AI時代のメンタル不調:効率化の裏で「孤独」が深まる理由と、心を救う『非効率』な時間

飯塚和美

飯塚和美

テーマ:考え方を変えてみる

「お母さん、これならもうカウンセラーいらなくなるね!」

 娘にChatGPTの便利さを教えた時のことです。何を聞いても即座に、丁寧に、論理的な回答を返してくるAIの姿に、娘は感動して絶賛していました。検索する手間も省け、誰に気兼ねすることもなく24時間いつでも相談できる。確かに、これからの時代のスタンダードになるだろうと私も感じていました。

 しかし、そのわずか数日後のことです。私の元に一本の電話相談が入りました。

 相談者様は、沈んだ声でこう切り出されました。 「実は……3か月間、ずっとChatGPTに悩みを相談していたんです。でも、今日『これ以上は、電話相談(人間のカウンセラー)に行きなさい』と言われてしまって……」

 AIが自ら限界を認め、人間にバトンを渡した瞬間でした。3か月もの間、文字を通じてAIと対話を重ねてきた相談者が、なぜ最後には「人の声」を求めて私の元へ辿り着いたのか。そこには、効率化が進む現代社会で私たちが失いかけている、決定的な「心の栄養素」が隠されていいるのかもしれません。



1. 効率化の罠:AIが提示する「正解」で心は救われるか?


 AIの最大の特徴は「効率」と「正解」です。悩みを入力すれば、心理学の理論に基づいた「正しいアドバイス」が瞬時に提示されます。しかし、人間の心には『効率化してはいけない領域』が存在します。

「解決」はしても「解消」はされない
 相談者様は、AIから素晴らしいアドバイスを何度ももらっていたそうです。しかし、いくら「正しい答え」をもらっても、胸のつかえが取れることはありませんでした。
 
 それは、AIとの対話が「情報処理」に終始してしまったからかもしれません。悩みは「解決(Solution)」するだけでは不十分で、誰かに受け止められ、共感されることで初めて「解消(Resolution)」されます。論理的な正解だけでは、心の深い層にある「寂しさ」や「やるせなさ」を癒やすことはできないのです。

「タイパ」が奪う心の余白
 現代を象徴する「タイパ(タイムパフォーマンス)」の追求。最短距離で答えに辿り着くことは、ビジネスでは美徳ですが、メンタルケアにおいては時に毒となります。

  かつて私たちは、悩んだときに友人ととりとめもない長話をしたり、ぼーっと空を眺めたりしていました。この「無駄」に見える時間こそが、感情を整理するための「余白」となっていました。

 AIが答えを出しすぎることで、私たちはこの「自分の心と対話する時間」を奪われているのかもしれません。


2. 専門家が警鐘を鳴らす「身体性の欠如」と孤独

 なぜAIは、相談者に「電話相談に行け」と言ったのでしょうか。それは、文章のやり取りだけでは限界がある「身体的なつながり」の重要性を、AI(のアルゴリズム)すらも認めているからです。

画面越しでは伝わらない「非言語情報」
 カウンセリングにおいて、癒やしの根幹にあるのは「共鳴」です。相手の声のトーン、呼吸の間(ま)、微かなため息。こうした「非言語情報」を通じて、私たちは「この人は自分の痛みを分かってくれている」と肌で感じます。

  AIは共感の言葉を生成できても、そこには「体温」がありません。3か月間、相談者が渇望していたのは、情報としての回答ではなく、自分の存在を丸ごと受け止めてくれる「生身の誰かの気配」だったのです。

3. 心を軽くするための3つの解決策

 AI時代の孤独感から抜け出し、自分らしさを取り戻すためには、あえて「人間らしいアナログな感覚」を取り戻す必要があります。

ステップ1:あえて「非効率」な時間を選択する
 1日のうちにわずかな時間でも、「効率」を排除した時間を設けてください。

・手書きで今の気持ちを書き出す(ジャーナリング)
・丁寧にお茶を淹れ、その香りを味わう これらはAIにはできない、あなたという「身体」を持った存在だけが味わえる豊かな時間です。この余白が、心の弾力性を復活させます。

ステップ2:「答えのない状態」を許容する
 すぐにAIに答えを求めず、「今はまだモヤモヤしていてもいい」と自分に許可を出してあげてください。心理学ではこれを「ネガティブ・ケイパビリティ」と呼びます。すぐに解決しない悩みの中にこそ、あなたの大切な価値観が眠っています。

ステップ3:血の通った「対話」を恐れない
 誰かに直接会い、声を交わすこと。これは、どれだけテクノロジーが進化しても代替不可能な、究極のメンタルケアです。AIに勧められて電話をかけてきた相談者のように、誰かの存在をリアルに感じることで、脳は初めて「安心」という報酬を受け取ります。


AI時代だからこそ、あなたの「人間力」が光る

 AIは知識を授けてくれますが、知恵を授け、共に歩んでくれるのは人間だけです。
AIの共感と、人間の共感の「決定的な違い」
「計算」された共感 vs 「体験」に基づく共感 AIの共感は、膨大なデータから「こういう時はこう言うのがベスト」と導き出された統計的な正解です。

 一方で、カウンセラーの共感は、自分自身も傷ついたり悩んだりした経験があるという『痛みを通じた理解』です。読者は、その「言葉の重み」の違いを無意識に感じ取ります。

「リスク」を負っているか AIはどれだけ共感しても、相手の人生に対して責任を負うことも、共に傷つくこともありません。しかし、人間同士の対話は、お互いにエネルギーを使い、時に感情が揺さぶられる「リスク」を伴う関わりです。

 相談者様が最終的に電話をかけてきたのは、その『リスクを負ってでも自分と向き合ってくれる生身の存在』を求めたからではないでしょうか。

「沈黙」の質 ChatGPTは入力を待つ間、ただの停止状態ですが、カウンセラーとの対面や電話での「沈黙」には、温かさや見守っている空気感、つまり『意味のある沈黙』が存在します。

 娘に「カウンセラーはいらなくなる」と言われたあの日、私は少し寂しさを感じましたが、今なら自信を持って言えます。AIが普及すればするほど、私たち人間にしかできない「寄り添い」の価値は高まっていくのだと。

 私の開催している「心を軽くする講座」では、デジタルの波に飲まれず、自分の本当の感情とつながるためのワークを大切にしています。また、「カウンセラー養成講座では、AIには真似できない「沈黙の意味を汲み取り、心に深く寄り添う技術」を伝えています。

 効率化の時代だからこそ、あなたの「不完全さ」や「迷い」を大切にしてください。一人で抱えきれなくなった時は、AIではなく、カウンセラーを頼ってくださいね。

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飯塚和美
専門家

飯塚和美(心理カウンセラー)

カウンセリングルーム『大空』

電話相談含め8,000千人のカウンセリング実績。幼い頃からしみついた考え方の癖や枠を取り除き、生きづらさを解消します。リピーターが多く講座を含め日常で壁にぶつかると訪れたくなる、親しみやすさが好評

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