事業承継後に先代社長が経営に口を出して困る…【事業承継後のゴタゴタ整理2】
「正しい改革」が失敗する理由
「せっかく社長になったのだから、会社を変えたい。」事業承継後の後継者から、この言葉を聞くことは少なくありません。
その気持ちは、とてもよく分かります。
先代とは違う時代を見据え、新しい経営をつくりたい。社員にも、自分の考えを理解してもらいたい。だからこそ、就任直後から新しい制度や方針を次々と打ち出す。
しかし、その結果として、「社員がついてこない。」「思った以上に反発が大きい。」「改革が止まってしまった。」という相談につながることがあります。
私は、そのような場面でいつも思います。
改革は、その内容よりも「順番」を間違えると失敗する。
後継者は「変えたい」、社員は「確かめたい」
事業承継の直後は、後継者と社員では見ている景色が違います。
後継者は未来を見ています。会社をもっと良くしたい、新しい市場へ挑戦したい、組織を変えたい。
一方で社員は現在を見ています。自分の仕事はどうなるのか、会社は本当に大丈夫なのか、今まで積み上げてきたものは評価されるのか。
つまり、後継者は「変化」を考え、社員は「安心」を求めています。
この温度差を理解しないまま改革を進めると、社員は変化そのものではなく、「安心を失うこと」に抵抗するようになります。
「まず変えよう」が危険な理由
新社長が就任して最初の会議で、「今日から会議の進め方を変えます。」「評価制度も見直します。」「営業のやり方も変えます。」そんな宣言をすることがあります。
もちろん、その改革は間違っていないかもしれません。
しかし社員からすれば、「何が残るのか。」が分からないまま、「何が変わるのか。」だけを聞かされることになります。
これでは、不安が先に立ってしまいます。
改革には「変えないもの」が必要
私は、事業承継後の改革では、必ず最初に「変えないもの」を明確にすることをお勧めしています。
例えば、
「お客様を大切にする姿勢は変えません。」
「地域との信頼は守ります。」
「社員を大切にする会社であり続けます。」
こうした言葉があるだけで、社員は安心します。
その上で、
「情報共有の方法は変えます。」
「意思決定は早くします。」
「デジタル化を進めます。」
と伝えれば、改革は「否定」ではなく「進化」として受け止められます。
改革は「小さな成功体験」から始める
事業承継直後は、会社全体を一気に変えようとしがちです。
しかし、多くの会社では、その方法はうまくいきません。
私がお勧めするのは、まず一つ、社員が「これは良かった。」と実感できる変化をつくることです。
例えば、会議時間が短くなった。報告書が分かりやすくなった。困っていた業務が改善された。
小さな成功体験が積み重なると、社員は、「この社長の改革なら、やってみよう。」と思うようになります。
信頼は、大きな改革ではなく、小さな成功の積み重ねから生まれるのです。
「スピード」と「拙速」は違う
経営にはスピードが必要です。
しかし、早く決めることと、急いで変えることは違います。
事業承継では、まず方向性を示す。次に理解を広げる。そして実行する。
この順番が重要です。
社員が置き去りになった改革は、一時的に進んだように見えても、必ずどこかで止まります。
私が改革を見るときの視点
経営相談の現場では、「何を変えるか。」より先に、「社員は、その改革をどう受け止めているか。」を確認します。
経営者は改革の内容を説明します。
社員は改革によって起こる生活の変化を考えます。
この視点の違いを埋めなければ、どれほど優れた改革でも組織には定着しません。
改革とは、制度を変えることではありません。
人が新しい仕組みを受け入れるプロセスなのです。
「経営の再編集」という視点
私は、事業承継後の改革とは、過去を否定することではなく、未来へ向けて会社を書き換えていく作業だと考えています。
だからこそ、一気に書き直すのではなく、会社の歴史を読み返し、残すべきものを確認し、その上で新しいページを書き加えていく。
それが「経営の再編集」です。
改革を急ぐ後継者ほど、「何を変えるか」に意識が向きます。
しかし、本当に大切なのは、「社員が安心して変化を受け入れられる順番で進めること」です。
正しい改革は、速い改革とは限りません。
会社全体が同じ方向を向ける改革こそが、事業承継を成功へ導く改革なのです。
次回予告
「先代のやり方を残すもの、変えるもの──その判断基準を間違えると会社は分裂する」
事業承継では、「変えるべきもの」と「守るべきもの」の見極めが欠かせません。次回は、先代から受け継いだ経営の中で、何を残し、何を変えるべきか、その判断基準について考えていきます。



