生産性を上げる、戦略的人事考課 【商人舎magazine12月号】原稿
ドラッグストアの出店が止まらない。
スーパーマーケットにとって重要なことは、自店のポジショニングとその営業戦略です。
スーパーマーケットの人達は、ドラッグストアの安い店頭売価を気にする。
しかし、ハッキリ言って、そこにフォーカスしていても、何の解決策にもなりません。
そして、ドラッグストアのプロモーションや接客など売場を深く観察して、その中身(強さ)を正しく理解している人も少ないように思います。
スーパーマーケットは、『価格』だけを考えるのではなく、お客が体感できる『価値』に焦点を当てる必要が有ります。
そして、自店のコンセプトと戦略とに照らし合わせて、今一度、「何が出来るか」を考える必要があります。
経営資源を無駄なく活用して、効率的に行動するための一つの方法についに、弊社のクライアントの事例を交えて解説していきます。
中立化と差別化を正しく理解する
スーパーマーケットの場合は、「生鮮部門を強化する」ことで、『差別化』が可能になるということを正しく理解して、戦略を立て、行動する必要が有ります。
ドラッグストアなど、競合店の価格を無視しろと言うことではないですが、それだけを考えていてもビジネスが成り立ちません。
価格は、戦略上の一部です。
競合店の価格を無視することできませんが、価格が全てではないことも理解する必要が有ります。
市場の中で、自店の弱みが価格であるならば、『中立化』を意識して、少しでもその弱みを埋めることです。
そのためには、生産性を上げて、経費率を下げること、そして、自社の強みに磨きをかけて、粗利益を拡大することを考える必要があります。
『差別化』は、競合店が真似できないところまで、自社の強みを持っていくかが重要になってきます。
また、それを実現するために、時間やお金に余裕を持たせる意味から、業務改善を行い、生産性を向上させることを考えることが重要です。
その時に活用したいのが、相乗積(マージンミックス)です。
相乗積の活用は、差別化戦略の策定にとって、大きな武器になってくれます。
ドラッグストアのマージン・ミックス
ドラッグストアは、薬や化粧品が粗利益率が高く、その分食品や日用雑貨を安くして販売します。
マーケティングの見方をすると、集客のためのフロントエンドが食品や日用雑貨の低価格で、バックエンドが薬や化粧品の高値入れ品なのです。
かなりアバウトですが、これがドラッグストアのマージン・ミックスの構図です。
同じようにスーパーマーケットの場合を考えると、フロントエンドが食品や日用雑貨の低価格で、生鮮品や惣菜をバックエンドです。
ところが、ドラッグストアの台頭によって、これまでスーパーマーケットのフロントエンドであったものが通用しなくなって来ています。
そこで考えたいのが、支持率の高い野菜や鮮魚などをフロントエンドに設定することです。そのことによって集客力を格段にアップさせることが出来ます。
集客力が増すということは、販促費用の抑制効果にも繋がることになります。
日々活用する相乗積(マージン・ミックス)
日々活用すべきが、値入れミックスや粗利益ミックスですが、頭の中で解っていても、日々活用している人は少ないように思います。
マージン・ミックスを、小分類、中分類、大分類単位で計画して、実行しながら定期的に進捗状況をデータで確認し、必要に応じてコントロールしていきます。
例えば、スーパーマーケットの青果部門の場合を考えてみます。
支持率の高い野菜を薄利多売でフロントエンドに設定します。野菜が新鮮で安いという店には、日々お客が集まりやすくなります。
逆に果物は、徹底的に味の良い物をこだわり、品揃えをして、商品価値をお客に打ち出して、粗利益を高くすることを考えます。
この場合、果物はバックエンドであり、野菜の低値入れ販売の原資として、バックアップもします。
上記の表を相乗積の計算で表すと以下の表になります。
新鮮で安い野菜と美味しい果物が揃うスーパーマーケットは、地域で絶対的に強くなるでしょう。
もっと言えば、果物や肉など、他の部門で稼いだ粗利益を、戦略的に野菜の低価格販売に振り分けることが出来れば、店舗は更に強みを増すことになります。
この様なことが、粗利益を活用した、マージン・ミックスです。
戦略を策定するときの相乗積(マージン・ミックス)
ここからは、営業利益のマージン・ミックスで、より戦略的な考え方になります。
