大手に負けない!中小スーパーの売上・利益向上作戦  ランチェスター戦略の実践

新谷千里

新谷千里

テーマ:スーパーマーケットの経営戦略

地方のスーパーマーケットを取り巻く環境は、年々厳しさを増している。

イオンやマックスバリュなどの大手チェーンが商圏に入り込み、さらにドラッグストアが食品を扱い始めたことで、価格競争は激化。消費者の購買行動は変化し、若年層の食離れ、高齢層の外出減少、共働き世帯の時短志向が重なっている。

そうした中で、「地域の中小スーパーはもう勝ち目がない」と嘆く声も少なくない。

しかし、本当にそうだろうか。大手のやり方を真似して総合戦を挑めば確かに勝てない。

だが、戦う場所とやり方を変えれば、地元密着のスーパーでも十分に勝機はある。その考え方の基本にあるのが、ランチェスター戦略である。

総合では勝てない。「小さな1位」をつくる

 ランチェスター戦略とは、本来は戦争理論から生まれたもので、“強者は総合力で攻め、弱者は一点集中で勝つ”という原則を持つ。これをスーパーマーケットに当てはめると、「総合一番を目指さず、小さな一番をつくる」ことが重要になる。

 中小スーパーが目指すべきは、「この地域で刺身ならうちが一番」「惣菜はどこにも負けない」「地元のお年寄りが一番買いやすい店」といった小さな一位ポジションである。

広く浅くすべてを平均的にやるのではなく、特定の部門や顧客層に資源を集中することで、強者に勝てる局地戦をつくる。これが地方スーパーの生き残り戦略の核心だ。

差別化として、「大手がやらない価値をつくる」

 価格では勝てないからこそ、価値で勝負する。

たとえば地元の農家や漁師、精肉業者と直接つながり、「〇〇さんのトマト」「△△漁港直送サバ」など、生産者の顔が見える売場をつくる。これは大手が最も苦手とする領域である。

さらに、惣菜の自家製化も有効だ。セントラルキッチンでは出せない“手作りの味”を活かし、地元の味付けや旬の食材を生かしたメニューでリピーターを増やす。

「この店の弁当は美味しい」という評価は、地域に根を張る中小スーパー最大の武器になる。

また、高齢化の進む地方では、地域密着型の商品展開も差別化になる。

1人分の野菜パック、少量惣菜、半分カットのフルーツなど、「ちょっとだけほしい」というニーズに応える工夫が顧客の心をつかむ。顔の見える配達、電話・LINE注文などのサービスも有効だ。

一点集中で、 「重点カテゴリー・重点時間を絞る」

中小スーパーにとって最大のリスクは「何でも屋」になることだ。

すべてのカテゴリーを広く扱えば、在庫も作業も増え、利益は薄まる。そこで重要なのが“一点集中”の考え方である。

惣菜・青果・寿司など、来店動機を生む“核部門”を明確にして、そこに人と時間と販促を集中させる。

たとえば「夕方の弁当・惣菜を強化」「土日の果物フェアを徹底」など、時間帯と部門を組み合わせた“集中戦略”を実施する。

重点商品の売場面積を広げて訴求力を上げる。限られた人時を、利益を生む商品・時間に投資することが、中小スーパーにとって最大の生産性向上策となる。

接近戦で、 「お客様と直接つながる」

大手はデータで顧客を把握する。しかし中小スーパーは“顔”と“会話”で顧客をつかめる。

これこそが最大の武器だ。

試食販売や声かけでお客様との距離を縮め、「この店のチーフが勧めるなら買ってみよう」と思わせる関係性を築く。

SNSを活用しよう。

FacebookやLINE、InstagramやYouTubeで、「今日のおすすめ」「限定入荷!」と発信することで、顧客とのリアルタイム接点を増やせる。

また、常連客リストやLINE登録によって個別案内を行えば、「◯◯さん向けに今日だけ仕入れました」という“特別感”が生まれる。これは大手が決して真似できない“地域の信頼”を積み重ねる行為である。

「小さな1位」の具体例

①農村・郊外型スーパー
惣菜売上構成比を20%以上に引き上げる。自家製・地元食材の惣菜で昼食・夕食ニーズを取り込む。

②鮮魚強み型
「刺身がうまい店」として境港直送や夕方の鮮度訴求を徹底。限定入荷情報をSNSで発信する。また、朝仕入れた魚の煮付けやフライも最高だ。

③高齢者多い商圏
「シニアにやさしい店」をテーマに、個食・小容量を強化。買い物代行や配達連携で“地域の見守り機能”を果たす。

④通勤客多い商圏
「15~19時が強い店」として、夕方時短惣菜・弁当・タイムセールを集中。帰宅動線上に“ついで買いコーナー”を設ける。

これらはいずれも「総合で勝つ」のではなく、「局地で勝つ」戦略である。

限られた経営資源を分散せず、強みを一点に集中することが利益向上の近道だ。

「やらないこと」を決める勇気

この戦略の本質は、「何をやるか」ではなく、「何をやらないか」にある。

中小スーパーが陥りやすいのは、“とりあえず全部やる”発想だ。

結果、在庫は膨らみ、作業は増え、従業員は疲弊する。

だからこそ、次の3つを明確に打ち出す必要がある。
 
① 安売り競争には参加しない  

② 売れないカテゴリー・SKUを削減して投入人時を減らす  

③ 全員が重点部門・重点商品を理解し、行動をそろえる


 この“引き算の戦略”こそ、収益体質を変える(強くする)第一歩だ。

「ランチェスター戦略のPDCA」を回す

 戦略を絵に描いた餅で終わらせないためには、現場でのPDCAが欠かせない。

 
① 現状診断

  ➤売上構成・粗利・人時・ロス・客層を分析する
 
② 小さな1位の設定

  ➤「どの部門・商品・顧客層で勝つか」を明確にする
 
③ 集中投資

  ➤作業人時・販促・売場スペースを重点部門に集中する
 
④ 接近戦強化

  ➤SNSや試食、対話で顧客接点を増やし、日次で改善を繰り返す
 
⑤ 成果検証

  ➤重点商品の売上・客数変化を週次でチェックし、継続的に改善を行う

このサイクルを愚直に繰り返すことで、“地元で一番感じのいい店”が育ち、売上だけでなく営業利益率が確実に上がっていくことが可能になる。

「狭く」 「深く」 「濃く」 で勝つ!

 地方スーパーが生き残る鍵は、「大手の真似をしない勇気」である。

強者が「広く」「浅く」攻めるなら、

弱者は「狭く」「深く」「濃く」攻める。

つまり、自分たちが本当に勝てる“場所と顧客”に全力で集中することだ。

“地元で一番感じがいい店”

“刺身だけは負けない店”

“惣菜で選ばれる店”  

この「小さな1位」をつくることが、営業利益を押し上げ、地域に必要とされ続けるスーパーの条件なのである。


人口減少や最低賃金上昇といった外部要因に振り回されず、先ずは、改めて自店の「強みの1点」、探してみよう。

自社の強みの一点に、それぞれを磨き上げることだ・・・。

それが、「大手に負けない中小スーパー」への最短ルートなのだ。


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新谷千里
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新谷千里(経営コンサルタント)

有限会社サミットリテイリングセンター

100社以上の業績向上を実現した業務改善のプロ。売れてしまう実践的マーケティングとオペレーション改善とコスト削減。他では教えてくれない理論と実践で、競争の厳しい時代に確実に営業利益を向上させます。

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