「拡大」ではなく「防衛」であるとき ――ナベトレフィットネスに見る、構造を守る経営判断

最近、Facebook Messengerに、こんなメッセージが届きました。
「申し訳ありません、少しご連絡失礼します
妹があなたに用事があります
必ずLINEで追加してください」
いわゆる、LINE誘導型の怪しいメッセージです。
もちろん、実際にはLINE追加など行っていません。しかしながら、経営コンサルタントとして、そして日頃からマーケティングやコミュニケーション設計を仕事としている立場から見ると、私はこの文面に妙な“完成度”を感じました。
特に気になったのは、「用事」という単語です。
これは単なる雑な日本語ではありません。むしろ、極めてよく設計された「行動誘導の言葉」に見えました。
今回は少し視点を変えて、この怪しいメッセージを「コピーライティング」や「マーケティング設計」の観点から分析してみたいと思います。
「用事」という言葉の絶妙さ
普通であれば、
* ご相談があります
* お話があります
* 確認したいことがあります
* 伝言があります
などと言いそうなものです。
しかし、このメッセージでは「用事があります」という曖昧な表現が使われています。
ここが実に興味深い。
「用事」という言葉には、解像度がありません。
仕事なのか。
私的な話なのか。
知人関係なのか。
緊急なのか。
単なる確認なのか。
何も分からない。
しかし、人間は「分からないもの」を放置するのが苦手です。
心理学では、人は未完了の情報に強く反応する傾向があると言われています。YouTubeで「続きは本編で」と言われると気になってしまうのと似ています。
つまり、この文面は「意味を伝える」ためではなく、「気にならせる」ために作られているのです。
なぜ“怪しい”のに反応してしまうのか
興味深いのは、この文章が決して高品質ではないことです。
むしろ、
* 日本語が少し不自然
* 情報が不足している
* 怪しさがある
にもかかわらず、なぜか頭に残る。
実は、ここに現代型SNS詐欺の本質があります。
彼らは「万人に信じてもらう」必要がありません。
むしろ、
* 深く検証する人
* 警戒心が強い人
* 理詰めで確認する人
を、最初の段階でふるい落としたいのです。
つまり、この“雑さ”は欠陥ではなく、「見込み客の選別」なのです。
マーケティングの世界では、「誰に売らないか」を決めることが重要だと言われます。これはまさにその逆利用です。
LINEへ誘導する理由
さらに興味深いのは、「必ずLINEで追加してください」という導線設計です。
Facebook Messengerは、通報・監視・アカウント凍結のリスクがあります。
一方、LINEはクローズドです。
つまり、
* 一対一の会話
* 継続接触
* 感情形成
* 囲い込み
がしやすい。
これは合法的なWebマーケティングでも全く同じ構造です。
広告からLINE登録へ誘導し、
その後、信頼構築を行い、
最終的に商品・サービスへつなげる。
違うのは、扱っているものが「詐欺」であることだけです。
構造そのものは、驚くほど現代的なマーケティングと似ています。
「妹」という設定も実に巧妙
さらに面白いのは、「女性本人」ではなく「妹」が登場する点です。
これにより、
* 家族感
* 身近さ
* 共通知人感
が生まれます。
もし直接、
「私があなたに用があります」
と言われると、急にロマンス詐欺感が強くなる。
しかし、「妹が」という第三者表現を使うことで、少しだけ“現実味”が出るのです。
この辺りの距離感調整は、実はかなり巧妙です。
これは「怪しいメッセージ」ではなく、「違法マーケティング」
私はこの手の文面を見ると、単なる「詐欺」ではなく、「違法なマーケティング設計」として見てしまいます。
そこには、
* フック
* CTA(行動喚起)
* リスト化
* ナーチャリング
* クロージング
という、営業・販促の基本構造が存在しているからです。
昔の「オレオレ詐欺」は電話一本勝負でした。
しかし今は、
* SNS
* LINE
* AI翻訳
* 感情設計
* 長期接触
を組み合わせた、“デジタル営業型”へ進化しています。
言い換えれば、
「詐欺のDX化」
です。
最後に
もちろん、こうしたメッセージに反応するべきではありません。
しかし一方で、私はこの文面から、人間心理やコミュニケーション設計の本質を感じました。
人は、「正しい情報」だけで動くわけではありません。
むしろ、
* 曖昧さ
* 未完了感
* 身近さ
* 軽い違和感
に心を動かされることがある。
マーケティングもまた、人間理解の営みです。
だからこそ、私たちは「怪しいものを笑う」だけでなく、
なぜそれが機能してしまうのか。
なぜ人の心が動くのか。
そこを構造として理解する必要があるのではないでしょうか。


