『マージン・ミックス』、ほとんどの人が知らない戦略的・活用術【商人舎magazine7月号】原稿
業績低迷で悩んでいたローカルチェーン(スーパーマーケット)。
その1番店が、5カ月目で営業利益が2倍になった。
改善活動を始めた当初、前年対比95%程度だった売上も、徐々に上向きになり、客数は前年並みだが、前年対比107%という好成績を達成した。
売上アップした理由は、客単価が7%以上アップしたからだ。リージョナルチェーンの競合スーパーやドラッグストアが多い商圏の中で、これはなかなか素晴らしい実績だ。
客単価の伸びは、商品の値上げではなく、大小の売場改善と実践的マーケティングの実践成果だ。
そして、今後は、潤沢になった手元資金を利用して、「攻めの戦略」を実行することになる。
目次
■営業利益アップは生産性アップ
営業利益がアップするということは、生産性がアップするということとほぼ同意語である。
今回の事例の店舗の場合は、営業利益が2倍になった。(ちなみにこの店舗は、業界平均以上の営業利益率を出していた。)
数値的に言うと、この店舗がもう1店舗出来たことと同じである。
そしてまた、店舗全体の投入人時は前年対比では微増であるが、売上が上がっても現場の作業は改善によって問題もなくスムーズに運営されている。
この両方の実績数値から、生産性自体が確実にアップしていることが理解いただけると思う。
また、
・過剰在庫の削減や適正化
・単品管理の手法を現場へ落とし込む
・一部の作業改善
・マテハンの仕組みを少し変更
など、作業改善活動としては、まだまだ初期段階であるが、作業工数を少しずつ削減して、店舗内で必要とする固定作業の投入人時はかなり削減できた。
これから更に、業務改善を本格化させる予定である。
作業のムダを無くして、単純作業の投入人時を削減すると同時に、販売促進などの投入人時を増やしていき、生産性を確実にアップさせる。
■売上低迷と営業利益低下への重要対策
この店舗もご多分に漏れず、コロナ禍と商品の値上げによって、売上は一時的にアップした。
しかし、これらは外部要因によるものであり、中長期的視点から観れば、価格競争や商品原価のさらなる値上げなどによる粗利益率の低下や、人件費などのコストアップが予想される。
ただ指をくわえて、何の改善も行わなければ、営業利益は確実に低下していく流れになる。
これらの問題を解決して成長のサイクルを回すためには、売上と粗利益をアップさせるための実践的マーケティングや、作業効率を高めるためのオペレーション(作業と仕組み)などの「基本原則を勉強し実践」していくことが間違いなく重要だ。
もし、基本原則を正しく理解していなければ、日々の行動が、今までの戦術の使い回しになってしまう。大きな成果は期待できないし、場合によってはコストが増えてしまうこともある。
今回紹介している事例の店舗では、お客様目線と戦略的視点を常に重視して、「戦術で売上を追わない」ことを考えるように伝えている。
売上は、「正しいプロセスの実行の結果」として付いてくるものと考えてもらいたい。
そして、そのことは、パート社員も含めた各担当者の能力を確実に向上させることでもあり、チームの生産性を確実に高めることが出来る。
■実践的マーケティングで「売上を取りに行く」次の戦略
営業利益が2倍になったということは、手元に潤沢な資金が残るということだ。
売場の魅力度は、ここ数か月間で確実に高まっている。その証明が客単価の7%アップである。油断は禁物だが「顧客満足度は確実に向上している」と考えて良いだろう。
今後、新規商品の導入や商品開発、そしてお客が「楽しさを実感できる売場づくり」など、さらなる売場の改善を加え、お客が感じる「他所との違い」を積み上げながら顧客満足度を高めるための改善活動を実行していく予定である。
これらのことを前提として、今後は集客増による売上を伸ばすという(フロントエンド)戦略を取っていく。
具体的には、集客のためのコモディティー商品の低価格販売や集客力のある企画を打ち出していく。
売上=客数×客単価×来店頻度、である。
これまでは、主に「客単価を増やすこと」と「来店頻度を増やすこと」を考えて改善を行ってきた。
今後は、「来店客数を増やすこと」と「再来店を促すこと」を実現していく。
実際に売上が伸びたとしても、しばらくの間は投入人時を増やさなくても、現場は十分対応できるものと考える。
