なぜ私は、すぐに答えを出さないのか【コンサルの視点23】

経営者は、最後に決断する人です。
会社の進む方向を決めるのも、新しい投資をするのも、人を採用するのも、事業をやめることを決めるのも、最終的には経営者の責任です。
だからこそ、「経営者は自分で決めなければならない」と考えている方は少なくありません。
もちろん、その責任から逃れることはできません。
しかし私は、「自分で決めること」と「一人で決めること」は、まったく違うことだと思っています。
経営相談の現場では、経営者が一人で悩み続けた結果、判断が遅れてしまう場面を何度も見てきました。
考えれば考えるほど迷いが増え、選択肢が広がり、何が正しいのか分からなくなる。そんな状態では、決断そのものが難しくなってしまいます。
一方で、対話を重ねながら整理していくと、不思議なほど判断が明確になることがあります。
社員の意見を聞いてみる。取引先の話に耳を傾ける。専門家と議論してみる。必ずしも相手の意見を採用する必要はありません。
大切なのは、自分とは違う視点に触れることです。
経営者は、日々多くのことを考えています。だからこそ、自分の考えだけで判断を重ねていると、知らず知らずのうちに視野が狭くなることがあります。
対話には、その視野を広げる力があります。
「そんな見方もあるのか。」「そこは考えていなかった。」「やはり、自分が大切にしたいのはこっちだ。」こうした気付きは、対話の中から生まれるものです。
私は、コンサルタントとは、経営者の代わりに決断する人ではないと思っています。また、自分の考えを押し付ける人でもありません。
経営者が持っている考えを整理し、ときには違う角度から問いを投げかけ、判断材料を増やしていく。その結果として、「やはりこの方向で進もう」と経営者自身が納得できる状態をつくることが、私たちの役割だと考えています。
経営には、正解がありません。だからこそ、最後に必要なのは、「誰かに言われたから」ではなく、「自分で納得して決めた」という感覚です。
納得して下した判断は、たとえ思いどおりの結果にならなかったとしても、次の改善につながります。反対に、他人に委ねた判断は、結果がどうであれ、どこかに迷いが残ります。
良い経営判断とは、一人で考え抜いた末に生まれるものではありません。さまざまな視点と向き合い、自分の価値観を見つめ直し、その上で最後は自ら責任を持って決断する。その積み重ねが、その会社らしい経営をつくっていくのだと思います。
だから私は、経営者と向き合うとき、答えを用意するのではなく、対話を大切にします。
良い経営判断は、一人では生まれない。
私は、その対話の一人になれたら、それが経営コンサルタントとして最も価値のある仕事だと考えています。


