『マージン・ミックス』、ほとんどの人が知らない戦略的・活用術【商人舎magazine7月号】原稿
今、スーパーマーケットが直面する課題の一つが、最低時給の引き上げです。
この変化は、新たな営業戦略を考える契機となる可能性を秘めています。
特に、時給が1000円を超える節目としての「103万円の壁」も注目すべき要素です。
ここでは、最低時給のアップをプラスに変え、利益の向上を果たす戦略について、詳しく解説していきます。
まずその前に、簡単なシミュレーションで考えてみます。
人件費率10%、パート社員比率70%の会社の場合で、パート社員の時給が5%アップしたと考えると、10%×0.7×0.05で、(売上比率)0.35%という数字が導き出せます。
あなたの会社では、この0.35%には、どの程度のインパクトがあるでしょうか?
1. 時間給アップのメリットとデメリットと103万円の壁
最低時給の引き上げは、従業員のモチベーション向上やサービス品質の向上など、多くのメリットをもたらします。
しかし、その一方で、コストの上昇や営業利益率の低下といったデメリットも懸念されます。また、この変化により、従業員が年収103万円を超えてしまう「103万円の壁」として知られる問題も浮上します。
※基礎控除48万円と給与所得控除の最低額55万円を足した金額が103万円になる。 1年間の収入が103万円以下であれば、基礎控除と給与所得控除を引くとゼロになるため、所得税は発生しない。
2. 人件費アップを吸収するための粗利益アップとコストダウン
時間給の引き上げによるコスト増加を吸収するためには、具体的な手段が必要です。
例えば、新たな魅力的な商品の導入や高付加価値商品の拡充によって、粗利益を増やすことができます。
また、エネルギーコストの削減や効率的な在庫管理の導入などにより、コストをダウンさせることも重要です。
3. POSデータの分析と戦略的活用と単品別管理の重要性
売上データの詳細な分析は、商品ごとの売れ行きを理解する上で欠かせません。
この際、単品別管理を行い、商品の需要の変化や顧客の嗜好を的確に把握することが戦略的な活用のポイントです。これにより、的確な在庫管理を行うことで、商品ロスや欠品、人時ロスを減らすことができて、売場の効率もアップさせることが可能となります。
4. スタッフの成長のための教育トレーニングと作業効率の向上
スタッフのスキル向上は、サービス品質向上と業務効率の向上を可能にします。
教育とトレーニングを通じて、従業員が新たなスキルを習得する機会を提供し、作業効率を向上させることが大切でし、これにより、生産性の向上と顧客満足度の向上をトレードオンで実現できます。
※トレードオフは、何かを得ると、別の何かを失う、相容れない関係(二律背反)のこと
トレードオンは、どちらもの課題を両立させる考え方
5. 利益アップのための売場最適化の考え方と顧客ニーズ
売場の最適化は、顧客のニーズやトレンド、季節商品の需要などを考慮に入れる必要があります。顧客の好みや嗜好に合わせて、商品の配置や陳列演出、価値提案などを最適化することで、購買意欲を引き出すことが可能になります。
また、トレンドや季節や環境の変化に合わせたキャンペーンや特集も利益向上のカギとなるでしょう。
6. コスト削減の優先順位と具体的例と人件費削減の重要性
コスト削減は収益向上への大きな鍵ですが、その中でも人件費削減のバランスが重要です。電力使用のコントロールや適切な在庫管理(削減)によるコスト(商品ロスと人件費)削減とを並行して改善活動を実施します。
また、言うまでもなく、無理のない適正な人員配置や公正な評価制度の仕組みづくりなど、従業員のモチベーションを保つことは重要なポイントです。
その他、効率的なスケジュール管理やマルチタスク・トレーニングによる業務効率の向上などが挙げられます。
※マルチタスク・トレーニングは、一人の人が複数の仕事や作業を担当できるようにすること教育訓練のこと
これらの戦略や仕組みを組み合わせることで、最低時給1,000円超えのピンチをチャンスに変えるという前向きな思考で、収益の持続的な向上と事業の成長を考えていきましょう。
そして、今回の最低時給1,000円は、ゴールではなく、あくまでも通過点として考えるべきでしよう。
この機会を、会社全体の「生産性を高める」ための意識と行動変革のきっかけにして頂くことを切望します。
そして私は、このスーパー業界の賃金をもっと高いものにするべきだと考えています。
そうでなければ、従業員の定着率は低下して、当然優秀な人材も獲得できません。
「企業の成長は人ありき」であり、そのためには、会社の生産性を高めて、利益を高める努力をする必要があるからです。
最初に述べた、0.35%のコストの上昇は、大きな問題では無く、これまで述べた改善プロセスを実行することで十分カバーできるでしょう。
そもそも、それを吸収しての増益を考えていきましょう。
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