AI時代に響くルソーの問い ― 自由と他者のあいだで育つ思春期の心

豊田朋子

豊田朋子

テーマ:英語プレゼン大会

プレゼン報告No2:思春期入り口編


前回のプレゼン報告コラムでは、ジャン・ジャック・ルソーの教育思想、『エミール』に基づき、幼少期においては「野人の感性」を大切にし、五感を通して自らの幸福を身体全体で感じることの重要性について述べました。

https://mbp-japan.com/tokyo/globalkids/column/5213904/

低学年の子どもたちは、

好きなことを全力で語る
身体全体で感情を表現する
「I like」「I love」をまっすぐに発する

まさに主体の原型を育てる時期です。

「エミール」では、それが思春期に入ると人間は「他者」を意識し始めると述べています。

自己の幸福が、他者の幸福とどう関わるのか?

ここに社会的視野が芽生えます。

一方、ルソーは、フランス革命の思想的土台ともなったといわれる『社会契約論』において、人間の根源的な問いを発しています。
それは、

「私は私らしく自由でありたい。」
同時に
「人と調和し、うまく関係を築きたい。」


この二つを両立させる政治制度(民主制度)を追求したのが、「社会契約論」だとも言えます。

250年以上前に投げかけられたこの問いは、現代を生きる私たちにも深く響く普遍的なテーマです。

国と国の間で、
会社の職場の中で、
学校の教室の中で、
そして、最も親密な家庭の中でさえも

「私は、私らしく自由でいながら、どうしたら、他の人ともうまくやっていけるのか。」

リベラルな社会に生きる私たちは、常にこの葛藤に直面しているのではないでしょうか?

思春期の子どもたちが見せる社会性の芽生えは、まさにこの極めて人間的な葛藤へと自然に向かっていく途上にあるといえるでしょう。

特に、現代は、Al が瞬時に“最適解”を提示する時代です。

しかし、人間は葛藤する。

そして、その葛藤の中でしか「自分の言葉」は生まれず、
それこそが、AIには決してない、「人間らしさ」と言えるかもしれません。

さて、前回のプレゼン大会で、その問いにつながる思春期の入り口(小学高学年)の具体的な事例をご紹介します。

1)1000年の伝統を担うという誇り

日本舞踊について発表した小5の生徒。

習い事のテーマはプレゼンの定番です。

低学年であれば、稽古の大変さや楽しさのみを語るでしょう。

しかし最後に彼女はこう結びました。

“I am proud to be one of the people who carry on a Japanese dance tradition that has continued for over one thousand years.”
(私は、1000年の歴史を持つ日本の伝統の継承者として誇りを持っている。)

「あなたたちは、日本舞踊の継承者なのだ。」と師匠から何度も言われている言葉が内面化され、
自分の習い事を「個人的な楽しみ」としてだけではなく、
歴史の継承者として位置づけている。
ここに、個から社会へ向かう視線があります。

2)東京に住む私たちに故郷愛はあるかという問い

家族と旅した函館旅行について発表した小5の生徒。

家族旅行の楽しい思い出もプレゼンの人気のテーマです。

しかし、彼女は旅の楽しさを語るだけに終わりませんでした。

特産物を紹介する函館の人々の熱意、美しい景色を誇らしげに語る姿に注目し、こう問いかけました。

“When people in Hakodate talked about their food and beautiful views, I could feel how much they love their hometown.
We live in Tokyo, but do we love our city in the same way?”
(函館の人々がその特産物や景観を語る時、函館をいかに愛しているかが伝わってきた。果たして、東京に住む私たちは、自分の街にそのような愛着を感じているだろうか?)

地方への旅の思い出が、
「東京に住む私たちは、どう生きているのか」という問いへと発展しています。


3) 利他の喜びへの気づき

ヘアードネーションを経験した小6の生徒は、こう語りました。

“When I imagine that my hair will become a wig and someone who lost their hair because of illness will wear it and go outside with confidence, I feel that their confidence comes back to me as my own.”
(私の髪の毛がやがて、かつらになり、病気で髪をなくした方がそのかつらをかぶり、外に出ていく自信につながった姿を想像した時、その人の自信が、髪を寄付した私の自信としてかえってきたような気がした。)

人に尽くすことが、やがて自分の喜びに返ってくる、
利他の精神の本質を突いた気づきが見事に表現されています。

4)好きから社会へ ― 日本アニメという文化

「ジョジョの奇妙な冒険」や「進撃の巨人」、「毀滅の刃」など、大好きな日本のアニメについて発表した小6の生徒。

大好きなエンタメをテーマにしたプレゼンは最近増えていますが、彼女は、ただ「好き」を語るだけに終わりませんでした。
アメリカのアニメ、「スポンジボブ」や「ミニオン」といった絶妙は対比を挙げて、

