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菊池浩史

「住まい×消費者×教育」のハイブリッドを目指す専門家

菊池浩史(きくちひろし)

住まいの消費者教育研究所

コラム

住まいの終活と住教育②

2023年3月22日

テーマ:空き家と住まいの終活

コラムカテゴリ:住宅・建物

(はじめに)
住まいの終活と住教育の2回目は、住まいの終活のうち発生抑制がテーマです。住宅所有者の死後に自宅をできる限り空き家にしないためにはどうしたら良いか、という事前対策の取組みです。

最初に住まいの終活が必要な背景となる空き家の現状を確認し、続いて発生抑制の狙いや具体策これらの有効性を考えてみます。

(増え続ける空き家・放置される空き家)
2018年住宅・土地統計調査(総務省)によると、2018年の空き家数約850万戸、空き家率13.6%と年々増加しています。今後、持ち家率が高い高齢者、中でも単身高齢者世帯が増えていくことを勘案すれば、空き家の増加は加速していきます。

ところが国交省の調査によると空き家所有者の約75%は特段の対応はしておらず、空き家期間も5年以上が半数近くを占め、一旦空き家になると長期化する傾向が見られます。そのため、空き家にさせないための事前の取組みが重要になってきます。

(発生抑制の位置づけと必要性)
~意識変容と行動変容~
自宅を空き家にさせない発生抑制のためには、所有者等の意識変容と行動変容が求められます。つまり、空き家のリスクと対策の重要性を理解し、発生を予防する事前対策を実践していくことです。

今でなく後でやろうといった先送り傾向や、現状で特に問題がないからすぐに何かをしなくていいだろうという現状維持のバイアスといった特性が人間にはあります。自宅についても、「親も元気だからまだ先の話」「今すぐ困っていない」「いつかやろう」のような声を聞きます。

つまり、所有者等への意思変容や行動変容を促す上手な仕掛けを考えなければなりません。

(発生抑制のために何をするか)
発生抑制とは、所有者等が生前に自宅の対処方針を決めておくことです。例えば、そのためにお家のリレーノートのようなエンディングノートの住宅版を作成するという方法があります。

このノートには、自宅の現状と課題を知り、それを家族で共有し次世代への伝言の役割があります。自宅をどのように利活用していくかという対処方針つくりの検討資料としても使えます。

意識変容に向けては、住まいの終活に関するセミナーや相談会に参加し、そこで空き家のリスクや対策について学び、理解を深めることもできます。次に自宅の登記簿事項証明書を取得し、現在の権利状況を確認するといった行動変容に繋がっていくことも期待できます。

例えば、リバースモーゲージは生前中に死亡時の空き家の売却を決めているという意味で、発生抑制の一手法としての意味もあります。このリバースモーゲージとは、自宅を担保に生活資金を借入し、所有者は自宅に引き続き住み続け、所有者が死亡した時に担保になっていた不動産を処分し、借入金を返済する仕組みです。

(事前対策の有効性)
発生抑制に取り組むタイミングには、相続発生の前、空き家が特定空家に指定される前、そして所有者が認知症になるなど行為制限者になる前が望ましいと言えます。

事前対策の有効性を経済的・時間的・精神的な観点で事後対策と比べてみます。

まずは、事前対策をすることで、家計への負担や空き家対策に伴う経済的な負担を軽減することができます。例えば、修繕費です。空き家期間が長期化するほど建物の劣化が加速するため、当然に費用は嵩んでいきます。また、居住しなくても水道光熱費や公租公課の負担は続きます。

次に、自宅が空家になりその後時間が経過していけば、所有者等の関心は徐々に低下しがちです。その間に二次相続が発生すれば、相続人などの関係者が増えて合意形成にも時間を要し、更に話し合いが難航することが予想されます。

また、精神的な負担も無視できません。上記の利害調整に留まらず、空き家がもたらす外部不経済によって、近隣からの苦情や行政の指導などを受けることがあります。空き家対策が後手に回れば、その可能性が高くなっていきます。

(まとめ)
このように空き家の発生抑制に必要な事前対策の効果を高めるには、いつ、何をしたら良いかを所有者が理解しておかなければなりません。空き家対策の中心はまだまだ事後対策ですが、事前対策への取組みも徐々に増えてきています。それには、所有者の意識変容や行動変容をどうやって促していくか、これがポイントと言えるでしょう。

以上

この記事を書いたプロ

菊池浩史

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菊池浩史(住まいの消費者教育研究所)

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