『マージン・ミックス』、ほとんどの人が知らない戦略的・活用術【商人舎magazine7月号】原稿
会社の数字は、突然悪化するわけではありません。
売場も人も、社長の判断に従って、静かに変化していきます。
基準を下げた瞬間から、経営は音を立てずに崩れ始める。
これは、環境論でもノウハウ論でもない、経営者自身の判断に向き合うためのコラムです。
「以前なら、こうは判断しなかった」
そう感じたことはありませんか。
売上でも、
人でも、
環境でもない。
会社が伸び悩むとき、必ず起きているのは社長自身の“判断基準の変化”です。
このコラムは、成功事例も、派手な戦略も語りません。
ただ、会社はなぜ静かに弱くなり、
それでも、なぜまだ変えられるのか・・・。
その答えを、社長自身の判断という一点から静かに掘り下げていきます。
会社の数字は、突然悪化するわけではありません。
売上も、粗利益も、人の動きも、
少しずつ、静かに変わっていきます。
多くの場合、その変化は外からは見えません。
しかし、社長自身は気づいているはずです。
「以前なら、こうは判断しなかった」
「どこかで、基準を下げた」
その感覚を。
経営が厳しくなったとき、人は理由を探します。
市場環境。
人手不足。
物価高。
競争激化。
どれも事実です。
否定する必要はありません。
ただし、それらは“説明”にはなっても、“答え”にはなりません。
成果を出し続けている会社は、
環境が良かったから伸びたわけではありません。
環境が厳しくなったとき、社長が判断を緩めなかった。
ただ、それだけです。
利益を出している会社の社長は、
特別な戦略を持っているわけではありません。
派手な改革も、劇的な一手も、ほとんど打っていません。
彼らがやっているのは、ごく当たり前のことです。
・数字を見る。
・現場を見る。
・人を見る。
そして、
・基準を下げない。
・やらないことを決め、
・例外をつくらず、
・曖昧なままにしない。
その積み重ねが、会社の形になります。
会社が伸び悩んでいるとき、現場に原因を求めるのは簡単です。
しかし、現場は社長の意思決定以上に、賢くはなれません。
・売場の甘さも、
・幹部の迷いも、
・社員の遠慮も、
すべて、社長の判断の影です。
「もう少し様子を見よう」
「今回は仕方がない」
「人がいないから」
その一言一言が、会社の基準を、静かに下げていきます。
社長が基準を下げた瞬間、組織は必ず察知します。
言葉にしなくても、数字にしなくても、空気は伝わります。
逆も同じです。
社長が基準を上げたとき、組織は時間差で応え始めます。
すぐに結果は出ません。
むしろ、一時的に数字は悪くなるかもしれません。
それでも、社長が判断を変えなければ、組織は必ず追いついてきます。
会社は、社長の覚悟以上には成長しません。
これは制約であり、同時に、最大の可能性でもあります。
誰かが会社を変えてくれることはありません。
変えられるのは、今日の判断を下す、社長だけです。
・何を許し、
・何を許さず、
・何を当たり前にするのか。
その選択が、半年後、一年後の会社をつくります。
経営とは、派手な決断ではありません。
小さな判断を、正しい基準で積み重ねることです。
その基準を守り続けられるかどうか。
それが、社長としての、最も静かで、最も重い仕事です。
そして、未来について
ここまで読んで、重く感じたかもしれません。
しかし、一つだけ、はっきり言えることがあります。
会社は、まだ変えられます。
なぜなら、判断はこれからも、社長の手の中にあるからです。
過去の意思決定は変えられません。
しかし、次の判断は、今ここから変えられます。
・基準を一段戻す。
・曖昧にしてきたことを決め直す。
・当たり前を、当たり前として徹底する。
それだけで、会社の空気は確実に変わります。
・劇的な変化は起きません。
・拍手もありません。
・評価もすぐには得られません。
それでも、数字と現場は、必ず反応します。
未来とは、突然訪れるものではありません。
今日の判断が、時間差で姿を変えただけのものです。
社長が基準を取り戻せば、会社は必ず応えます。
これは、私がコンサルティングの多くの現場で、何度も確認してきた事実です。
経営とは、未来に対する責任である
経営とは、会社を存続させることではありません。
現状を守ることでも、数字をつくることでもない。
経営とは、「未来に、どんな判断を残すか」
その責任を引き受ける仕事です。
経営は孤独です。
正解はなく、誰も代わりに決断してくれません。
それでも、判断を引き受け続けた社長だけが、会社を次の段階へ連れていきます。
会社は、社長の覚悟に対して、必ず時間差で応えます。
経営とは、派手な成功談ではなく、
静かな判断の積み重ねです。
その積み重ねが、
・社員の未来をつくり、
・地域を支え、
・次の世代に残る会社を形づくります。
判断は、これからも続いていく
分かっていることを、最後までやり切る覚悟を、持ち続けること。
それが、経営で最も難しいことです。
迷いは、真剣に経営している証です。
大切なのは、迷いながらも、基準を手放さないこと。
経営とは、未来から静かに評価される仕事です。
会社の未来は、これからも、社長の判断の中にあります。
その事実は、重く、同時に、希望でもあります。
判断のそばに、いつも現場があった
このコラムで書いてきたことは、私自身ができなかったことの記録でもあります。
・判断を先送りし、
・基準を曖昧にし、
・結果として後悔した経験も、
少なくありません。
多くの社長と向き合う中で、一つ確信していることがあります。
悩んでいる社長ほど、真剣です。
迷い続け、考え続ける限り、経営には可能性があります。
このコラムが、あなたの次の判断を少し前向きなものにするきっかけになれば、それ以上のことはありません。
■著者プロフィール
新谷 千里(しん・ちさと)
スーパーマーケットを中心に、小売・流通業の現場改善と経営支援に携わるコンサルタント。
派手な戦略よりも、
「判断と基準が現場をどう変えるか」という一点を軸に、
「仕事の仕方」を教える活動をしている。
現場と経営のあいだに立ち、社長が自分の判断と向き合うための言葉と問いを提示し続けている。
新谷の“我が使命”は、
「より良い方法を教えて、人々の人生を豊かにする」ことです。



