デジタルデータは本当に劣化しないのか?意外と知られていないデジタルデータの落とし穴

古賀竜一

古賀竜一

テーマ:ITリテラシーの向上

やはりアナログよりデジタル

●情報がアナログからデジタルへと移行し、高いクオリティーを維持したまま短時間で保存や複製、移動が出来るようになって大変便利な世の中になりました。

●私が若い頃の昭和の時代には、アナログオーディオが隆盛を極めていた時期にあたります。LPレコードやカセットテープ、ラジオ番組のエアチェックなどアナログ音源を如何に高音質で視聴・保存するかということに神経を研ぎ澄まして臨んでいたりしたものです。

●オーディオにかける費用も、今ではとても考えられない額を多くの人たちが注ぎ込んだのも事実です。高級なビデオ・オーディオ機器は自動車に次ぐステイタスシンボルのひとつともなっていました。

●今でも、アナログの音を楽しみたいという需要があるようで、レコードプレーヤなどのアナログ機器が新たに発売となったり、中古市場で高騰したりしてちょっとしたブームにもなっているようです。

●懐古趣味も悪くはありませんが冷静になって当時のアナログの音を今聴いてみると、やはりすべての面でデジタルには到底敵いません。また、テープやLP盤のように物理的な消耗や経年による劣化もデジタルでは心配することもなくなりました。

物理的な劣化のほかにソフトウェア的な劣化がある

●ところが、デジタルになったからといって安心してはいられない事が今起きています。

●サポート事例でよく登場するのは、写真や音楽などのデータを劣化させてしまう事例が数多くあることです。

●何回複製しても劣化しないというのがデジタルデータの特性であり、メリットというのが一般的な常識となっていると思います。ところが、データの取扱い方次第ではデジタルでも「劣化」がありえるのです。劣化の具合によってはアナログデータよりもひどい状態になってしまうこともあります。

●データの劣化というとCDやDVDなどが読み出せなくなったり、HDDやUSBメモリのデータが出てこなくなるということを思い浮かべるかも知れません。ですが、ここで今からお話しする「データの劣化」はそのような物理的劣化のことではなく、ソフトウェア的な劣化のことを指しています。

媒体の劣化とデータの劣化を同じ様に考えてはいけない

●コピーや移動ができなくなるほど劣化して読み取れないようなディスクやフラッシュメモリなどの媒体からは当然データは復元できません。その場合データの状態は劣化ではなく「破損」です。しかし媒体の外観がひどく劣化していても問題なく読み出すことができればそのデータは完全に生きています。正常に読み出すことができたデータなら媒体の劣化によってデータも同じように劣化を起こしているということはありません。

●つまり媒体に外観的な物理的劣化が起きていたとしても、データが読み出せるのであればそれでデジタルデータが劣化しているということにはならないのです。

●要するに媒体の劣化とデータそのものの劣化は別に考える必要があるわけです。外観はボロボロでも正常に読み出せればデータはOK。逆に媒体の外観は新品同様で美しくても内部の記録部分が劣悪化していたり損傷していて読み出せない場合はNGです。とはいっても、あまりに外観がひどい状態の場合は長期間使用していた可能性もあるので、データが読み出せてる間に速やかに新しい媒体へデータを移しておきましょう。

●音楽CDデータで「エラー訂正」とか「補間」という言葉が出てきますが、正常に機能すればデジタルデータが劣化することはありません。それが機能しなくなるほど媒体が劣化すると、データは劣化ではなくロストしてしまいます。ただし、例外としてDA変換時にアナログ側の質が劣化する影響が出る機器もありますが、それはデジタルの問題ではなく機器品質の問題です。

デジタルデータのソフト的な劣化とは具体的にどういうことなのか

●デジタルデータは、使用するデバイスや種類によって様々な形式が存在します。そしてそれぞれに特長や性質が異なっていてデータの使用用途や環境などで使い分けが可能になっています。

●例えばデジカメなどの写真データは、主に「JPG」というデータ形式で保存されます。また、音楽は「mp3」や「wav」、映像ならば「mpg」や「mp4」、「avi」などという形式で作成されます。それらのデータは、単にコピー(複製)するだけであれば劣化は全く起こりません。

