ノートパソコンとタブレット型ノートPC、どちらを購入するか3つの選択要素と気を付けたい注意点とは
パソコンやスマホなどのIT機器は私たちの生活に必要不可欠な存在となりました。ですがあくまでも機械ですから故障や損傷が起きてしまうことは避けられません。そうなればすぐに生活に支障が出る人も多く、迅速に修理などの対処が必要となります。
ところが、いわゆる「メーカー都合」というもので修理が迅速にできなかったり、高額な費用が発生してしまうことがあります。そうなると、修理よりも買替えを選択せざるを得ないという現実的な問題に直面することになります。確かに次々と新型が登場し数年で型遅れのような状態になってしまうのがIT機器の特徴です。そこで仕方なく修理を断念する選択をする方も多いと思います。
しかし、それに「待った」をかけるものが現れました。それが「修理する権利」です。このコラムでは、「修理する権利」がユーザーに与える影響についてIT機器修理の専門家だからこそわかる視点で詳しく探ってみたいと思います。
「修理する権利」とは
修理する権利とは、機器の故障や損傷をユーザーが自ら、または専門業者やメーカーに依頼して修理を可能にする権利のことを言います。修理だったら普通にメーカーや量販店に持ち込めばすぐに対処してくれると思いますよね。ところが、最近では以前のイメージのような対応は望めないシーンが多くなっています。
量販店やメーカーの修理費用はかなり高額でしかも修理期間も長い場合があります。また、修理交換用のパーツがすでに製造中止になっていたりすることもあります。そこで店頭で修理ではなく買い替えを迫られたりすることがほとんどになってきています。修理すればまだ使える機器であっても多くの人はあきらめて買い替えを選択することになるでしょう。
それならばということで、街の家電店やパソコン修理業者などに依頼することを考えると思います。あるいは、自信がある人は自分で修理をしたいと思うこともあるでしょう。ところが一部のメーカーは、修理部品の供給やメーカー指定でない修理業者による修理に対して様々な制約をしています。また、製品の構造や設計が消耗品などを簡便に交換できなかったり、そもそも交換ではなく消耗した時点で製品自体の寿命となるような製品を送り出している場合もあります。
確かにメーカーにとってはそのような設計や製造を行うことで製品コストを低く抑えられ、販売価格を下げて競争力を高めることが可能です。また、サポートにかかるコストも削減できます。それだけでなく、部品供給を制限することで囲い込みを行いサポートから得られる利益を散逸させないようにできるメリットもあります。
しかし、そのようなメーカー都合のアフターサポート体制では、迅速で安価な修理を求める消費者には不十分で満足がいくものではありません。消費者のメリットは縮小されてメーカーの受益だけが大きくなってしまうことになります。そこで現在、世界的にそのような不便をユーザーが被ることにNoを訴える動きが出てきました。それが「修理する権利」です。
この権利は、消費者に製品をより長く使い続けることを可能にし、不必要な廃棄を減らして環境問題も改善できるように促すことが目的です。修理する権利を認める法律は、すでに米国、欧州連合など、世界中で施行されています。
「修理する権利」の現在の状況
既に欧州では法律によって「修理する権利」が認められました。その他の国々でも追従する動きが加速しています。
2020年2月施行のフランス「循環経済法」
https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/special/2020/0601/d20d98ef8e3131f1.html
2020年3月発表のEU「新循環型経済行動計画」
https://www.jetro.go.jp/biznews/2020/03/5ba822c725506e14.html
2021年6月施行の米国連邦取引委員会「公正修理法(修理する権利法)」
https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2107/22/news050.html
米国バイデン大統領が2021年6月に署名した「米国経済の競争促進のための大統領令」
https://www.jetro.go.jp/biznews/2021/07/4139b2cec5b745f9.html
欧州委、製造事業者に製品の修理を義務付け、消費者の「修理する権利」法案を発表
https://www.jetro.go.jp/biznews/2023/03/4c640764c9b4d540.html
※この規則により、EU域内のメーカーは、消費者が製品を修理するために必要な部品や情報を提供することが義務付けられました。
日本ではいまのところ「修理する権利」について行政側の動きはほとんどありません。それは、メーカーが「修理する権利」を嫌がっているからです。それはなぜかについては後半で述べることにします。
修理する権利は、消費者の権利を守るだけでなく、環境保護にも貢献します。修理する権利が認められることで、消費者は製品をより長く使い続けることができ、買い替えのサイクルを延ばして廃棄物を減らすことができます。また、修理する権利は、修理産業の創出にもつながります。
IFixit
私たちは所有する全てのものを修理する権利を持っています。
部品、ツール、および修理マニュアル情報へのアクセスは、公正かつ適切な価格でなければなりません。
https://jp.ifixit.com/Right-to-Repair
修理する権利で具体的に何が変わるのか
修理する権利でユーザーにどんなメリットがあるか
