金融教育における行動経済学の活用~住まいの終活を考えるシリーズ⑨~
(規定因の種類)
今回のコラムでは、空き家に対する関心に留まっている「関心期」から、行動へ着手する「行動期」へ移行する規定因について考察する。具体的な因子には、「空き家所有者の負担を軽減させる」「空き家対策予防の早期着手の長所を認知させる」「具体的に何をするかを理解させる」「行動をサポートする」「一緒に行動する者の影響力」などがある。
(負担感の軽減)
空き家を発生させてはいけないという認識があっても、現状維持バイアスが働いて、具体的な行動が先送りされることは少なくない。そのなかで一歩を踏み出すために、住宅所有者の負担感を軽くすることは極めて有効と考えられる。
行動ができる前提として、目標の設定や計画作成等の準備が必要となるが、それらをスムーズに進めて行くには、次のような点に留意する必要がある。
・いつ頃に何をするか、という大まかな工程表を示し全体像を示すことで安心感を与える。
・実行可能性に十分配慮し、出来ることから始めて、段階を踏みながら行動を重ねて行く。
・情報提供にあたっては、「手に取りやすい、分かりやすい、見やすい」に配慮して、行動計画の見本を示すことで、これから取り組むことに親近感を持たせる。
・年齢や定年のタイミング、子どもの独立などのライフイベントに行動開始時期を合わせることで、始めるきっかけづくりに工夫する。
(損得のメッセージ)
目の前に迫ってくる損得には敏感となる一方で、将来発生するかもしれない損得には実感が伴いにくいというバイアスがある。空き家対策においても同様なことが言えるため、中長期的な視点から望ましい行動に繋げるには、直感的に訴求力のあるインセンティブが欠かせない。
そのためには、行動する場合と行動を先送りする場合とを比較し、例えば、現在と10年後の費用面でのメリットとデメリットを具体的にアピールすることが有効と考えられる。
何も準備しなかった場合に、自宅の相続人か決まっていない、自宅の権利証や境界確認書が見つからない、名義人のおじいちゃんが認知症になって売却しようにもできない、家財が多く過ぎて自宅を貸し出せない、などの困りごとに直面するケースは少なくない。その結果、ついつい時間ばかりが経過して、放置空き家になりかねないことを具体的に伝えていくことだ。
(行動のサポート)
自宅が空き家になるかもしれないという危機感を抱きながらも、何から始めていいのか、誰に相談したらいいのか分からないため、具体的な行動に移せない住宅所有者は少なくない。この場合、どのようなサポートが必要であろうか。
自宅の将来を含めた高齢期のライフプランを作り、これからのライフステージにおける段階で、何をしたらいいかといった目安があれば、イメージも沸きやすくなる。当然のことであるが、住まいはこれからの暮らし方や生活と切り離すはできない。
こういったライフプランの作成やそれをスムーズに進めていくには、家族に留まらず外部の専門家などの適宜・適切なサポートが欠かせない。但し、相談する窓口が多くなれば、行動することが億劫になりやすい。双方向によるワンストップサービスで支援できれば、住宅所有者も一歩が踏み出しやすくなるだろう。そして、こういった関係者をコーディネートする総合案内機能を持つ存在があればより安心感は増していく。
この役割はNPO組織や行政などの非営利団体などに留まらず、営利団体でも担っているケースがある。この場合に、関係者間の連携を如何に図っていくか、そして運営資金をどうやって確保していくかがポイントになってくる。
(他者の影響)
何かの行動をする場合、一人よりも仲間と一緒に行動することで抵抗感が少なくなることはよく言われている。例えば、自治会のメンバーと一緒に活動することで、お互いの行動改善や成功例を共有しやすくなり、相乗効果を生みやすいという面は否定できない。
また、自治会などの地縁組織にはコミュニティリーダーがいたりする。その者が空き家問題への意識が高いリーダーであれば、そのメンバーへの影響力は少なくないため、重い腰を上げる手助けにもなり得る。
コミュニティ全体が一気に動き出す必要は決してない。当初は少数メンバーから始めて、徐々に全体へとその動きが拡大していく方が寧ろ自然な流れだと言える。「あの家は空き家を解体した」「お隣の空き家の植栽はいつも手入れがされている」といったコミュニティ内の他者が与える影響は無視できない。
(できることから着手しよう)
行動期の初期段階にやっておきたいことに、次のようなものがある。
・自宅(土地・建物)登記事項証明書等の書類の点検・確認する
・登記の記載事項と現状を一致させる
・土地・建物の調査・確認(境界、越境、権利関係など)する
・家財道具等の整理、処分を始める
・建物を適正に管理する など
そして、セミナーや講演、個別相談会などに参加して、空き家に対する関心が生まれたいわゆる「関心期」から、あまり時間を空けないで、上記のような行動に着手することが望ましい。
次回は、「行動期」から「習慣期」に移行する規定因を取り上げる。