粗利益を活用した、マージン・ミックスは、フロントエンドを鮮明にして、集客力を高めて、付加価値を出せる商品やカテゴリー(部門)で、バックエンドとして稼ぎ、トータルで目標の粗利益高を確保するという方法です。
一方、営業利益ミックスは、各部門が出している営業利益のマージン・ミックスを考えるという手法です。
以下から、弊社クライアントの事例を見ながら解説していきます。
■ 部門別損益表(単月) <表①>
営業利益ミックスによって、自社の競争優位の部分を徹底的に強化して、差別化をはかり競争力をアップします。
粗利益ミックスは、部門やカテゴリー間の『売上高構成比』に『粗利益率』を掛けて求めますが、営業利益ミックスは、『売上高構成比』に各部門が出した『営業利益』を掛けて求めます。
このやり方を活用できれば、営業戦略策定のための強い武器を持つことになりえます。
生産性を上げて営業利益を拡大するためのオペレーションや仕組みづくりなどについては、私の過去の記事を参照していただきたいと思います。
ここでは、マージン・ミックスを使って、戦略的にビジネスを考えることについて解説していきます。
下の表は、上記の部門別損益表<表①>を活用して、粗利益と営業利益の相乗積をそれぞれ算出したものです。
多くの企業では、売上と粗利益を経営判断に使っているところが多くあります。
しかし、現在のように、業態を超えた競争の時代になって来ると、表層的な数値分析では、経営判断を誤ることにもなりかねません。そのことを教えてくれるのも下の表です。
粗利益を使った『相乗積①』(表・左部)を見ると、グロサリー部門の相乗積(粗利益貢献度)が5.99とズバ抜けて高くなっています。
しかし、営業利益の『相乗積②』(表・右部)を見てみると、相乗積(営業利益貢献度)では-0.13になっています。あくまでも単月の数値ですが、営業利益は赤字になっていて、店舗の営業利益の引き下げる状態です。
■ 粗利益と営業利益の相乗積 <表②>
経費の中に、レジ部門費と本部費を参入済み↑
一方、畜産部門の粗利益を使った『相乗積①』は、平均値に近い3.92という数値ですが、営業利益の『相乗積②』を見てみると、0.95と各部門の中で特出していていることが解ります。畜産部門が店舗の営業利益拡大に大きく貢献していることが解ります。
この事例で、「実績数値の見方を誤ると、戦略の方向性(戦略)を誤る」ということがご理解していただけると思います。
これらのことは、あくまでもこの事例について言えることですが、ぜひ自社の実績数値を当てはめて、検証していただきたいと思います。
マージン・ミックス1 粗利益の相乗積を使って戦略を立てる
粗利益は、儲けではないし、営業利益を構成する一要素です。
繰り返しますが、売上高や粗利益高など、表層的な数値分析では、経営判断を誤ります。
上記事例の店舗について、改善課題とその解決策(予算化)について、簡単に解説します。
①青果部門は、生産者が持ち込む地場野菜の売上高比率が高く、加工作業全体の工数が大幅に少なくて済む。
その分、カットフルーツなどの商品開発や在庫削減と作業削減によって、粗利益2%アップと経費1%ダウンを目指す。
②水産部門は、数量管理が甘くなっている。
開店時の欠品や売れ筋の欠品の削減と、値引きが常態化している商品の削減を行うことによって、2%の粗利益アップを目指す。
③畜産部門は、欠品が多く発生している。
それを改善することによって、粗利益1%アップを目指す。
④総菜部門は、開店時揚げ物類を中心に欠品が多い。
ここの改善によって、1%の売上構成比アップと粗利益3%アップを目指す
⑤日配部門とグロサリー部門に関しては、ドラッグストアなどとの競合を考え、グロサリー部門の1%程度の売上高構成比のダウンと、業務改善によって、両部門の経費2%ダウンを目指す。
など、部門別の具体的改善目標を設定して、作ったのが下の表③になります。
■ 改善計画を予算化した、粗利益と営業利益の相乗積 <表③>
上記、表③は、生鮮部門を強化することにシフトして、全体として経費を削減することで、競争力をアップして、営業利益は微増を考える計画となっています。
マージン・ミックス 2 営業利益ミックスで独自の強みを創
下の表④は、生鮮部門全体を徹底的に強化するというシミュレーションです。
この店舗は、生産者が持ち込む地場野菜コーナーが有り、新鮮な野菜などはお客から大人気です。結果的に、野菜の支持率が高く、売上高構成比も高くなっています。
そこで、人気の野菜にプラスして、第二位の支持率を誇る鮮魚の支持率アップをはかることを考えます。
