管理職になることは最終ゴールではない
退職金をリスクマネジメントの観点から考えるには、ポイントが3点あります。
・人材フロー・マネジメントから見た退職金支給カーブのあり方
・ルールの確立と制度変更の注意点
・支給原資の保全手段の選択と財務上のリスク
今回ははじめの2つのポイントについてご説明します。
人材フロー・マネジメント
人事戦略を考える際にもっとも重視しなければならないポイントは、採用から退職までの人材フローのマネジメントを一貫したもので設計・運用することです。
この点で忘れてはならないのは、退職金制度のあり方が人材フローの考え方と整合性を保っていることです。たとえば、新卒定期採用・長期継続雇用・年功序列をベースとした人材マネジメントを目指している企業であれば、退職金の支給額カーブは一定の勤続年数を経過すると急激に支給額が増加するような型をしています。
これは、退職金を将来の「ご褒美」としているからです。従業員にメッセージとして「長く貢献してくれれば」と伝えています。
また、最近では実力レベルが向上しないかぎりは一定の年数を超えると退職金が増加しないような支給額カーブを設計する企業が増えています。
「成果主義」というこれまで伝えてきたメッセージとは違うことが明らかです。
しかし、現行の退職金制度を見直してみると、一般的にはリスクマネジメントの観点から問題点が指摘できます。
つまり、定年年齢の上昇にともなって退職金の支給額カーブを「成果主義」に変更してきた企業はあるものの、まだまだ勤続年数が20年を超えると退職金が急激に伸びるものが多くを占めています。
これでは、比較的若いうちに自らの判断でキャリアを転換しようとする動きを抑制してしまい、企業と個人のもたれあいをうながすことになりかねません。
その結果、事業環境の長期的な安定が望みがたい現状では、企業にとっても個人にとってもリスクを高めていくものと考えられます。
ルールの確立と制度変更の注意点
労働法上は、退職手当を支給するのであれば、それに関する事項を明示しなければなりません。
また、支給水準の変更などについては、原則として労働条件の1つであるため、変更には従業員の同意が必要になります。
そこで、年功ベースの退職金支給額カーブを実力主義に基づくものに変えていくには、現に在籍している従業員全員の変更時点での退職金を保証したうえで、モデル退職金のカーブを変更することが求められます。
ルール変更については、従業員への十分な説明と理解が必要になります。
支給原資の保全手段の選択と財務上のリスク
支給原資を外部保全していない場合のリスク退職金は、毎月定期的に支給する給与に比べて、一度に支給する金額が大きく、発生時期にバラツキがあります。
そこで、キャッシュフローを安定させるには、支出を平準化しておくことが必要でしょう。
代表的なものに、中小企業退職金共済制度(略称:中退共制度)があります。
この中小企業退職金共済制度は簡単な手続きで退職金制度を設けることができ、導入コストも少なくて済みます。
このように外部積立を活用することも検討する必要があります。