問題が続くWindows11アップデート、適用延期でトラブルを回避
ネットで広がる要件緩和説
Microsoft公式ページからWindows11のインストールイメージを使用したクリーンインストールで、非公式(システム要件を満たさない)PCでもインストール中のチェックで弾かれることなくインストールが完了し成功した・・という情報が拡散しています。これまでは、非対応PCにインストールするためにはチェック回避のためにプログラムなどに変更を加える必要がありました。しかし、今回はそのような回避策を使わずに、公式のインストールイメージそのままでクリーンインストールに成功しているとのこと。
SNS(特にX)やYoutubeなど一部のウェブメディア上で「非対応PCでも通常インストールが可能になった」「システム要件が緩和された」との投稿が相次いでいます。本当にWindows11のシステム要件が公式に緩和されたのでしょうか?現在(2025年7月27日)において、MicrosoftがWindows 11のシステム要件を緩和したという発表は存在しません。そこで今回は巷でうわさされている「Windows11のシステム要件緩和」の真相について検証してみたいと思います。
噂の出所と内容
SNSやブログ、YouTubeなどの投稿では、以下のような内容が公開されています
「第3~第7世代Intel CoreでもWindows11のインストールが可能」
「TPM 2.0やセキュアブートを有効にすれば、非対応のCPUでもインストールできる」
「バージョン24H2でシステム要件が緩和された可能性がある」
これらの情報の多くは、単にインストールできた状況証拠のみの憶測に過ぎず、技術的な裏付けや検証考察などに基づいていません。一部の古いパソコンに対し、「特別な回避策なしにWindows11がインストールできた」という報告は確かに見受けられますが、それをもってただちに「公式な要件緩和」を意味するものではないはずです。
噂が広まった背景
このような噂が拡大した背景には、以下の要因があると考えられます
1.Windows10のサポート終了間近(2025年10月14日)になり、旧型PCのユーザーの多くがWindows11への移行を模索し始めていて、これまでレアケースとされていた事例が多くなったことが憶測を呼んでいる。
2. クリーンインストールでは要件チェックのバグ、チェック動作の違い、判定があいまいになるハードウェア構成によってインストールに成功したことを「要件緩和」と勘違いをした。
3.最近、Windows10の無料延長サポートが公表されるという、これまでなかったMicrosoftの異例の対応によって、システム要件緩和もあり得るのではないかという勝手な憶測が誤解を生んでいる。
なぜ非対応PCでインストールできたのか考えられる要因
このような成功報告がある原因としては、様々な要因が考えられますが、単なる技術的なバグであったりMicrosoftの都合によるものである可能性があります。Linuxのようにオープンソースであれば、ある程度の挙動を把握できますが、Windowsのようなプロプライエタリのソフトウェアは、開発者側の意図や方針などが見えません。公式発表以外の情報については技術的な背景をもとにした確度を高めた推論と検証が必要です。
インストーラー側の仕様変更またはバグの可能性
不具合(バグ)による判定スキップ
Windows11 バージョン24H2では、インストールプロセス中のハードウェアチェックの挙動が一部変更された、あるいはバグによりスキップされるケースがあるとの報告があります。たとえば、TPM 2.0やセキュアブートが有効になっている環境で、第5世代~第7世代のIntel Coreプロセッサ搭載PCでも、特別な処置を行わずにインストールが完了したという例が報告されています。
このように意図せず旧世代CPUのチェックを通してしまう場合があります。特にTPM 2.0やセキュアブートのチェックが優先され、CPUのチェックロジックがスキップされるような処理順のバグも理論的には考えられます。
ハードウェア構成により判定がスキップされる
一部の古いCPUで、TPM 2.0やセキュアブートが有効であれば、「ユーザーのリスク承知の上で許容」として判定が通過する設定になっている可能性があります。実際にインストール中のチェックウィンドウで非対応の警告表示が出ていても、自己責任の上承諾する選択ができたという報告もあります。