鮮魚の粗利益を8%下げて、売上高構成比を1.5ポイントアップさせる戦略です。
特に生魚や刺身、鮮魚寿司などに重点を置いて、単品やカテゴリーを絞って、値入れを低く設定し、値ごろ感を打ち出します。
そして、完全売り切りなどで、鮮度を徹底してアピールしていきます。
それらを実現するための原資として、惣菜の粗利益を4%アップすることや、青果、水産、日配、グロサリー各部門の経費削減をはかります。
それらの計画を元に作ったのが下の表④になります。
■ 戦略的に考えた場合の相乗積 <表④>
この計画の場合、粗利益は全体として低下しているのですが、営業利益はアップしています。
また、売上高のアップは加味していませんので、売上高がアップすれば、更に営業利益率はアップすることになります。
整えるべき諸条件
言うまでもなく、部門別損益表の作成が必要となります。
この場合の会計は、管理会計です。税務署に申告するための財務会計とは性格が異なります。
営業戦略を考え、それを管理(コントロール)する上で作成する損益計算書という意味です。
経営管理者の意思決定や業績測定、評価制度などに用いるものです。
※部門別損益表の作成と運用方法については、商人舎magazine、2017年01月10日号
【『部門別損益管理』で、賢く・無駄なく・戦略的に稼ぐ!】を参照ください。
その意味から、部門別損益表を月毎の締日から出来るだけ早い時期に完成させて、分析に取り掛かることが求められます。
そのためには、取引先企業と店舗、そして経理部門とのスムーズな連携が必要になってきます。
また、シミュレーションである計画を、実行に移し、日々検証を加えて、計画と実績のギャップを確認し、必要に応じて修正を加えることを行います。
これらのプロセスを確実にすることが重要であり、実行と検証を繰り返すことで、マネジメントの勘所を鍛え血肉化していきます。
差別化の刃を磨け
ドラッグストアと同じ土俵で戦うことを考えてはいけません。そのことは、地域のお客のためにもなりません。
重要なことは、スーパーマーケットとして生鮮品を中心とした、高鮮度で高品質の商品をお客に届けることです。
併せて、商品の持つ価値や、その使い方や食べ方と言った食の提案を行うことです。
このことが、ポジショニングです。
地域でのターゲット顧客の頭の中に、独自の立つ位置を確立してもらいます。差別化されたユニークな自店の価値を顧客に認めてもらうのです。
そのためには、マーチャンダイジング(商品化政策)、マーケティング(売れる仕組みづくり)共に、自社の得意とする(出来る)ことに注力して、そこに時間とお金を集中投資することが求められます。
その活動の結果として、スーパーマーケットは、地域のお客の食生活を豊かにすることが出来るのです。
限界はあなたの頭の中にある
クライアントの実例をもとに、営業戦略のシミュレーションを立ててみましたが、自社(店)の実情に合わせて幾らでも、ゴールや目標、方法など、中身はいくらでも変えることが出来ます。
重要なことは、計画(Plan)を立て、現場で実行(Do)してみることです。
そして、定期的に検証と評価行い、適時軌道修正を実施することです。
いきなり大きな成果を出すことは難しいかもしれません。リスクも伴います。
経費削減や在庫削減、欠品対策など、確実に一つひとつの改善からスタートすることは何の問題も有りません。
その活動によって、目標やゴールは確実に近付きます。
もし、業務改善の要領を得なければ、経験豊富で実績を出している人に聞くことも良いでしょう。成功の可能性が高くなり、改善のスピードも増します。
あなたの会社の成長と可能性を抑制しているのは、競合店や従業員の能力などではなく、リーダーの「うちの会社の実力は、こんなもんだろう」という“思い込み”です。
現状のやり方で考えていると、到達点は低いものになってしまいます。
目標達成のための行動計画、協力者は、計画実現のためにふさわしいと言えるでしょうか。
望む結果、高い目標に焦点を当てているか。今一度考えてみる必要が有ります。
月刊商人舎[電子版]
<連載記事一覧>は、下をクリックして、ご覧いただけます。
⇒ 新谷千里の「お客と社員に支持される生産性向上策」
■ 『スーパーの経営戦略』 その他の参考記事
参考記事はこちらから、ご覧ください ⇒ スーパーの経営戦略
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★