“Compared to American animations like SpongeBob or Minions, Japanese anime has deeper messages such as overcoming challenges and the bonds between friends and family
Today, Japanese anime is even used in universities overseas to study ethics and Japanese culture.
I believe Japanese anime is a culture that Japan can proudly share with the world.”
(アメリカのアニメと比べると、日本のアニメは、家族や仲間の絆や苦しみからの克服など、深いテーマを扱っている。今、日本のアニメは、海外の大学で教材としても使われている。私は、日本のアニメは、世界に誇れる文化だと信じている。)

ここには、
個人的な「好き」から、内容理解、
他文化との比較
世界における位置づけ
がすべて含まれています。
「好き」が「文化理解」へと発展しているのです。

5)個人的関心から人類規模の課題へ

さらに、プロのサッカー選手になれなかったら宇宙関連の仕事につきたいという、理想を高く持つ小6の男子は、宇宙博物館での体験から次のように語りました。

I felt that I was both an Earthling and an alien. I also learned that planets have a lifespan, and that we humans may be shortening Earth’s natural lifespan through nuclear war and the climate crisis. In the future, I want to work to preserve that lifespan as much as possible.
(僕は地球人であると同時に宇宙人でもあると感じた。また、惑星にも寿命があることを学び、我々人類はその地球の自然な寿命を核戦争や気候危機で縮めるかもしれないと感じた。将来は、その自然な寿命を守る仕事をしたい。)
個人的な興味が、人類規模の課題へとつながっています。

6)個人的体験から社会問題へ ― 労働と生き方への問い

小6の男子生徒は、父親に起きたある出来事をきっかけに考え始めました。

残業で終電を逃し、まるで帰宅難民のように、2時間かけて徒歩で帰宅した父の姿に衝撃を受けたのです。

一体なぜ、こんなに遅くまで働かなきゃならないのか?

この素朴な疑問から彼は、日本の労働環境について調べ、「過労死」という現象が日本に特徴的であることを知ります。

そして、彼は英語でこう語りました。
“I thought about moving to countries like Australia or Canada, where people seem to have a better work-life balance.
But I also think we need to change the way people work in Japan.”
(将来、仕事環境が良いカナダやオーストラリアの移住も将来考えないこともない。でも、日本の労働環境を変えていくことも必要だと思う。)

さらに彼は、United Nations の掲げるSDGsの目標にも触れました。

ゴール3「すべての人に健康と福祉を」
ゴール8「働きがいも経済成長も」

低学年であれば、父親の出来事は単なるエピソードで終わるかもしれません。
しかし思春期の入り口に立つ子どもは、それを自分事として捉え、社会と結びつけるのだと実感しました。
そして、彼は、最後にこう会場に問いかけます。
Work is certainly important. But life should be the most important thing.
(仕事も確かに大事です。でも一番大事なのは命ではないですか?)
あまりに自明でありながらも、なぜか、大人が見失ってしまう真理を述べ、プレゼンを終えました。

主体を明確にする言語で語る意味

これらの発表に共通しているのは、

Iで語る
自分の立場を明確にする
感情と考察を結びつける

という点です。

英語という言語は、主語を曖昧にできません。

“I think.”
“I believe.”
“I am proud.”

主体を立てて語る構造そのものが、
思春期の自己確立を後押しします。

ルソーとAI時代

AIが情報を瞬時に生成する時代。
必要なのは、情報量ではなく、

自分は、一体どう感じるのか
それは他者や社会とどうつながるのか

を言語化する力です。

ルソーが「エミール」で述べたように、幼少期の「野人の感性」が、
思春期の入り口で社会的視野へと発展する。

そしてそれを、主体を明確にする英語で発する。

これこそが、自己確立期における英語教育の意義だと私は思います。

思春期の子どもたちは、その最も純粋な形で、すでにその営みを始めているのです。

Global kids英語会代表
(株)ダイバース・キッズ代表取締役
豊田朋子
Global kids英語会
http://globalkids-eigokai.com/
Global youth英語会
http://youth.globalkids-eigokai.com/
朝日新聞系広告web豊田コラム
https://mbp-japan.com/tokyo/globalkids/column/

リンクをコピーしました

Mybestpro Members

豊田朋子
専門家

豊田朋子(英語講師)

株式会社ダイバース・キッズ / Global kids英語会

文字と音の法則で学ぶ「フォニックス教授法」をベースに、日本の子どもに欠けがちな発信力をはぐくむプログラムを実施。本格的な英語プレゼン大会で成果を発表。専門訓練を受けたプロ講師たちが熱意を持って指導する

関連するコラム

プロのおすすめするコラム

コラムテーマ

コラム一覧に戻る

プロのインタビューを読む

子どもたちの「自己発信力」を引き出す英語スクールの経営者

豊田朋子プロへの仕事の相談・依頼

仕事の相談・依頼