一部のPCはTPM 2.0を満たさないものの、TPM 1.2やfTPM(ファームウェアTPM)、PPTが搭載されており、セットアップが部分的に「互換性あり」と誤認識する場合があります。特にビジネスモデルPCでは古いモデルであっても、セキュアな構成がいち早く導入されている場合が多く、そのようなPCではチェックが通ってしまうことがありえます。
BIOS/UEFIの挙動やマザーボードの仕様
BIOS更新による改善
古いCPUでも、BIOSアップデートによってTPMの実装やセキュアブート対応が改善されると、チェックを通過する可能性があります。インストーラーはCPUの世代だけでなく、ACPI情報やSMBIOSなどの報告内容を基に判定するため、これらの情報が「新しいもの」と誤認されるケースがあります。
インストール方法の違い(クリーンインストール vs アップグレード)
OS側でハードウェア判定に「グレーゾーン」がある
Intel 第7世代やAMD Ryzen 1000番台などは、性能的には十分対応可能であるため、Microsoft側でも内部的に「暫定許容」扱いになっている可能性があります。このようなCPUに対して、完全なブロックではなく「警告だけ出してインストールは通す」設定が行われている可能性があります。
また、第5世代〜第7世代のCPUがインストーラーのチェックを通過してしまうのは、Windows 11の基本的な動作に必要な命令セットの多くを第8世代以降のCPUと共有しているため、OS自体は起動して動作するからだと考えられます。
具体的には、第5世代(Broadwell)以降のIntel CPUは、Windows 11が要求する以下の重要な命令セットの多くを既にサポートしています。
〇SSE4.2: 第1世代Core iシリーズ(Nehalem)からサポート。
〇POPCNT: 第1世代Core iシリーズ(Nehalem)からサポート。
〇AES-NI: 暗号化処理を高速化する命令セット。第2世代Core iシリーズ(Sandy Bridge)からサポート。
〇AVX/AVX2: 浮動小数点演算を高速化する命令セット。AVXは第2世代Core iシリーズ(Sandy Bridge)から、AVX2は第4世代Core iシリーズ(Haswell)からサポート。
これらの命令セットは、Windows11の基本的なOS動作、セキュリティ機能、メディア処理などに広く利用されています。そのため、第5世代〜第7世代のCPUでも、これらのあくまで基本的な命令セットを最低限満たしているため、OSの基本的動作自体は可能でチェックが通ることがあると言えます。
そういうことなら非対応PCでもWindows11が使えるのでは?・・と思ってしまいそうですが、それは推奨されません。その理由を以下の以前のコラムで解説しています。
パフォーマンスが極端に落ちてしまうことがある
https://mbp-japan.com/saga/pc-pro/column/5117596/#h2-4
結論と留意点
現時点において、Windows11のシステム要件が公式に緩和された事実はありません。一部で報告されている「非対応PCでのインストール成功」は、インストーラー側の仕様変更、ハードウェア構成の影響、バグ、あるいは誤解や非公式手法によるものである可能性が高いと考えられます。
ただし、これは憶測にすぎませんが、以前からささやかれているWindows11への移行に必要な新規PCの生産が追い付いていない、または駆け込み需要増でサポート終了時に需給がひっ迫する可能性が高いことが影響しているのではないかと思われます。どういうことかというと、供給が安定するまでの間、旧PCにWindows11をインストール可能にすることで移行時の混乱を抑えようというMicrosoftの思惑による意図的なものかもしれません。さらに言うと、最近のLinuxのシェアが世界的に拡大していることへの対策ともいえなくはないのかもしれません。
しかし、あくまでもその場しのぎの方策であることには変わりなく、公式に要件を緩和するまでには至らない措置だととらえる必要があります。
したがって、今後もWindows11について情報を得る際には、出所がはっきりしなかったり、一部の事例だけをもって結論付けたりしないようにしましょう。情報リテラシーを向上させることがパソコントラブル回避には有効な手段となります。間違っても、「Youtubeで視た」、「Xに出てた」というだけでは情報を取得したことになっていません。話題作り目的のエンターテーメント情報や一部のユーザーの憶測などに惑わされないようにしましょう。確かな最新の情報を得るにはMicrosoft公式のサポートページの情報を確認することが最も必要です。
筆者実績:http://www.kumin.ne.jp/kiw/#ss



