に青線を引きながら、違いをはっきり区別する訓練を(実際に解きながら)繰り返すことなのです。
2008年の漱石の出題をすでに解いたことがある人は、さっそく問2以外の設問も、点検してみて下さい。ここを一つの足がかりとして、センターの解き方のポイントが、実感としてつかめることと思います。
9月からのセンター試験対策講座のご案内は、今月末ごろには各サイト上でお知らせできる見込みです。今しばらくお待ち下さい。
国語力に定評がある文京区の総合学習塾教師
小田原漂情
文京区の総合学習塾・言問学舎