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先代のやり方を残すもの、変えるもの【事業承継後のゴタゴタ整理8】

橋本貢

橋本貢

テーマ:事業承継後のゴタゴタ整理


その判断基準を間違えると会社は分裂します

事業承継が決まると、多くの後継者は悩みます。

「先代のやり方を、このまま続けるべきなのだろうか。」

一方で、先代もまた、「今まで築いてきたものを、簡単に変えてほしくない。」という思いを抱えています。

そして社員は、その様子を静かに見ています。

私は、この場面でいつもお伝えしていることがあります。

事業承継で難しいのは、「何を変えるか」ではありません。「何を残すか」を決めることです。

「全部変える」も「何も変えない」も失敗する

後継者が就任すると、「自分の色を出さなければ。」という気持ちが強くなることがあります。

反対に、「先代が築いた会社だから。」と遠慮しすぎて、何も変えられない人もいます。

しかし、この二つは、どちらも極端です。

全部変えれば、社員は会社の歴史を否定されたように感じます。何も変えなければ、後継者が社長になった意味が見えません。

事業承継とは、この二つの間にある最適なバランスを探す仕事なのです。

「やり方」と「目的」は分けて考える

現場でよくあるのが、「先代は、こうやっていました。」という言葉です。

このとき私は、「それは目的ですか。それとも手段ですか。」と問い返します。

例えば、毎朝全員で朝礼を行っていた会社があるとします。

後継者は、「朝礼は時間がもったいない。」と感じるかもしれません。

しかし、朝礼の目的が、「社員全員で情報を共有すること」「会社の方向性を確認すること」だったとすれば、残すべきなのは朝礼というやり方ではなく、情報共有という目的です。

目的が同じであれば、オンラインミーティングでも、チャットツールでも構いません。

残すべきものを間違えなければ、やり方はいくらでも工夫できます。

先代が本当に残したかったもの

先代社長に、「何を一番大切にしてきましたか。」と質問すると、意外にも、「この帳票だ。」とか、「この会議のやり方だ。」とは答えません。

多くの方が話されるのは、「お客様との信頼。」「社員との約束。」「地域との付き合い。」

そんな目に見えない価値です。

つまり、先代自身も、本当に守りたいのは方法ではなく、会社の存在意義なのです。

社員が混乱するのは「基準」が見えないから

社員は、変化そのものよりも、判断基準が分からないことに不安を感じます。

昨日まで大切だと言われていたことが、今日から突然否定される。その理由が説明されない。

すると、「次は何が変わるのだろう。」という不安が広がります。

一方で、「お客様第一という考え方は変えません。」「ただ、その実現方法は変えます。」そう説明されると、社員は安心します。

変化には理由が必要です。

そして、その理由は会社の価値観につながっていなければなりません。

私が確認する三つの質問

事業承継後に何を残し、何を変えるかを整理するとき、私は次の三つの質問を投げかけます。

一つ目。

これは、お客様のために必要なものですか。

二つ目。

これは、社員が安心して働くために必要なものですか。

三つ目。

これは、単に「昔からそうだった」だけではありませんか。

この三つを整理すると、多くの会社で答えが見えてきます。続ける理由があるものは残す。理由がなく、慣習だけで続いているものは見直す。その判断が、会社の未来をつくります。

「変えること」を目的にしない

事業承継では、「改革しなければ。」という気持ちが先行しがちです。

しかし、変えること自体が目的になってしまうと、会社は方向性を失います。

大切なのは、会社が目指す未来に必要だから変える。という順番です。

その順番を守る会社は、改革が定着します。

逆に、「新社長だから変える。」では、社員の納得は得られません。

「経営の再編集」という視点

私は、事業承継とは、会社の歴史を消すことではなく、歴史に新しい章を書き加えることだと考えています。

長年積み重ねてきた信頼。地域とのつながり。社員が育んできた文化。それらは、会社にとって大切な財産です。

一方で、時代が変われば、仕事の進め方も、組織の仕組みも、情報共有の方法も変わります。

だからこそ、残すべき価値は守り、変えるべき方法はためらわず変える。
その判断を繰り返しながら、会社を次の時代へつないでいく。

それが、私の考える「経営の再編集」です。

事業承継は、過去と未来のどちらかを選ぶことではありません。

過去から受け継いだ価値を未来につなぐために、会社をより良い形へ編集し直すことなのです。

次回予告


「社員への事業承継メッセージで伝えるべき五つのこと──社員が知りたいのは『理念』より『自分の未来』」

事業承継後、新社長が最初に社員へ何を伝えるかは、その後の組織づくりを大きく左右します。次回は、社員の不安を安心へ変えるために、経営者が伝えるべき五つのポイントについて考えていきます。

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橋本貢
専門家

橋本貢(経営コンサルタント)

しずおか経営サポート

表面的な課題ではなく、売上・組織・戦略の根本構造を見極め、本質的な打ち手を実行まで伴走支援します。経営者の意思決定に寄り添い、成果に直結する改善を行います。

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