商品ロスの削減や作業工数を減らす工夫など、作業効率は確実にアップしている。
念のために申し上げれば、こられの順番を逆に遣ってはいけない。売場の充実度が高くない店はほとんどの場合、良い結果を出せない。
■チェーンストアのスタンダードレベル・アップ
そして今後は、これらの成功事例を他店に水平展開することも重要なことになる。
簡単なことではないし、時間のかかる作業となる。
そのための組織の体制づくりも今後必要となる。
しかしこれは、チェーンストアの強みであり、現場のアイデアを持ち寄れば、全体としては相当なことが実現出来る。
さらに言えば、相当な知識と技術、そして指導力を持った商品部を有する会社は別として、本部のバイヤーから流れてくる指示で動いているという、これまでの仕組みでは、この先の厳しい競争の中で勝ち残っていくのは難しいと考える。
「この店でないと・・・」というような、お客からの高い支持を得ることは難しいと言えるだろう。マーケティング的な意味では差異化はなかなか実現できない。
今回の基幹店舗の成功事例は、会社にとっては非常に重要な意味を持つ。
そして、そのことにより仕事に対して自信を持ち、従業員のモチベーションを高めることにもつながった。
パート社員の中にもリーダーシップを発揮してくれている人も多い。
■店長のリーダーシップと結果の差
売上も営業利益も確実に向上する方向に向かっている。それらは、大小の改善活動によって実現できている。ただそれだけでは成果は拡大しない。
ここで重要なことは、店長が確実に高い意識を持ってリーダーシップをとってくれているということだ。
この店舗の店長は、私が訪問すると作業の段取りを立てて、当日は私の横にぴったりとついて私が言ったことに関しては、確実にメモを取るし質問もしてくる。
そして、本部の担当スタッフも、議事録を細部に渡り取って解りやすくまとめてくれて、社内共有を遣ってくれている。
・出てきた課題の詳細
・実行担当者と実行責任者
・実行日(スケジューリング)
・達成日(実現日)
そして、
「見ていない、聞いていないということが無い様に」とのコメント付きでSNSを使ってグループで共有してもらっている。
課題解決のための実践成果や成功事例の共有は、会社全体の自信にも繋がる。
社長や部長、バイヤー、チーフ、皆に言えることだが、いくら良い話を聞いても、いくら勉強しても、そこにリーダーシップが発揮されなければ、成果は大きく変わってしまう。
どのような素晴らしい会社でも、理論と実践とリーダーシップがあってこそ大きな成果につながる。
このことを絶対に忘れてはいけない。
リーダー自体が、チームの成長を妨げてしまうボトルネック(制約条件)にはなっては絶対にいけない。
お店は店長で決まる。会社は社長で決まるのであるから・・・。
■経営者が一番に取り組むべき課題
経営者は多くの課題を日々抱えている。
しかし、一番重要な課題と考えてもらいたいことは、「部下の教育と訓練」だ。
そして、その仕組みを社内でつくり根付かせることだ。
「教えてあげれば育つ」人は現場に沢山いるはずだ。
いろいろな高い能力を持った人が沢山いるはずだ。私は今まで多くの現場でそれを見てきている。
ひとり一人の従業員が、持っている力を十分に発揮できる環境を整えることが経営者の重要な仕事である。
例えば、
・商品の試食を皆でやって意見を出し合い販売促進を考える
・売場の改善について、ひとり一人のアイデアを出し合う
そして、
・良いアイデアに対しては、お客の迷惑になること以外は、すべて即実行する
など、現場の人たちのアイデアと能力を発揮できる組織に作り変えていくことが重要である。
現場のやる気と元気が生産性を高めることに繋がる。結果として、報酬を高くすることが可能となり、職場の定着率も高まることに繋がる。
今回の事例の会社も例外ではないし、組織としての「仕事の仕方」を少しずつ変えていってもらっている。
この店舗にも能力の高い人は沢山いる。素晴らしいアイデアを出してくれる人、行動してくれる人が沢山いる。
経営者や幹部は、このことを正しく理解し柔軟に対応してもらいたい。
今後、中小スーパーの経営は、本部からのトップダウンだけでは、厳しい競争には勝ち残っていけない。
求められることは、「個人個人の力を出し合えるチーム」を作り上げるための真のリーダーシップだ。
あなたの会社にも、さらなる大きなチャンスが有ることを忘れないでほしい。