信頼をもう一度あたため直す “信じたい”と“疑う気持ち”の間で揺れるとき 自分の安心を守りながら関係を見つめる。
思い込みをほどき、まっすぐに聴く
“わかったつもり”の向こうにある本音
事実・感情・解釈を分けて聴く力を育てよう。
はじめに
人の話を聞いているとき、
「なるほど、そういうことね」とすぐに理解した気になることはありませんか?
でも、私たちが“わかったつもり”になっているとき、
実はその多くが“自分の中の解釈”を見ているだけかもしれません。
人の言葉には、「事実」「感情」「解釈」の3つがいつも混ざっています。
それを整理しながら聴くことで、
相手の本音が少しずつ見えてくるのです。
今日は、思い込みをやさしくほどきながら、
“まっすぐに聴く力”を育てるためのヒントをお伝えします。
1. “思い込み”は、誰の中にもある
「この人はこういうタイプだから」「きっとこう思っているはず」
そんなふうに、相手の話を自分なりに解釈してしまうことは自然なことです。
人はみんな、自分の経験や価値観を通して世界を見ています。
だから、同じ出来事を見ても、感じ方や受けとめ方が少しずつ違うのです。
大切なのは、「思い込みをなくすこと」ではなく、
「自分にも思い込みがある」と気づいておくこと。
「自分の見方がすべてではない」と一歩引いて聴けると、
相手の言葉に新しい意味が見えてきます。
そこに、対話の入り口があります。
2. 事実・感情・解釈を分けて聴く
話を聴くとき、相手の言葉をこの3つに分けて受けとめてみましょう。
① 事実: 実際に起こった出来事(例:「上司に資料を直された」)
② 感情: そのときの気持ち(例:「がっかりした」「悔しかった」)
③ 解釈: 自分の捉え方(例:「自分は信頼されていないんだ」)
この3つを整理して聴くと、相手の本音が見えやすくなります。
もし相手が「もう嫌になっちゃう」と話しているなら、
「何があって、どんな気持ちだったのか」をやさしく確かめてみましょう。
「“嫌になった”のは、どんな場面だったの?」
「そのとき、どんな気持ちが強かった?」
こうして話を深めていくうちに、
相手が本当に伝えたかったことが、少しずつ形になっていきます。
3. “答えを出す”より、 “気持ちを受けとめる”
誰かの話を聴くとき、つい「どうすればいいか」を考えてしまうことがあります。
けれど、多くの場合、相手は“答え”ではなく“共感”を求めています。
「それはつらかったね」「そう感じたんだね」
たった一言でも、相手の気持ちをそのまま受けとめることで、
心の緊張がゆるみ、次の言葉が出てくるのです。
人は、解決策よりもまず「わかってもらえた」と感じるとき、
自分で考える力を取り戻します。
だからこそ、“助ける”よりも“寄り添う”姿勢で聴くこと。
それが、思い込みをほどき、本音に届くための大切なステップです。
4. “沈黙”も対話の一部として受けとめる
相手が黙ってしまうと、不安になることがあります。
「何か言わなきゃ」「話が止まっちゃった」と焦ることもあるでしょう。
でも、沈黙は“何も起きていない時間”ではありません。
その間、相手は自分の気持ちを整理したり、
言葉を選んだりしているのです。
聴く側がその沈黙を受けとめ、
穏やかに待つことで、相手の心に安心が生まれます。
沈黙は、信頼があるからこそ訪れる時間。
焦らずに見守ることが、 “まっすぐに聴く”ということなのです。
5. “聴く”ことは、 “相手の世界を旅すること”
聴くとは、相手の中にある「感じ方」「考え方」の世界を、
そっと旅するような行為です。
その旅の中で、あなたの中の“正しさ”や“価値観”がゆるやかに広がっていきます。
相手の世界を知ることは、同時に自分を知ることでもあります。
「そう感じる人もいるんだな」と受けとめるたびに、
人間関係の景色がやさしく変わっていきます。
聴く力とは、 “理解する力”ではなく、
“受けとめる力”。
その静かな力が、職場にも家庭にも、あたたかな風を運んでいきます。
よくある心のQ&A
Q1. 「相手の話を聞いていると、つい自分の意見を言いたくなります。」
それは自然なことです。
まずは「相手の話を最後まで聴いてから話す」と心に決めてみましょう。
話を聴き切ることで、相手の本当の思いが見えてきます。
Q2. 「相手の気持ちが理解できないとき、どうしたらいいですか?」
無理に理解しようとしなくて大丈夫です。
「そう感じたんですね」と言葉にするだけでも、
相手は“受けとめてもらえた”と感じます。
理解よりも、 “尊重”を意識してみましょう。
Q3. 「話を聞いていると、自分が疲れてしまいます。」
それは、あなたが相手の気持ちに深く共感しているからです。
ときには少し距離をとって、「今の私は聞く側」と意識してみましょう。
“聴く自分を守ること”も、思いやりのひとつです。
Q4. 「沈黙が怖くて、つい話を埋めてしまいます。」
沈黙の時間には、相手が言葉を探していることが多いです。
「急がなくていいですよ」と穏やかに伝えると、
相手の安心感が増し、自然に言葉が出てきます。
Q5. 「相手が感情的になると、どう接すればいいですか?」
感情が高ぶるとき、人は“理解されたい”気持ちでいっぱいです。
まずは反論せずに、「そう感じたんですね」と受けとめましょう。
落ち着いた後に、事実と気持ちを整理していくと、対話が再びつながります。
おわりに 〜“聴く”ことは、信頼を育てる時間〜
“まっすぐに聴く”とは、
相手の言葉の奥にある“気持ち”を感じ取ること。
それは、何かを判断することでも、解決することでもなく、
「あなたの思いを大切に聴いています」という姿勢そのものです。
聴く力が育つと、人との間にあたたかな信頼が生まれます。
職場でも家庭でも、「この人には話しても大丈夫」と思える空気が広がります。
もし今、人との関わりの中で
「話がかみ合わない」「本音が分からない」と感じている方は、
どうぞひとりで抱え込まないでください。
Amazing Graceのカウンセリングでは、
“聴くこと・伝えること”のバランスを整えながら、
やさしいコミュニケーションを育てるお手伝いをしています。
言葉を通して、信頼を取り戻す時間を過ごしてみませんか。
Amazing Grace 内田梓
心がほっとする“聴く力”を一緒に育てていきましょう。