修理する権利が確立されることで、ユーザーには以下のようなメリットがもたらされます。
1. 経済的メリット
ユーザーはまだ使える機器を修理できれば新しい機器に買い替える必要がなくなります。修理によって機器の寿命を延ばすことができ、運用コストを削減することができます。
2. 環境への貢献
修理することで機器が延命できればそれだけ廃棄されるIT機器の量が減少します。修理が容易に行えることで、再利用やリサイクルが促進され、資源の節約と環境負荷の軽減にもつながります。
3.選択肢の拡大
修理が必要な場合にユーザーは多くの選択肢から方法を選ぶことができるようになります。これまでメーカーが外部業者には出さなかった修理パーツを入手することが可能になります。迅速で安価だったり高品質で確かな修理ができる最寄りの修理業者へ依頼が可能になったり、自分でパーツを入手して修理できるようにもなります。
修理する権利でユーザーが受けるデメリット
品質の問題
メーカー指定以外の修理業者への依頼や自己修理を選択した場合、修理の品質に不安が生じる可能性があります。正確な診断や適切な修理が行われない場合、機器の動作不良や継続的な問題が発生する可能性があります。また、不慣れなユーザーによる修理が不適切だった場合、修理費用が余計にかかったり修理不能になる恐れもあります。
保証の制約
製品によってはメーカーの公式修理業者以外や自己によって修理が行われた場合、修理する権利で担保されない部分で保証が無効になる可能性があります。修理する権利を行使することで、保証の制約を受けるリスクが存在します。
製品価格への影響
製品を簡便に修理可能にするためにはそれに見合った構造にしたり、設計そのものを見直す必要があります。それによって製造コストが増大する可能性があります。そうなれば製品の価格にも反映され高額になり消費者にとってはデメリットになるでしょう。
「修理する権利」に対するメーカーの本音
日本の対応が進んでいない原因とは
ところで、日本では「修理する権利」に対して具体的な動きがありません。ガイドライン的なものは発表されていますが法制化などは議論さえ行われていません。その理由は何なのでしょうか?前述のユーザーが受けるデメリットで述べた部分がメーカー側に都合が悪いということがまず第一にあります。
要するに、メーカー以外が修理することによって生じるトラブルの責任の所在が問題なのです。責任があいまいになることは受け入れられないということでしょう。それに付いては一理あると思います。ユーザーやメーカー以外の修理業者が修理の際にミスを犯すことは容易に考えられます。その際の責任の範囲をどのようにするかというのは非常に難しい問題だと思います。
「修理する権利」を法制化している国では、その点の考え方として以下のような例を挙げています。ユーザーが交換した部品が純正でなかったり、分解したりした時点で通常はメーカー保証対象外になります。しかし、修理する権利ではそのことで制約を課したり故障の原因ではない場合は保証対象外にすることはできません。純正でない部品であっても直接故障の原因になっていなければメーカーは製品の保証を行う必要があります。この点もメーカーとしては嫌がる原因でしょう。(※部品に問題がなくても取り付け方法が適切でなくそれが原因で故障した場合はユーザーがその修理コストを負担する必要があります。)
※分解した場合、保証対象外になることがある
また、製品の開発やリリース時にアフターサポートによる収益を見込んでいる場合、それが見込めなくなれば商品開発や後継機種のリリースができなくなることも考えられます。そうなれば、人気機種の新製品リリースが遅れたり製造が打ち切りになったりするかもしれません。その点はメーカーにとってだけではなく消費者にもデメリットになります。
自動車については、ユーザーや修理工場での修理がこれまで長年に渡って行われてきました。ある程度責任の所在も明確にされていて産業としても確立されています。けれども、自動車業界は様々な税金や保険、業界団体などが絡み合って巨大な利権構造になっているという実態があります。そうなれば確かに修理という産業が成り立つのも理解できます。
しかし、日本のITの現状はそのような行政や業界が一体になるような産業構造になっていません。要するに利権化しにくいという部分と、あまりに動きが激しい産業、業界で安定感に乏しいということもあります。修理だけでは産業として成り立たないということでは、メーカーもそこに魅力は感じることはなく「修理する権利」に消極的になる理由だと言えるでしょう。
しかし、レジ袋有料化では消費者の意見やデメリットを踏み倒してでも迅速にしかも一斉に可能にしたことは記憶に新しいところです。その行動力があるのなら「修理する権利」は日本でもその気次第で法制化することは可能ではないでしょうか?
「修理する権利」は、その内容から言っても「経産省」「消費者庁」「環境省」「総務省」それぞれにかかわりがあると思われます。それが幸か不幸かわかりませんが、押し付け合いだけはやめてほしいものです。
メーカーや行政まかせでなく、ユーザー側からも積極的な行動が望まれます。修理する権利の責任範囲やコスト配分をどうするか、議論の余地がありますが業界団体を立ち上げることなども必要ではないでしょうか?また、メーカーにとってはユーザーの要求に応えることや持続可能なビジネスモデルの確立が重要となります。待ったなしの環境問題や放置されたアフターマーケットをメーカーにとってビジネスチャンスととらえることができれば新たなビジネスモデルとして考えることも可能です。将来的には、ユーザーとメーカーの双方が利益を最大化できる修理サービスのあり方を模索していくことが重要です。