●しかし、ソフトウェア上で編集したり他のデータ形式に変換したりする際にデータの劣化が起きてしまうことがあるのです。それが今回お話しするソフトウェア的な劣化です。

●JPGという画像データ形式は「非可逆性」という性質を持っています。簡単に言うと、画像エディタソフトなどで明るさを変えるなど何らかの編集作業をして変更を加え上書き保存してしまうと、元のデータに戻すことが出来なくなってしまうのです。

●要するに元のデータと比較してソフトウェア上でデータの「劣化」が起きるのです。それを何度と無く繰り返してしまうとその都度劣化し、データのクオリティーが損なわれていきます。いわゆる「ジェネレーションロス」が生じます。

●これは、音楽や動画データも同じで、データ形式によっては画像データ同様、編集やエフェクト加工の際に劣化が起きます。劣化の度合いは、使用するソフトウェアのアルゴリズムや出力しようとしている変換方法、ファイル形式などで違いは様々です。その選択や設定値などを間違えると、ひどく劣化して一度の編集でもクオリティーを大幅に損なってしまうこともあります。


※上はオリジナルに近いデータ、下はリサイズをして小さくし過ぎたデータ。クリックで拡大するとディティールなど細部で劣化がわかる

劣化を最小限に留めるにはどうすればいいのか

●では編集しなければいいではないか・・・と思うかもしれませんが、そういうわけにもいかない事情があります。音楽や画像、映像データなどのサイズが大きいオリジナルデータは、そのままではネットワークなどで配布や公開する際に冗長過ぎるのです。データを扱いやすくするにはどうしても圧縮変換やリサイズ、トリミングなどの編集を加えなければなりません。

●その際の劣化を最小限に留めるためには以下のような工夫を行うことで、元データと比べて遜色の無いクオリティーを保つことが出来ます。

○「使用するソフトウェアの品質」
ソフトウェアのアルゴリズムによって劣化に差が出る。
リサイズやトリミング時に劣化が激しいソフトウェアがある。
例:MSペイントなど

○「ソフトウェアの品質(圧縮率)出力設定」
出力時の品質を高く保つため保存品質の数値を高く設定する
※圧縮率であれば低圧縮

○「データ劣化がない、少なくなる形式(可逆性形式)で編集、出力する」
いったん可逆性形式に変換し編集、完了後に目的の形式に書き出す。
※可逆性形式なら編集作業によるノイズ付加などが起きにくい

データを劣化させないために注意したいデータ管理

●以上のような対策を行ったとしても、非可逆性データはオリジナルデータ(元データ)のクオリティーと完全に同等にはなりません。ですから、オリジナルデータに対して直接編集せず、オリジナルデータを直接扱わずに、作業前にまず編集用に複製を作成した上でその複製データを使って編集を行うようにします。

●オリジナルデータの最適なバックアップ方法は、BD-R、DVD-R、CD-Rのような光学ディスクへの記録です。データの上書きができなくなるライトアットワンス(セッションクローズ)で書込みを行うと、データを誤操作しても一度書込んだオリジナルデータは改変できません。パケットライトは上書き可能なのでバックアップには向きません。

●USBメモリやHDDなどはデータの上書きが可能になるため、バックアップを取っていても作業中に何かの間違いや勘違いで保存中のオリジナルデータを改変してしまうアクシデントが起きる可能性があります。オリジナルデータの保存先としては不安が残ります。

●オリジナルデータを上書きしてしまうと二度と元に戻せなくなりますので、オリジナルデータは永遠に失われることになります。

●以上のようにデジタルデータでも取り扱い方によっては劣化してしまうことがあるので、マルチメディアのデータを取り扱う場合は十分留意して行うようにしましょう。


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ITのユーザーサポートの現場で実際に問題を解決しながら、ITの最新の状況とその問題点を追及している専門家です。多様で複雑になってきたITのことをユーザーにわかりやすく丁寧にお伝えします。

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